早稲田塾
GOOD PROFESSOR

芝浦工業大学
デザイン工学部 デザイン工学科

谷口 大造 教授

たにぐち・たいぞう
1964年ブラジル・サンパウロ生まれ。’89年東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修士課程修了。’89年丹下健三・都市・建築設計事務所入所。’99年スタジオトポス設立。’04年鳥取環境大学環境デザイン学科(現建築・環境デザイン学科)准教授。’10年芝浦工業大学デザイン工学部教授。
主な建築デザイン作品には、「音羽ホール」(日経BP社「建築家が選んだ名建築ガイド」05年選定)「龍香洞」(日本建築家協会「現代日本の建築家 優秀建築選2007」08年選定)がある。著作には『ケンチクカ ― 芸大建築科100年 建築家1100人』(編集メンバー・建築資料研究社)『建築グルメマップ「東京を歩こう」』(共著・エクスナレッジ)がある。
谷口先生が主宰する建築設計事務所『スタジオトポス』のURLアドレスはコチラ↓
http://www.tea-meeting.com/index.html

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他人・環境・自分と「対話」していく建築設計

芝浦工業大学芝浦キャンパス全景
ここで学ぶのはデザイン工学科の3~4年生だけ

芝浦工業大学には年度ごとに各学部からひとり優秀な教員を選定して表彰する「教育賞」の制度がある。しかし、芝浦工業大学デザイン工学部は’09年に開設されたばかりの新学部ということもあり、これまで教員表彰を催してこなかった。

昨年度(11年度)から表彰に参加することになり、その栄えある第1回教育賞を受けたのが、今回紹介する谷口大造教授である。「まぁ、たまたまですよ」と謙遜しつつも、今回の受賞について谷口先生は次のように語る。

「この受賞選定の根拠は学生への授業アンケートです。つまり、わたしの授業の指導法を学生たちが受け入れて評価してくれた経緯があるわけですから、これは素直にうれしいですね」

なにより教えられる側から最高の評価を受けるのは教員冥利に尽きると言っていい。さて、その芝浦工業大学デザイン工学部はデザイン工学科だけの単科学部であり、(1)建築・空間デザイン(2)エンジニアリングデザイン(3)プロダクトデザイン――の3領域からなる。これら学部・学科の特徴についても語っていただこう。

「デザイン教育と工学教育の良いところを融合させて、ほかには見られない教育指導をしているというのが一番ですね。学科は3領域に分かれていますが、デザインに共通する造形論・色彩学など、あるいは理系学科としての基礎となる数学・物理なども学科横断的に指導していて、それらも特長といえるでしょう」

さらに3領域とも定員が少なく(谷口先生が所属する『建築・空間デザイン領域』は1学年40人)、教員と学生との距離が近く、親密な関係が築かれている。その建築・空間デザイン領域については次のように語る。

「ふつう建築系の学科ですと、まず設計図面の描き方から指導することが多いのです。しかし私どもでは、新入の学生にスケッチブックを渡しまして、観察したものやイメージとして頭に浮かんだものを何でも描いて1冊を描き切るというトレーニングから始めています」

つまりは、自らの手によるアウトプットをすること、そしてそれを他人に説明するためのコミュニケーション能力も身に付くように、という指導法というねらいがあるのだ。こうしたユニークかつ意欲的な演習内容からも、新しい学部のいぶきが伝わってくる。

昔からそこに存在したような建築物でありたい

芝浦工業大学芝浦キャンパス正門
キャンパスビル1階脇の歩廊

デザイン工学科の建築・空間デザイン領域で建築設計を指導する谷口先生だが、同時に現役の建築家としても活躍する。プロフィール欄に挙げた「音羽ホール」と「龍香洞」は宗教施設だが、ほかにも一般の戸建て住宅や集合住宅、さらに海外ではベトナムでの住宅開発を中心にした都市計画、モンゴルの700 haに及ぶ公園計画など、その手がけるジャンルは幅広い。

そこで谷口先生に、自らの建築作品に懸けるコンセプト(概念)について伺った。

「わたしが主宰している建築設計事務所『スタジオトポス』のTOPOSとは、ギリシャ語で『場所』という意味です。建築物というのは、1つの場所に1つのものしか造れません。与えられたその場所にどんな建築物が必要なのか、周辺の環境や建築物を使う人たちの気持ちなどもじっくり考えながら、組み上げていくのが理想です」

そうした建築物のフォルムは奇抜なものでなく、あたかも昔からそこに存在していたかのよう
でありたいとも語る。
さらに、谷口先生による建築設計の講義では、(1)他人との対話(2)環境との対話(3)自分との対話――の「3つの対話」の重要性を説く。

「(1)(2)はいま申したとおりで、(3)については、建築設計の最終的な判断は建築家が下すことになります。ですから、独り善がりなデザインにならないように繰り返し徹底して、自問自答しなさいということですね」

これら「3つの対話」については、谷口先生ご自身も自戒として常に心掛けていることだそうだ。

建築・設計が楽しいものであることを伝えたい

芝浦キャンパス建物内の「図書館」
創立者・有元史郎翁の胸像

’09年に開設された芝浦工業大学デザイン工学部は、その第1期生が今年度(’12年度)4年次に進級したばかり。この4月からは待望の研究室配属が始まり(3年次の1月から仮配属されていて、4月から本配属になった)、谷口研究室には11人の4年次学生が初配属された。

「どの学生がどこの研究室に配属になるのかは、学生本人の希望も無視できませんが、我々教員の方もそれぞれの学生について1年次から見ているわけですから、そのサジェスチョンによって本人の希望とは別の研究室に配属になることもあり得ます。そうしたことができるのも、人間関係が密な少人数制指導によるメリットといって良いでしょうね」

3年次の1月から仮配属になると、卒業後の進路相談、つまりは就職か大学院進学かといった相談が指導教員と学生とのあいだで個別におこなわれていく。

「そうした相談をしつつも、わたしの研究室では『即日設計』のトレーニングもしていきます。就職するにしても大学院に進学するにしても、その試験に即日設計の課題は出ますからね」

それぞれの学生の進路が決まると、ゼミ演習形式の話し合いにより個々の卒業設計のテーマが絞り込まれていく。取材した5月中旬現在における谷口研究室第1期生たちは、何をテーマに設計するのか大まかな方向性が見えてきたところといった様子であった。
あらためて学生たちへの指導方針について聞くと――

「とにかく設計が楽しいものである――そのことは伝えていきたいですね。そのためには教員自身が楽しく教えること、そして学生には成功体験を味わってもらうこと、そうしたことが大切ではないかと思って指導しています」

ちなみに谷口研究室では、ゼミの指導とは別に先生から1つのキーワードが提示される「デザインワーク」というものがある。そのキーワードからのイメージを7つの模型として製作し、各自のコンセプトをプレゼンテーションするもので、頭のトレーニングの一環というわけだ。

これは7週連続でおこなわれるハードなトレーニングとなるため、その参加は自由としているのだが、学生メンバーの全員が参加しているという。

付近の「田町」界隈の景観

こんな生徒に来てほしい

建築設計の仕事は、多種多様なニーズがあるので、どうしても雑学のようなものが必要になります。ですから何にでも好奇心をもつ人のほうが向いています。また人間同士じょうずにコミュニケーションがとれて、遊びでも仕事でも他人といっしょに楽しめる人もいいですね。
デザイン技術の上手・下手というのはあまり関係ありません。むしろ、人の生活や社会の営みといったことに興味があるかどうか、そもそも建築が好きであるかどうか――こうしたことの方が重要になります。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。