早稲田塾
GOOD PROFESSOR

慶應義塾大学
理工学部 物理学科

江藤 幹雄 教授

えとう・みきお
1963年静岡県生まれ。’90年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。’90年日本学術振興会特別研究員。’92年慶應義塾大学理工学部助手。’97年同専任講師。’03年同助教授。’07年准教授。’09年より現職。この間’99年オランダ・デルフト工科大学客員研究員。
著作には『物性物理学ハンドブック』(分担執筆・朝倉書店)『Comprehensive Semiconductor Science and Technology』(共著・オランダで刊行)がある。
「江藤幹雄のホームページ」のURLアドレスはコチラ↓
http://www.phys.keio.ac.jp/faculty/eto/eto.html

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「半導体量子ドット」の未知に挑む物性物理学

江藤研究室が入る22棟「教育研究実験棟」
矢上キャンパスの14棟「創想館」

今週紹介する一生モノのプロフェッサーは慶應義塾大学理工学部物理学科の江藤幹雄教授である。まずは慶應義塾大学物理学科の特徴から伺おう。

「本学の物理学科は、物性・宇宙・レーザー・生物、それに理論の物理学からなっています。そのなかで特に物質の性質について研究する物性物理学に力を入れております。基礎研究でありながら応用も視野に入れた研究であるところに特徴があります」

基礎研究で原理的なものを理解することは、いつか技術革新があってもそれに対処できるようにという考えからでもあるという。さらに慶應義塾大学物理学科を特徴づけているのは「理論研究室」の存在。まさに、江藤先生自身もそのメンバーである。

「この理論研究室というのは、物性物理をはじめ素粒子・原子核・一般相対論・統計物理学などを専門に研究している11人の教員が集まり、それぞれが専門の研究テーマに挑みながら、同時に研究室のメンバー全員が参加するゼミを毎週開いております。このゼミでほかの専門分野の物理情報や、それぞれに共通する物理的な考え方の意見交換をして、各自の研究に役立てようという試みがなされているわけです」

この理論研究室に配属になった学部生は、大学院生も含めた部屋で他分野の人たちの影響や刺激を受けながら卒業研究に励むこととなる。

「こういう環境で自らの専門を深く追究するようにしていますと、他分野の研究についてのオリジナルなところや面白さが理解できるようになります。さらに物理学に対する視野が大きく広がるという効果もありますね」

他大学にはない慶應大物理学科だけの試みである、非常に意義深い試みといえよう(卒研詳細については後述)。

「人工原子」から次世代コンピューターや省エネ効果も

新緑の候の矢上キャンパス点描
学食などが入る16-A棟「厚生棟」

江藤先生自身のご専門はといえば、広義には「理論物理学」ということになる。まずその説明からしてもらった。

「物理学というのは、実験によって発見された新しい現象を説明する理論をつくる側面と、新しい理論をつくってそれを実験で検証する側面とがあります。物理学に携わる者は、この理論のほうを専門にする者と、実験のほうを専門にする者とに大きく分かれます。わたしは理論を専門にしていることになります」

理論物理学カテゴリーのなかで江藤先生が狭義に専門にしているのが「物性物理学」。その目下の研究課題は、半導体(LSI技術)の微細加工によって作製される「量子ドット」(quantum dot)の研究ということになる。

「半導体加工はナノ微細レベルでも可能になりましたが、あるサイズを超えて微細に加工しようとすると原理的に回路が動作しなくなります。すでに技術的にはそのサイズに近づいており、そのため次世代デバイスに応用される素材がいろいろ考えられています。そうした次世代の微細なものをつくり出す過程で、新しい物理現象も発見されてきています。その理論を考えるのがわたしの研究になります」

こうした江藤先生の扱っている分野は、原子や分子の世界においてニュートン力学では説明できない量子力学の世界の現象ともなる。そうした研究には世界初となる現象の証明も含まれていく。

「半導体の微細加工において量子ドットと呼ばれる小さな箱をつくり、そのなかに電子を1つずつ詰めていきますと、原子と同じ性質があらわれます。これを『人工原子』(Artificial atom)といいますが、そこに新しい『近藤効果』(Kondo effect)が生じることを証明しました。人工原子は人工的な制御が可能ですので、次世代の量子コンピューターへの応用、効率の良いソーラーセルへの利用、デバイスの大幅な省エネ効果なども期待されます」

ここで江藤先生が証明した「近藤効果」というのは、磁性原子を含んだ金属の温度を下げていくと、ある温度以下で電気抵抗が一気に上昇に転ずる現象のことだ。江藤先生らの人工原子の研究は、世界のトップリーダーとしてその牽引役を担う。

世界初チャレンジが常に視野に入る半導体微細加工研究

キャンパス最寄りの東急・日吉駅

慶應義塾大学物理学科の学部生の研究室配属は4年次4月からである。江藤先生が在籍する理論研究室では教員が11人いることもあって、例年20人前後の学生が配属されてくる。

「理論研究室に配属された学生たちは、すぐに専門を決めずに全員で英文の文献講読をゼミ形式で3ヵ月間続けます。3ヵ月したところで、それぞれの興味の対象を絞って、各教員のグループの元に配属されます」

教員は11人いるため11グループに分かれ、1人の教員が2~3人の卒業研究を指導することになる。

「卒研のテーマについては、学生の側から最先端の面白いことが提案されることは稀です。複数のテーマを教員の側から提示して、その中から学生が選ぶという方法になります。物理学という学問の性質上、学部生レベルでオリジナルな研究に挑むのはなかなか難しいのです。ただし量子力学を使った新しい現象を検証する研究においては、学部生でも独自な研究に挑む可能性は大いにあり得ます」

過去には、学術雑誌に論文が掲載されたり、国際会議で発表した学部生までもいたそうだ。あとに続く学部生には大きな励みともなろう。あらためて学生指導に懸ける意気込みについて次のようにも話してくれた。

「研究は未知の課題へのチャレンジになりますから、新しいことに意欲的に向かうことが出来る人が理想的といえます。新理論をクリエートしようとすると、たとえ卒研レベルでも予想もできない困難にぶつかる場面が必ずあります。そうした壁を克服していく意欲とやる気のある学生・研究者を育てたいと思っています」

半導体微細加工の最先端分野にはまだまだ未知のことが多いのだそうだ。そのため、若い研究者の活躍できる場が今後とも多い――このことを強調される江藤先生の姿がそこにはあった。

こんな生徒に来てほしい

物理学というのは、自然現象の根本的な原理を究明する純粋な学問です。ですから、物理原理を徹底的に理解したいという知的好奇心にあふれるような学生に来ていただきたいですね。将来の技術革新に向けて、底力が発揮できるような人にも育ってほしいと思います。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。