早稲田塾
GOOD PROFESSOR

工学院大学
建築学部 建築デザイン学科

後藤 治 教授(大学常務理事)

ごとう・おさむ
1960年東京生まれ。'88年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程中退。'88年文化庁文化財保護部建造物課文部技官。'95年同文化財調査官。'99年工学院大学工学部都市デザイン学科助教授。'03年同教授。'11年より学部改組により現職。大学常務理事。
山梨県建築文化奨励賞('09年・上条集落観音堂)。日本建築学会・日本建築防災協会('07年・既存建築物の耐震改修デザイン優秀賞・共同受賞)。
著作は『それでも、「木密」に住み続けたい! 路地裏で安全に暮らすための防災まちづくりの極意』(共著・彰国社)『都市の記憶を失う前に―建築保存待ったなし!』(白揚社新書)『建築学の基礎6 日本建築史』(共立出版)など多数。
後藤先生が主宰する「GOTO LAB」のURLアドレスはコチラ↓
http://www.ns.kogakuin.ac.jp/~wwa1023/

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名もなき歴史的建築物を若返らせたい

工学院大学新宿キャンパス全景
「高層棟」は28階建ての威容

工学院大学に建築学部が誕生したのは昨年(2011年)春のこと、これは日本初のことになる。工学部建築学科から建築学部に昇格したことで生じるメリットについて、同学部所属の後藤治教授は次のように語る。

「ふつう建築分野は工学系か美術系の学部に属するケースが多いのですが、そうすると1年次に一般教養科目と工学系や美術系の基礎科目でカリキュラムが埋まってしまいます。それが建築学部単独となると1年次から建築の専門科目が学べるというメリットがあるのです。建築学科を学部に昇格させたことは本学の大きな特長になっているでしょうね」

大学進学と同時に建築について広く学べるのは工学院大学だけ。ほかの大学の建築学科に大きな差をつけられることになる。

「いまの高校カリキュラムでは、一部の工業高校を除いて建築について学びません。したがって大学で建築を学ぶ学生はほぼ全員がゼロからのスタートになります。そうしますと、1年でも半年でもスタートを早くしたほうが有利になり、それが将来大きな差になってくるものなのです」

建築分野の特徴としてその扱う範囲が広いことがあげられる。そこを工学院大学建築学部では30人もの専任教員でカバーする。これは国内では最大級の規模である。ちなみに同学部は(1)まちづくり(2)建築(3)建築デザイン―の3学科から構成される。

各時代や風土の「記憶」がただ失われて良いのか

高層ビル群の中のキャンパス

さて、後藤教授が所属するのは建築デザイン学科だ。が、専門は建築デザインというわけではない。

「わたしは歴史的建築物や街並みの保存修復を専門にしています。ふつう建築分野は新しいものをつくりだすのが基本となります。一方わたしが扱っているのは、すでに存在していて少々くたびれてきた民家などの修復が中心です。まぁ年老いた建築物の若返りを図る医師のようなものですね」

そう笑いながら語る後藤教授。じつは前職の文化庁・調査官時代から歴史的建築物の保存修復一筋で、この道の第一人者でもある。

「この仕事で重要なのは、自らの主観で本来と違うものに再生することが許されないことです。とくに社会的・歴史的に評価されている個所は忠実に、保存復元再生しなければなりません。ところが、そんなところに限って技術的な欠陥があることが多くて、非常に困難だったりします。そこが大変なところであり、また面白いところでもあります」

さらに後藤教授には保存修復に懸けるひとつの想いもあるという。

「普通でしたら著名な歴史的建築物の保存修復を手掛けたいと思うのでしょうが、わたしの場合、人々があまり関心を寄せてこなかった部分に関心があり、そうした名もなき歴史的建築物をいかに残していくかに心血を注いでいます」

それは、各時代の雰囲気やその土地の風土を「記憶」する民家や商家・農家であったり街並みであったりする。その具体的な例で話してもらうと――

「群馬県伊勢崎市で木造洋館の医院建物を移築して保存する仕事をしました。このときは市街地の道路を封鎖し、建物をジャッキアップし、そのままレールに載せて100メートルにわたって移動させるという方法をとりました。せっかく道路を封鎖するのだったら、いっそフリーマーケットでも開いて一大イベントにしてしまおうと市に提案したのです。移築当日は大変なにぎわいで、NHKテレビなども取材に来ていましたよ」

また現在進行中の諸プロジェクトのなか、とくに後藤教授が力を入れているものに秋田県横手市増田地区の街並み保存がある。

「この地区では家の内部に蔵を取り込んだ『内蔵』と呼ばれる構造をもつ家が多く、そうした家を中心に街並みを保存しようとしています。ここで大変なのは、人が現に生活している建築物の保存ですから、そこに住んでいる人たちの合意をどう得るのか、また蔵に施されている左官仕事などですでに失われている技術をどう復活させるか等々になります」

このほかにも木造建築物の伝統的構法の調査や修復技術の開発なども手掛けており、現在進行中のプロジェクト数はゆうに10件を超えるという。

卒業研究のためだけに研究室が存在するわけではない

学食や図書館が入る「中層棟」

工学院大学建築学部の学部生の研究室配属は3年次後期からである(ちなみに取材時現在で研究室に配属されているのは、旧工学部建築系学科の3~4年次学部生)。後藤教授の研究室では例年8~10人ほどの学生を受け入れている。

「3年次のあいだは各研究室のゼミ演習に参加してみて、その研究内容が自分に合わないと感じたら、4年次の進級時に研究室を替えることも出来るようになっています。将来の進路が見つけられないモラトリアム型の学生にとっては親切な良い制度ではないかと思いますね」

4年次になっていよいよ卒業研究に入っていく。後藤研究室では、各自の研究テーマは研究室のプロジェクトから選んで決めるのが原則である。

「先ほどの横手市の例など地方のプロジェクトを卒研テーマとして選ぶ場合には、現地の個人住宅にホームステイして調査研究をしてもらいます。地元の方と寝食を共にすることで、コミュニケーションの密度がぐっと増します。それに地元の方々も教授のわたしに言いにくいことも学生相手には平気で言って下さることがありますから、大事な本音が引き出せたりもするんですよ(笑い)」

一石が、二鳥にも三鳥にもなる――そんな「ホームステイ作戦」というわけだ。あらためて研究生たちへの指導方針については――研究室の各プロジェクトは学生卒業研究のためだけにあるわけではない――そのことを十分に認識しつつ一生モノの力を会得して欲しいということに尽きるようだ。

「時間の許すかぎり先輩や仲間の研究も手伝って、自らの研究に役立てる努力をしなさいということ、卒研に関係ない雑多な作業も積極的に手伝うよう心掛けて欲しいということぐらいですね。自分の興味のあることだけに仕事として従事できるなんてあり得ないことなど、大人なら誰でも知っていること。そうして成り立っているのが社会というものなのです」

地道で苦労の多い保存修復の作業だが、あとに続く者たちへの想いとともに、その愉しさと厳しさを実に魅力的に語ってくれた。

こんな生徒に来てほしい

古い建築物の保存修復の分野に向いているのは、繰り返しの作業を粘り強くやれて、それで上達していけるような人ですね。そうした地道な作業のなかから喜びを見い出せるような人ならなお素晴らしいですね。
こうした作業はたくさんの人の協力があって初めて成り立ちますから、他人とよくコミュニケーションのとれることが条件になります。建築の才能はあまり関係ありませんね。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。