早稲田塾
GOOD PROFESSOR

早稲田大学
社会科学総合学術院

有馬 哲夫 教授

有馬 哲夫(ありま・てつお)
1953年青森県生まれ。77年早稲田大学・第一文学部英文科卒業。84年東北大学・大学院文学研究科英文学専修博士課程単位取得。同年東北大学教養部英語科講師。88年同助教授。93年同大学・大学院国際文化研究科助教授。97年早稲田大学・社会科学部助教授。99年より現職。主な著書に「テレビの夢から覚めるまで」「デジタルメディアは何をもたらすのか」(ともに国文社)「ディズニー千年王国の始まり――メディア制覇の野望」(NTT出版)などがある。

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社会学的リテラシーなしでは無理

メディア関係の資料に囲まれた有馬先生の研究室
有馬研究室のある早稲田キャンパス14号館ビル

早稲田大学・社会科学総合学術院の有馬哲夫教授の専門は、メディア・広告・大衆文化の研究である。米国最大のエンターテイメント産業ディズニーの研究で有名だ。

「といっても、ディズニーが特別に好きというわけではないのですよ(笑)。ディズニーの変遷を研究していますと、大衆文化とメディア産業の変遷がよく理解できます。また、最近のディズニーは、清涼飲料水のペットボトルや紙おむつなどにキャラクターを提供するなど、広告でも重要な役割を果たすようになりました」

有馬先生はディズニーを研究対象にする理由をそう語る。

それまで映画とテーマパークから成っていたディズニーが変貌を始めたのは、90年代中ごろから。アメリカ4大放送網のひとつABCやインターネットのポータルサイト・インフォシークなどを傘下に収めていったのだ。

「産業としての映画は非常に収入の変動が大きいものです。そのリスクをなるべくなくして経営を安定させるために、収入の安定したテレビや新聞・インターネットなどのメディアを買収していくのは、必然的な流れといえます。テレビもインターネットも重要なのはコンテンツで、それが映画との相乗効果を上げていく。ディズニーでは、それが非常によく機能していると思います」

そうしたディズニーを研究することを中心に、今後のメディアの方向性を探っていくのが、有馬先生の研究テーマとなる。

メディアや広告・大衆文化についてディズニーを通して読み解くというと、いかにもトレンディな研究であり、塾生のなかにも興味を惹かれる人は多いだろう。だが、これは大学というアカデミックな場での研究である。同好会のような「面白そう」程度のノリで来られても困ると先生はいう。

「たとえば私のゼミではテレビ研究がテーマで、ゼミ生には自分でテーマを立てさせていて、極端にいえばテーマがテレビから外れてもかまわないという方針でやっています。ただし、あくまで大学のゼミでの研究ですから、それにふさわしい意義があるかどうかということが重要なポイントになります。ただ面白いからでは、テーマになりません。社会学的な研究トレーニングも基礎的なことを反復させ、原文資料などを読ませて身につけさせるようにしています。語学力を強調する方針の副産物として、毎年一人はアメリカに留学する学生が出ています。帰国子女もよく入ってきます」

社会学の研究は、どんなものもテーマになり得る。しかも設定が自由となれば、見た目の面白さで選んでしまうことも多い。すると、研究過程で大学のゼミ研究で求められる論考レベルに至らずに破綻してしまうケースも多少あるようだ。この学問分野は、非常に間口が広くて、研究アプローチも多様である。それだけ魅力に富んだ学問分野なのだが、またそこに落し穴もある。ムードだけの安易な選択は、その落し穴にハマリかねない。研究テーマと進路選択には慎重な検討が必要だろう。

先人の生き方を学び混沌を乗り切れ

受験生憧れの早稲田キャンパス
那須での夏合宿にて。左端が有馬先生

有馬先生は非常に丁寧な話し方をする方で、取材中その温厚篤実な人柄がよく伝わってくる。しかしその先生も、教壇に立つと一転して厳しい先生に変わるのだという。学生からも、「簡単には単位をくれない厳格な先生」と見られているようだ。

「勉強したくない学生は、来てくれなくて良いと思っています。学問というのは、意欲のある人にもない人にも等しく与えられるものではありません。その知識を求める人にだけ与えられるものです。求めてもいない学生の口を開けさせて、無理にアメ玉を押し込むようなことを私はしません。学問の切り売りはしないから、ほしいのであれば自分から学び取るというのが指導方針ですね」

学生に迎合しない芯の通った指導ポリシーで貫かれているのである。そんな先生から見た現代の学生観は当然ながら厳しい。

「学生には手間暇をかけて努力するように指導しているのですが、ゼミの発表というと、インターネットで検索して、そのプリントアウトをただ読むだけで平気な顔をしている。自分なりに読みこなして、自分の言葉で説明できない学生が多いですね。それにメディアを学ぼうという学生なのに、最近はほとんど映画もテレビ番組も観ていないのに驚かせられます。古い名画といわれるもの、特にサイレント時代の作品を観るようにするべきです」いま、時代は混沌として先の見えにくい状況である。こんなときには、先人の自伝に学ぶのが良いと有馬先生は説く。幾多の先人の中から自分の理想にできるモデルを選んで、その生き方を学ぶのが良いというのだ。これは、社会学を学んでいる学生ばかりでなく、すべての学生についてもいえ、当然受験生についてもいえる。

また、有馬先生は現代の最先端をいくメディアの研究者だが、コンピューターを介した教育が最先端だという風潮には異を唱える。

「私はデジタルメディアなどを使った遠隔教育の問題点についても研究しているのですが、やはり教える者と教えられる者が同じ場にいないと、教育効果は上がらないという研究結果が出ています。教育というのは、人間と人間が直接関わり合って成り立つもので、知識を一方的に流すだけでは成り立たないものです。先生にほめられたり、叱られたり、また、授業のあと学生同士でその内容について話したり、批判したりするなどしてフィードバックできるようになっていないと教育になりませんね」

AV機器がどんなに発達しても、生の演奏を凌駕できないように、教育もまた機器を介したものでは効果は上がらない。教師と生徒が同じ場を共有することが何よりも大切という考えだ。

「教室で教えるということは情報を伝えるだけではなく、学生に学習の気構えをさせること、集中させること、動機づけや励まし・叱責など、さまざまな機能が付加されています。それらが非常に重要なのですね。さらに、教育は一方通行ではなく、我々教える側も学生たちから教えられることが多い。良い先生は良い学生に育てられるものです。自分のどこが悪いのか、何が必要なのか、それを考えさせてくれるのは、生のコミニュケーションの場の雰囲気なのです」

どんなに時代が進み機器が発達しようが、これらが変わらぬ教育の本質である。学生に厳しいと定評のある有馬先生だが、こんな先生に4年間揉まれてみるのもいい。そこで得られるものは、決して小さくないはずだ。

こんな生徒に来てほしい

人間がいろいろ嫌な面を持っているのを知った上で、それでも人間に興味が持てる人ですね。これまでの人生でもいろんな人間に関わってきたと思いますが、人間というものが好きで、前向きに関わっていきたいという人。将来テレビや映画の世界に進む希望があるのでしたら、それらの過去の作品や文学に親しんでいる人。また、自伝などを読んで人間のあり方について学び、その中から自分がなりたいものを見つけている人ですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。