
神奈川大学
工学部 建築学科
島﨑 和司 教授
しまざき・かずし
1955年広島県生まれ。'95年東京工業大学大学院総合理工学研究科社会開発工学専攻博士課程修了。'79年「間組」入社。'81年建設省(現・国土交通省)建築研究所部外研究員。'83年米イリノイ大学客員研究員。'00年神奈川大学工学部建築学科助教授。'06年より現職。
主な著作に『鉄筋コンクリート構造設計規準・同解説2010』(分担執筆・日本建築学会)『建築構造設計(高校工業科用教科書)』(共著・実教出版)『建築構造力学Ⅰ』『同Ⅱ』(共著・学芸出版社)などがある。
島﨑先生が主宰する「新機能型構法研究室(島崎研)」のURLアドレスはコチラ↓
http://shimazaki.arch.kanagawa-u.ac.jp/
「3・11」後に転換を遂げる建築構造研究


今週の一生モノのプロフェッサーは神奈川大学工学部建築学科の島﨑和司教授である。まずは、神奈川大学の建築学科のことから聞いてみた。
「神奈川大学には実務教育に力を入れる傾向と伝統のようなものがあります。建築学科も同様でして、教員に実務経験の豊富な先生が多く、カリキュラムに演習の授業が多く組まれ、実践指導に力を入れています」
そう語る島﨑教授も、ゼネコンや国の建築研究所などでの実務経験が十分だ。神奈川大学建築学科では、1年次に建築全般の基礎をみっちり学び、2年次から「建築環境」「建築構造」「建築デザイン」の3コースに別れて学ぶスタイルとなる。
「現代の建築分野は、設備・構造・意匠(デザイン)の3つのパートに分かれ、それぞれが緊密に連携して一体的に仕事をするようになっています。そのため本学科のコースも、環境と設備を学ぶ『建築環境』、構造設計を学ぶ『建築構造』、それに『建築デザイン』の3コースからなっています」
いま建築の世界で最初に要求される機能と言えば、快適な空間であり、それを満足させるのは設備のデザイン性と機能性だ。そこで「建築環境コース」では、環境問題に加えて設備についても十分に指導される。
また「建築構造コース」では、30年ほど前に国立大学にもないような大型の構造物実験装置を導入して話題を集めた。そのような実験設備の充実ぶりは今も受け継がれているという。
さらに「建築デザインコース」の教員には現役の建築デザイナーが多いという。このコースの学生は現実に進行している建築プロジェクトを教材にして指導を受けることもできる。
「それだけにどのコースも活気があって忙しく、大学に入ったら遊べるなどと考えている学生には不向きな学科ということになりますね(笑い)」
想定外でもいかに建物被害を最小に食い止めるか


そう語る島﨑教授のご専門は「建築構造」と「構法」で、「建築構造コース」の所属になる。現役高校生にとって「建築構造(構造設計)」はあまり馴染みがない分野かとも思われる。まずは、その概要から説明していただこう。
「建築構造というのは、建物の安全性確保のことで、日本の場合は地震と台風に対する強度(耐震性と耐風性)が主に考えられています。といっても、経済性を無視して、ただ地震や台風に強いだけのものを設計しても意味がありません。とくに最近は地球環境に負荷をかけないということにも配慮するようになっています」
そうした種々の条件を加味しつつ、建物の耐久性や要求される機能を満足させ、しかも美的であるためには、どういう材料を使ってどういう構造システムにするのが最も合理的であるのか――
こうしたことを考えるのが建築構造の仕事になる(さらに詳しく知りたい人は、「日本建築学会(AIJ)」のURLにアクセスしよう)。そうした建築構造の仕事なのだが、「3・11」を契機にその考え方が大きく変わってきたとも島﨑先生は語る。
「それまで想定外の大きな地震がきたら、人的被害を最小に食い止めれば建物の倒壊はやむを得ず、それは保険で保証するというのが建築構造の一般的な考え方でした。阪神・淡路大震災の頃からうすうす感じていたのですが、東日本大震災を経験しまして、いかに建物被害も最小に食い止めて継続使用できるものにするか――というふうに基本的な考え方が明確に変わってきています」
じつは大震災より前から、建築構造設計においてこの「損傷制御」(damage control)という考え方が主流になりつつあった。それが3・11を契機に大きく拍車が掛かったそうだ。
「損傷制御とは、地震に対する建築構造の考え方のことで、地震動エネルギーを受けないようにする『免震構造』と、地震動エネルギーを建物内部の装置に吸収してブレーキをかけてしまう『制振構造』に代表されます。これまで主流になりつつも、コスト面で大規模構造物以外では普及に問題のあった損傷制御ですが、3・11をきっかけに全面展開の様相になっています」
このほか鉄筋コンクリート(RC)部材の内部に制振機能を組み込む研究、RCの新構造システム、プレストレスコンクリート(PC:あらかじめ圧縮応力を与えてあるコンクリート)の対免震・制振への利用――なども島﨑教授の研究テーマとなる。
まずは構造物がどのように壊れるのかを知ること


神奈川大学建築学科の学部生は、3年次の後期から各研究室のゼミ演習に参加して、その研究テーマの基本的知識を身につけていく。島﨑研究室にも毎年13人ほどの学部生が配属されてくる。
「わたしのゼミでは、RC構造の挙動を学生自身が計算して追えるようにということで、毎週のように演習をしています。そして4年次に進級したところで卒業研究に入ります。学科の方針で『ひとり1テーマ』が決まりで、グループ研究は認められません」
その研究テーマについては、各学生に合ったものを島﨑教授が用意されることが多いが、自分でやりたいテーマを積極的に提案してくる学生もいるという。あらためて学生指導の方針については次のように語る。
「まず自分の手を使ってやってみて、自らの頭で考えて判断してみる。それでも解決できなかったら、聞きに来なさいということですね。みんな最初は戸惑うようですが、これも社会に出て行くための訓練として必要なことだと思ってやっています」
インタビューの最後に、建築構造を学ぶにあたっての極意について島﨑教授はこう教えてくれた。
「形あるモノがどんなふうにして壊れるのか? まずは構造物の壊れていく様子を知ることです。自分でつくっては壊し、つくっては壊しの実験を繰り返せばいいのです。建築構造で重要なのは安全性の検証ですが、モノがどう壊れるのかも知らずに安全性の検証などできません。さいわい神奈川大学建築学科には、他大学にはない大型の加力実験装置などが揃っていますので、これらを大いに利用すればいいわけです」
こんな生徒に来てほしい
理由は何であれ、建築への強い意欲のある人、とにかく「建築をやりたい」という人ですね。推薦入学などの面接では、ほぼ全員からもっともらしい答えが返ってきます。それが心の底から本当に建築をやりたいのであれば、それでも構わないとも思っています。せっかく建築を選んでくれたのでしたら、さらに「建築のこれをやりたい」という具体的な目標をもって入ってきて欲しいですね。
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