早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東京大学
大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻

大久保 達也 教授(専攻長)

おおくぼ・たつや
1960年東京生まれ。’83年東京大学工学部化学工学科卒業。’88年東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻博士課程修了(工学博士)。’88年九州大学工学部助手。’91年東京大学工学部助手。’94年同講師。’97年東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻助教授。’06年より現職。この間’93年米カリフォルニア工科大学客員研究員。’97年科学技術振興事業団さきがけ研究者。’02年科学技術振興機構戦略創造推進事業研究者。化学工学会奨励賞(’92年)。化学工学会研究賞(’09年)。
「大久保・下嶋研究室」のURLアドレスはコチラ↓
http://www.zeolite.t.u-tokyo.ac.jp/index.htm

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素材に新機能を吹き込むナノテク化学工学

大久保研究室の入る工学部5号館
本郷キャンパス周りの赤レンガ塀

日本におけるナノテクノロジー研究の第一人者の登場である。東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻の大久保達也教授だ(学部担当は工学部化学システム工学科)。研究内容について伺う前に、まずは所属する学部の化学システム工学科について説明していただこう。

「化学は物質の状態やその反応に関する学問です。化学システム工学科は化学をベースにして、世の中で役立つ科学と技術との研究をしている学科です。化学システム工学は新しい学問分野でして、とくに環境やエネルギー・資源・安心安全などの研究課題に取り組んでいます」

人類が直面する諸課題に対して、従来までにない視点から問題解決を図っていく化学システム工学、その新分野を担う人材育成を図るための学科といえる。

「化学の研究というのはそれ自体たいへん面白いため、得てしてそのなかに閉じこもってしまいがちです。しかし我々は物質世界の化学的探求を基盤にしつつも、現実の諸課題にアプローチしていくことを心掛けています。
つまりは高効率でリサイクルが可能な太陽電池の開発、ありふれた(希少でない)物質を触媒にして車排気ガスを清浄化する研究、あるいは安心安全な社会とはどのように設計されるべきかなど――これらを個別あるいは相互に関連づけながら研究していくことが求められているのです」

つぎに大久保先生の研究テーマであるナノテク材料の話に移ろう。まずはじめに、大久保先生は「色彩」の話から始めた。

「これまで、色を新たに化学的に創るとなると、色素分子を合成したり、花火などではイオンを用いた炎色反応などを利用したりしていました。ところが自然界にある『モルフォチョウ』(モルフォ蝶・学名Morpho)の美しく青いその翅(はね)は、その構造として青い色だけを反射させて色をつくりだしています。また、宝石のオパールはシリカ(二酸化ケイ素、英silica)ですから本来は透明のはずですが、シリカが球状に整然と並ぶことにより、見る角度で鮮やかに発色します」

いずれも『光の回折』によって引き起こされる自然現象だ。これと同じようにナノスケールの構造を人工的に整えて並べていく最新技術により、色に限らずユニークな新機能が出せるようになってきている。これらがナノテクの大きな成果のひとつである。

「我々の研究室の成果を利用して、反射しにくいディスプレーパネルや、電気エネルギーを光エネルギーに高効率で変換する照明などへの実用化が検討されています。こうした構造制御による新規機能の創出は、従来方法にくらべて環境への負荷が大幅に低減される可能性を秘めています」

世の中で役立つものをシンプルに創出していく

東大正門から続くイチョウ並木
初冬の東京大学工学部建物群

さらに大久保先生は、ゼオライト(沸石、英zeolite)に代表される多孔性無機材料の研究で知られ、この分野の権威と目されている。

「これからのモノづくりで大切なのは、ごくありふれた材料をコントロールして新たな高機能性を実現していくことなのです。その代表たるゼオライトは、たとえば洗剤に加えられ、かつてのリン含有物質に代わって水を軟水化する役目を果たしています。ゼオライトそのものは酸素とシリコン・アルミで合成したものですから、自然界に排水されても砂に戻るだけで環境への負荷が小さいのです」

ゼオライトが洗剤に使われているのはイオン交換の性質を利用したものだ。このほかに重質油の分解やナイロン原料の製造での触媒、あるいはペットボトルなどの原料となるパラキシレンの分離・精製のときの吸着材などにも広く利用されている。そして、いま大久保先生が着目して研究しているのが、ディーゼルエンジンの燃焼触媒としての応用である。

「ガソリンにくらべてもディーゼルは燃費効率が非常に良いのですが、問題は排気ガスに含まれる煤(すす)でした。これまでは貴金属やレアアースといった希少資源を触媒に使用して低減化を図ってきました。これらをアルカリ金属塩とゼオライトで代替することで、煤の出ない燃焼技術の開発に取り組んでいます。海水と砂からできる触媒技術の開発です」

走りながら考えられる人材が育つ研究室

伝統感のある「工学部列品館」
ゼオライト結晶を手に大久保先生

東京大学化学システム学科での学部生の配属は4年次4月からとなる。それぞれの配属先については学生たちの話し合いで決められるということだ。こうして大久保先生の研究室には毎年4~6人の学部生が配属されてくる。

「4月に配属になった学部生には、まずは基本的な実験技術などのトレーニングを積んでもらいます。それに併行して各人の卒業研究のテーマを絞り込みつつ決めていきます。わたしを含めた研究室の教員・研究員と個々の学生との話し合いにより、4月中までには概要を決めて具体的な研究に入ってもらいます」

大久保研究室では、全員参加の「全体ゼミ(談話会)」と「グループディスカッション」(4~5グループに分けられる)がどちらも毎週1回開かれる。

「わたしの研究室ではバイオからナノ空間材料まで幅広く扱っていますので、その全体像を理解するための談話会と、それぞれの専門性を深めてもらうためのグループディスカッションの2段構えがどうしても必要なのです」

さらに、研究室OB・OGと現役メンバーとの交流が緊密なことも大久保研究室の特色といえる。毎年夏に開催される研究室旅行や新年会には家族連れで多くの卒業生が参加する。現役の学生・研究生が日常的に卒業生から教えられることも多いそうだ。

あらためて大久保先生が教育指導で心掛けていることについては次のように語る。

「自律的に考えられる人になって欲しいということに尽きます。実験が中心になる研究室では、実験作業と併行しながら考えを様々めぐらせていきます。つまり『走りながら考える』ことを苦痛に感じないことが求められます。さらには、この研究室には世代や国籍を超えた人々が集まってきますから、コミュニケーションスキルを身に付けて、広い視野と深い専門知識をもつよう心掛けてほしいですね」

ちなみに、受験生の皆さんの研究室見学についても大歓迎だと仰っていたこともここに記しておこう。

こんな生徒に来てほしい

自らやりたいことがあるのならば、まずはその世界に飛び込んでみることです。はじめから自分の可能性を狭めるようなことはしないで、まずはチャレンジしてほしい。そうしないと楽しいことも何も生まれません。たとえ失敗しても、その積み重ねの先に成功も見えて来るはずですから。できない理由は必ずあるものですが、それを探しまくるよりは、どうしたらうまくいくかを考えてほしいと思いますね。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。