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GOOD PROFESSOR

明治学院大学
国際学部 国際学科

高原 孝生 教授

たかはら・たかお
1954年兵庫県生まれ。’78年東京大学法学部(政治コース)卒。’79年同法学部(公法コース)卒。’79年東京大学法学部助手。’83年川崎地方自治研究センター専任研究員。’84年立教大学法学部助手。’86年明治学院大学国際学部専任講師。’90年同助教授。’97年より現職。日本平和学会副会長、パグウオッシュ会議国際評議員、国際平和歴史学会評議員。著作に『核と対決する20世紀』(分担訳・岩波書店)などがある。

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3.11後のいま「核なき世界政治」をめざす

高原研究室が入る8号館
横浜キャンパス南門。左は8号館

「本学の国際学部が開設されたのは1986年で、国連が定めた国際平和年でした。学際的なアプローチを標榜する“国際学”の学部としてはわが国初のものになります」

冒頭そう語るのは明治学院大学国際学部の高原孝生教授である。高原教授は続ける。

「この学部は、国際的な視野をもって世界について学びたいという学生のための学部です。履修科目は『文化』『経済』『法・政治』の3群に分かれます。それぞれ自ら深めたい分野を、この3群から横断的に科目選択して履修することができます」

国際化グローバル化と叫ばれながらも、なかなか世界に向かって発信ができない閉塞感が漂うこの国の現状にあって、国際学部の存在意義はますます高まっているとも教授は語る。明治学院大学国際学部の特長に、米カリフォルニア大学から、毎年春秋の両学期に20名前後の留学生を受け入れていることも挙げられる。

「このアメリカ人留学生と、明治学院大学から選ばれたゼミ1クラスの学生とで、必ず広島に行くようにしています。原爆を投下した国と投下された国の学生がいっしょになって、いま世界が直面する深刻な核問題の克服について考えてもらうことが目的です」

地球規模での核問題克服には、冷戦後の唯一の超大国アメリカの関与が絶対に必要であるため、ヒロシマという特別の地で真剣に考えてもらいたいのだという。こうしたメッセージは、学生にしっかり受け止められており、なかには人生観を変える体験になる者もいるそうだ。このプログラムは学部発足時から続いている。

明治学院大学国際学部は、国際学科と、もっぱら英語で履修する国際キャリア学科の2学科からなり、教員は両学科の学生を教える。高原教授のご専門は「国際政治学」と「平和研究」である。

たとえば「二院制」国連。これからの国際体制を構想する

礼拝堂もキャンパス内にある
正門から続くカエデ並木

ここでは、いつもと趣向を変えて、高原教授からお聞きした語録の一部を紹介したい。これまで教授が取り組んできた国際政治学・平和研究の概略が浮かび上がってくるはずだ。

「国際政治は時代とともにその構造が変化していて、いまや国家間の政治関係を従来どおりの枠組みで見ているだけでは到底理解できなくなっています。世界をひとつの共同社会と考えるとき、そのなかで『政治』が果たしている役割は何なのか(何であるべきなのか)を理論的現実的に見ていかないといけません」

「グローバリズムが席巻するなかで、いよいよ世界は主権国家システムからの脱却を迫られています。かつてはそれぞれの地域に別々の秩序があったのですが、日本も『開国』を迫られたように、19世紀後半には西洋を発祥の地とする『主権国家』と植民地のシステムが世界を飲み込んでしまいました。我々に課せられているのは、このシステムの積極面を現実に合うように生かしつつ、新たな世界システムを構想していくことです」

「簡単に言うと、世界中のいろいろな考えの人々や集団が共存共栄していくための方法を考えるのが平和研究ということになります。この平和研究の視点から、世界政治のあるべき姿を構想することが以前にも増して重要になってきました」

「平和的共存への認識は、『核時代』に突入した米ソ冷戦のころから共有されてきたものの、国際政治はいまだに国家単位でなされているのが現状です。そうした国家単位の考えや利益追求から脱却し、これまで考えられてこなかった制度、つまりグローバル時代の現実に合った新たな制度システムを構築しなければなりません」

「そのために諸国民が協力する必要があり、またそこで国連が果たす役割は重要です。ただ現在の国連は一国一票、いわば『一院制』の限界が付きまといます。いつか『二院制』に移行すべきですね。一院は各国平等な数の代表で構成し、もう一院は人口に比例した数の代表を出すなどして構成する。アメリカの連邦制のようなシステムを世界政治に導入できないか。これはほんの一例ですが、硬直した主権国家の発想からどこまで自由になれるかが、これから試されます」

「世界的視点に立った国際政治が特に求められるに至ったのは、ひとつには本格的な核の時代を迎えたからです。いま即時に発射できる態勢にある大陸間弾道弾は、米ロで約2千発あるといわれます。他方で印パ・イスラエルや北朝鮮の例でもわかるように5大国以外にも核拡散が進み、偶発的な核戦争の危険はむしろ高まっています」

「核時代の始まりは、ヒロシマとナガサキへの原爆投下でした。落とされた日本は平和憲法をもつことになり、戦争の放棄と戦力を保持しないことを謳って、自ら国家主権を縛っています。言い換えれば、戦争に負けたことで日本は世界政治の最先端のものを得たことにもなります。当時に書かれたものを読むと、この憲法を歓迎した戦後の日本国民には、その自負があったことが分かります。戦後日本の平和主義のソフトパワーはもっと評価されるべきです」

「日本にいるとかえってわかりにくいのですが、いまの核兵器廃絶に向けた世界的な流れは新しい人道主義に基づいています。これは日本からの発信、とくに被爆者の証言活動や世界各地で開催した原爆展など、市民に訴えかけるキャンペーンの成果でもあります。むろん軍需産業や古い考え方にとらわれて抵抗する力も大きいのですが、世論の動きを背景に、アメリカ政府も『核なき世界』への取り組みを掲げざるを得なくなっているのです」

3.11後という大転換期のいま国際政治学を学ぶ意義

明学開学の祖・ヘボン博士像
初冬の横浜キャンパス点描

以上、平和研究の視点から世界政治のあり方を考えていく高原教授の研究内容が見えてきただろうか。

その理論研究ばかりか、平和実践活動にも積極的な教授は、「パグウォッシュ会議」(Pugwash Conferences on Science and World Affairs)という世界的科学者による国際会議に日本代表の評議員として参加している。この世界的な会議組織は、世界の科学者に向けて、戦争廃絶のための方策を考えてほしいと痛切に訴えた「ラッセル=アインシュタイン宣言」(55年。当時呼び掛けた11人の著名科学者のひとりに故・湯川秀樹博士もいた)を受けて創設された。95年にはノーベル平和賞も受賞している。

「こうした科学者のネットワークだけでなく、国境を越えた市民レベルの信頼と交流が決定的に重要になってきているのが、いまの世界政治の特徴なのです」

そう語る高原教授の専門ゼミメンバーは各10人前後となることが多い。

ゼミでの基本的な研究テーマは「戦後日本の国際関係」。「3.11」後という世界史的局面に直面しているニッポンと平和の問題を、戦争への反省、サンフランシスコ体制や日米安保・米軍基地問題などを通して多角的に考察していく。
また国際学部の魅力のひとつである「校外実習」として、台湾・沖縄、そして広島を毎年訪れているという。
あらためてゼミ生たちへの指導方針については次のように語る。

「ゼミで扱うテーマは一筋縄ではいかない問題ばかりですので、卒業後も一生モノの問題として考え続けていってほしい。政治学を学ぶ意味は、日々の状況に流されないで主体的に生きる、その生き方を身につけることにあります。ですから、ゼミの勉強を通じて考えてほしいのは、『自分がこの問題だらけの社会にどう向かい合うのか』ということです」

こうした問題を仲間とともに考え議論するところに、ゼミの意義があるのだと強調する。「ゼミのテーマに基づいて、きちんと物事を調べ、どんどん読んで、書くのです。何かを『わかる』というのは『かわる』こと、わかっていなかった自分と、ある意味、別人になることです。そのことを恐れない、開かれた態度を身につけなくてはいけません。学ぶことの面白さを知る、ゼミはそのための場でもあります」

こんな生徒に来てほしい

なんとなく大学に入ってきたような学生も、あるとき「おや?」と何かを発見し、そこから真剣に勉強しはじめて、やがていろいろなことが見えてくる。そんな学生の変化を見るのが大学教員にとっての醍醐味です。それには校外実習の効果が大きいですね。旅をして今を生きる魅力的な人たちと出会うこと、これにより、ひと皮もふた皮もむけて、学ぶ姿勢が変わる学生が何人もいます。ですから、こんな人でなければというのは特にありません。あえて言うなら想像力は豊かであってほしい。「他人の痛みを想像できる人」ですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。