早稲田塾
GOOD PROFESSOR

慶應義塾大学
薬学部 薬学科

中島 恵美 教授

なかしま・えみ
金沢大学薬学部卒。金沢大学薬学部製薬化学科講師。同助教授。同大学院医学研究科助教授を歴任。この間米カリフォルニア大学サンフランシスコ校に客員准教授で赴任。その後に共立薬科大学教授。’08年大学合併により現職。薬学部国際交流センター長。慶應義塾大学国際センター副センター長。日本薬剤学会永井記念国際女性科学者賞。慶應義塾大学義塾賞。
主な著作に『今日のOTC薬:解説と便覧』(共編・南江堂)『わかりやすいセルフメディケーションとOTC医薬品の使い方』(共同監修)『薬の生体内運命』(前著ともにネオメディカル)などがある。
中島先生らが主宰する「慶應義塾大学薬学部薬剤学講座」のURLアドレスはコチラ↓
http://www.keio-yakuzai.jp/

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薬学界のリーダーたる人材育成を目指す

中島研究室が入る「3号館」
芝共立キャンパスの「1号館」

慶應義塾大学に薬学部が開設されたのは’08年で、これは共立薬科大学との合併によるものだ。今回紹介する薬学部薬学科の中島恵美教授も共立薬科大学から転籍になった先生である。中島教授に、まずは慶應義塾大学薬学部の特長から伺った。

「本学部の前身である共立薬科大学は、大学内附属薬局を先駆けて設置するなど、最先端の薬学教育を行ってきました。慶應義塾大学に合併されて更に力を注ぐ点としては、世界的なリーダーになれる人材の育成です。塾祖である福澤先生のことばに『一身独立、一国独立』があります。国民の一人ひとりが独立できて初めて、国も一流になれるという考え方のもと、世界の薬学を導くリーダーを育てていきたいですね」

慶應義塾大学は政財界をはじめとした、各界のリーダーを幾多輩出してきた。ここに新たに薬学分野においてもリーダーたる人材の育成輩出が期待される。

「具体的にはグローバル化、つまり国際感覚を身に付けた人材の育成を目標にしています。ただし、国際感覚は一朝一夕に身に付くものではありません。薬剤師をめざす薬学科は6年制でもあり、6年間かけて身に付けてもらう計画でいます」

中島教授は薬学部国際交流センター長も兼任しており、同センターでは国際的に活躍している先輩OB・OGを招き、英語による講演会や交歓会・交流セミナーなどを毎月開いている。

さらに薬学科6年次学生には海外病院における1ヵ月間の研修の機会もある。いずれも国際感覚を涵養してもらうための配慮である。ちなみに慶應義塾大学薬学部には、薬学科のほかに4年制の薬科学科もある。こちらは製薬メーカーなどで創薬研究などに携わる人材が育成されていく。

胎盤関門透過の仕組み解明が創薬につながっていく

重厚な雰囲気の「1号館」正面

中島教授のご専門は「薬剤学」(pharmaceutics)である。まずはその研究の目的から説明していただいた。

「薬剤学の研究では患者さんに薬剤を投与することで、病が治癒し引き続き幸せな生活が送れるようになることを目指しています。ここで、薬と薬剤とは内容が違います。いわゆる薬は単なる化合物のことです。一方の薬剤とは、患者さんが使用できる状態になったもので、つまりは錠剤とか注射剤などのことを指します」

こうして薬(原材料)を加工して薬剤をつくること、さらに個別の患者ごとに何の薬剤が効果的であるのかを判断すること――これら2つが薬剤学研究の基本的なテーマになるという。そこで最近の研究テーマについても聞いた。

「まずは『胎盤関門透過』の研究です。この研究は直接的に薬剤開発につながらないため、製薬会社等ではほとんど研究されていない分野です。しかし、生命の根源にかかわる研究ですし、大学でこそ取り組むべき課題であると考えています」

「胎盤関門」(blood placenta barrier)とは、母親の胎盤のなかで母体と胎児の各血液とを分けている部分のことを指す。母体と胎児の血管を連結することなく、まるで関所のように仲介しつつ双方物質を透過移行させる役割を担う。

「この胎盤関門に接する胎児の栄養芽細胞が両者の血液を分けています。この部分の透過機能によって、胎児への栄養補給と老廃物排泄がスムーズになされているわけです」

いずれ解明が期待される胎盤関門における薬物透過の仕組みを含めて、こうして人体誕生の神秘のメカニズム解明が中島教授らの手によって日夜進められていく。

「すでに私たちはラットの胎盤から栄養芽細胞を取り出し、培養細胞株として樹立させることに成功しました。それにより糖や核酸・アミノ酸などの栄養物や薬物を透過させるタンパク質が発現していることもわかりました。その後の研究では、この栄養芽細胞が各病態に対してストレス防御機構を備えていることも突き止めました」

いまや中島教授らの胎盤関門透過研究はこの分野で世界のトップリーダーの位置にある。いずれは得られたデータを元に、機能不全になった胎盤のための創薬にも挑んでみたいと語る。

さらには胎盤関門透過分野とは別に、人によって薬効果が違うメカニズムや、薬理作用のない薬剤(偽薬)でも患者が信じて服用すれば薬効果があらわれる「プラセボ」(Placebo)効果などについての解明をめざす研究も手掛けているという。

一生モノの「IPDO」メソッドを身に付けよう

キャンパス前に広がる「芝公園」

慶應義塾大学薬学部の学部生が各教員主宰の研究室に配属になるのは、薬学科が5~6年次の2年間。薬科学科では4年次の1年間である。中島教授の研究室では例年、薬学科の学生を各10人ほど、薬科学科の学生を3~4人ほど受け入れている。学生たちはここで卒業研究に挑む。

「毎週1回、大学院生から学部生まで全員参加のセミナーを開き、それぞれ研究の進捗状況などを発表してもらっています。わたしはここで特に『優れた奮闘的人間』の育成をめざして、いわゆる『IPDO』メソッドに基づくセミナー指導を心掛けています」

IPDOとは、Input(情報を正しく読み取って解釈する技術)、Presentation(実験計画立案と結果報告)、Discussion(討論)、Output(報告書や論文にまとめる能力)――の頭文字からなる。社会人に求められる実践的能力を開花させるためにも、こうした思考習慣は一生モノの力ともなるというのが中島教授の信念なのだ。

さらに英語力を高めてもらいたいという想いを受けてか、セミナーの発表を英語でする人もいるという。あらためて研究生・ゼミ生たちへの指導方針については次のように語ってくれた。

「薬剤師には生涯学習が課せられており、一生を通じてやりがいのある職業です。薬剤師の使命は患者さんの病気を治すことですが、それ以上に大切なのは、患者さんが退院後も幸せな生活が送れるよう服薬指導をすることです。目の前の患者さんから学び、それを明日の医療に生かす。この繰り返しにより、薬剤師としての完成度を高めていく。結果として、社会全体の幸福につながる。そんな医療文化の伝承者となる人材を育てたいと思っています。
また、大学は人間文化を進めていく場所でもあります。新薬開発で多くの人を救うという夢の実現も可能です。卒業研究や大学院での研究を通じてより良い人生の基盤をつくってほしいと願っています」

こんな生徒に来てほしい

一度だけの人生を薬学に懸けようという「やる気」のある人ですね。薬剤師の使命は医療文化と命をつなぐことですから、その使命を自覚して意欲的に取り組める人。大学で研究力を磨き、段取り力やリーダーシップ能力を一生モノの財産として活躍してみたい人。そんな人ならなお素晴らしいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。