早稲田塾
GOOD PROFESSOR

明治大学
法学部 法律学科

夏井 高人 教授

なつい・たかと
1956年岩手県生まれ。'78年山形大学人文学部経済学科卒。'81年第35期司法修習生。'83年判事補。'93年判事。'97年東京地方裁判所判事を最後に退官。'97年より現職。'98年弁護士登録(隼あすか法律事務所)。'04年明治大学法科大学院教授(兼務)。情報文化学会賞('03年)。
著作は『ネットワーク社会の文化と法』『裁判実務とコンピュータ―法と技術の調和をめざして』(前著ともに日本評論社)『電子署名法―電子文書の認証と運用のしくみ』(リックテレコム)など多数。
夏井先生が主宰する「サイバー法・法情報学」のURLアドレスはコチラ↓
http://cyberlaw.la.coocan.jp/index2.html

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サイバー法・法情報学研究のパイオニア

夏井研究室が入る駿河台「研究棟」
駿河台キャンパス建物群

今回登壇願う夏井高人教授は、明治大学法学部法律学科(同学部は法律学科だけの単科学部)の所属である。まずは学部学科の特長から伺った。

「明治大学は『明治法律学校』という法律の専門学校を母体にして誕生した大学です。したがって法学部はそのコアな伝統を色濃く引き継いでいる学部学科であり、教職員もそのプライドをもって働いております」

明治大学法律学科は(1)ビジネスロー(2)国際関係法(3)公共法務(4)法と情報(5)法曹――の5コースからなる。このうち夏井教授は「法と情報コース」に属する(コース主任)。

「現在の法律学科では、基本となる法律(民法・刑法など)は基本に基づいた指導を旨としています。今日的な新しい法律については、医事法やサイバー法、さらに原子力・環境・国際取引に関する法律などから法情報学の理論まで、他大学の法学部には登場していない法律や理論の指導もしていて、そのためのスタッフの充実も図られています」

また明治大学といえば新キャンパスを東京・中野に来春オープンすることも忘れてはならないだろう。この総合数理学部が新規開設することもあって、いま全学的に非常に活気に満ちている。このあたり夏井教授は次のように語る。

「各学部間で競い合うようにしていって、我々法学部を含めそれぞれが目覚ましい成果をあげていければ良いですね」

明治大学法律学科の法と情報コースで教鞭をふるう夏井教授のご専門は、「サイバー法」と「法情報学」だ。いずれも今日的な新しい分野である。

未来を見据える電子ネットワークの法整備研究

明治大学「アカデミーコモン」
明大のシンボル「リバティタワー」

まずは、サイバー法のほうから直々に説明していただこう。

「サイバー法はインターネットを中心にした電子ネットワークに関する法律だといえます。この法律が扱うのは横断的でして、一般の裁判における民法や刑法をはじめ、全ての法律分野に関係しますから、その扱う範囲は非常に広範なものになります」

そのなかで夏井教授が主な研究テーマにしているのはサイバー犯罪。近年インターネットが身近になるにつれて、それに関わる犯罪は増えているが、この分野におけるわが国の第一人者とされる。

2001年、日本政府を含め、サイバー犯罪条約(Convention on Cybercrime)が国際採択されたとき、検討委員会委員を務めて条約文と条約解説文を日本語翻訳したのは夏井教授なのである。

「いま携帯電話(ケータイ)からスマートフォンへの交換が急ピッチでなされています。ケータイは小型の無線電話ですが、スマホは小型のパソコンそのものです。そういった認識が薄いまま使用していると、それを衝いて攻撃に曝されることにもなります。たとえばソーシャルメディア(SNS)は便利な反面、個人情報の漏洩や利用者同士のトラブルにつながりやすくなります。とくに退会後も個人情報が残ったまま悪用されるケースが多いですね」

今日の電子ネットワークの問題点についてこう指摘する。そんな夏井教授がいちはやく問題点に着目して、法整備について研究するようになったのは、いまから30年前の地方裁判所判事補に任官されたばかりの頃だったという。
いま研究しているのは、30年後・50年後における電子ネットワークの法整備についてだ。

「いまのコンピューターはシリコン主体の無機質な物質からなる半導体でつくられていますが、将来は、デオキシリボ核酸(DNA)など有機質を演算素子として用いるバイオコンピューター(Biocomputer)に替わるとも言われます。ひょっとしたら、50年後のコンピューターは有機的にアンドロイド化されているかもしれません。そうした未来における法体系はどうあるべきなのか? いまはそんな研究もしています」

生命と平和・秩序を守る――そのために法律はある

明大駿河台キャンパス点描
最寄り駅のひとつJR御茶ノ水駅

次いで教授のもうひとつの専門分野である「法情報学」についても聞いておこう。

「法律を情報としてとらえたとき、何が見えてきて何がわかるのかという学問分野です。法律の条文をつきつめて純粋化していきますと、記号の集合体であることになります。それを詳細に分析することによって、各法律がもっている性質などが解明されるのです」

もはや哲学の範疇に入ろうかという難解な課題でもあろう。そんな夏井教授の心を支えているのは「法により平和と秩序を守る」という変わらぬ信念なのだそうだ。

明治大学法律学科の専門ゼミは演習は3・4年次学部生が対象となる。夏井教授のゼミでは、各学年定員5人を原則にしている。かつては60人を超えるゼミ生を擁したこともある人気ゼミぶりを誇った時期もあったが、いちど教授が過労で病に倒れて以来、定員5人に絞って開講しているという。

「わたしのゼミでは、4年次ゼミ生から各自研究テーマを決めていきます。前期はそのテーマに沿った個別研究になります。また3年次のゼミ生は経験がありませんから、4年生の指導を受けながら研究を進めていきます。こうして、かつての私塾のような方式で運営しています」

後期はゼミ生全員で、前期にまとめた個人研究をベースにしながら1本の論文にまとめあげる。このグループ論文は明治大学法学会が毎年度発行している論文集に応募投稿するのが決まりである。夏井ゼミ生全員による論文はほぼ毎年度掲載され、昨年度(11年度)は最優秀賞を受賞している。

「後期のグループ研究は、社会へ出てからのプロジェクト参加への予行演習の意味合いも含めているつもりです」

そう語る夏井教授の学生たちへの指導方針についてあらためてお話しいただくと……

「最近は1人っ子が多くなったせいか、世界は自分のためにあるように本気で思っている学生もいたりします(笑い)。そうした未熟な学生たちもいずれは社会に出て、企業なり役所なりの組織の一員として働くことになるわけです。わたしのゼミがそこにおける共同作業のトレーニングの場になればと考えています」

インタビューの最後に、現役高校生に向けてこんなメッセージもおくってくれた。

「若き日のいま自らが興味のあることを大切にしてほしい。一方でまた、いま興味のないことでも不要なことだと簡単に切り捨てないことです。社会に出て働くとき、自分の興味だけで仕事が選べるわけではありませんからね」

こんな生徒に来てほしい

教養はいくらあってもいい。ですから多くの本を読んできてほしい。本を読むことで、普通では体験できないことを知り、知識を増やすことができます。高校の図書室の本などすべて読破するぐらいの勢いで読書をしておくべきです。
さらに、わたしのゼミで学びたいという希望のある人については、人間もふくめて生物の生死についての本質的な意味をよく考えてみてほしいですね。たとえば植物を栽培してみて、その生死について(あるいはその遺伝子について)自分なりに考えてみることなどもお薦めします。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。