早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東京農工大学
農学研究院

野見山 敏雄 教授

のみやま・としお
1956年福岡県生まれ。’79年佐賀大学農学部農学科育種学研究室卒。’79年福岡県職員採用。福岡県嘉穂農業改良普及所勤務。農業経営担当。’84年福岡県農業総合試験場。経営部経営研究室勤務。’92年東京農工大学農学部助手。’97年同助教授。’04年組織改革で同大学院農学研究院助教授。’07年職名変更で同准教授。’08年より現職。この間に’95年文部省(現文部科学省)内地研究員(東京大学農学部)。九州農業経済学会学会賞・学術賞(’97年)。
主な著作に『産直商品の使用価値と流通機構』(日本経済評論社)『これからの農協産直―その「一国二制度」的展開』(共編著)『食料危機とアメリカ農業の選択』(共著・前著ともに家の光協会)などがある。
野見山先生が主宰する「野見山敏雄のページ」のURLアドレスはコチラ↓
http://www.tuat.ac.jp/~amtuat/nomiyama.htm

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農業の未来を探る「農産物流通論」研究

野見山研究室が入る東京農工大2号館
東京農工大府中キャンパスの正門

今週紹介する一生モノのプロフェッサーは、東京農工大学大学院農学研究院の野見山敏雄教授。学部での担当は農学部生物生産学科だ。まずは担当学科の特長から話してもらった。東京農工大学生物生産学科は『植物系』『動物系』『環境系』『社会科学系』の4つの系統からなる。

「これら4系統で農業全般について扱います。わたしが所属する『社会科学系』では、新しい農業技術の導入を推進したり、その導入技術に問題点はないかを調査したり、あるいは農村の構造問題などを社会科学的な視点から調査分析してその方向をアジャストメントするなどしています」

この生物生産学科の特長はといえば、まずは理論と実際が効率よく学べるカリキュラムにある。

「生物生産学とは、農産物の生産から消費までの人と自然にかかわる総合科学である――この観点に立った学部生への指導においては、いわゆる座学の講義に農場実習と生物学・化学実験・演習とを効果的に組み合わせて、様々な体系分野が学習できるカリキュラムになっています」

ちなみに同学科では3~4年次学生に校外実習が選択でき、3年次は農家で、4年次には農業関係の研究所で実習できる。

「地産地消」「半商品経済」から「生消共生」社会へ

東京農工大学「府中図書館」
東京農工大府中キャンパス点描

さて野見山教授について言えば、大学卒業以来ずっと農業経営について一筋に研究してきた。大きなカテゴリーとしては、社会科学分野のひとつ「農業経済学」(agricultural economics)として分類され、そのなかの農業市場学における「農産物流通論」(Agricultural Marketing)の研究が専門となる。

近年では「産直流通」に特化して研究中で、この分野のエキスパートとされる。ここで産直流通の産直とは、産地直送や産地直売・産地直結など種々の解釈があり得る。野見山教授における産直とは、生産者と消費者が結びつく「産地直結」のことを指す。

「日本の青果物は卸売市場での流通というのが一般的でした。それが70年代あたりから市場外流通というのが増えてきます。その発端になったのは、残留農薬のない野菜や本物の牛乳を子どもに飲ませたいという母親たちの運動でした。その背景になったのは、食の安心・安全の問題で、60年代に米ぬか油中毒事件や水俣病などの問題が発生していたからでした」

母親たちの消費者運動や生協活動等から始められたこうした産直流通も、ネット販売、 農業協同組合 (JA)や道の駅などの農産物直売所、有機農産物の宅配など非常に多様化し拡大して、いまや大きな流通形態になっている。

そこで現下の野見山教授の研究テーマは、大きく2つ。「地産地消」と「半商品経済」である。まずは地産地消のことから聞いてみた。

「地元で生産されたものを地元で消費する。この『地産地消』は、江戸時代までは当然だった形態です。近年また盛んになったのは、やはり食の安全問題でした。雪印加工乳集団食中毒事件やBSE(牛海綿状脳症、英Bovine Spongiform Encephalopathy)問題、食肉偽装事件の多発などが続き、そこで消費者としては誰がつくったかわからないものよりも、顔が見える生産者が生産した農畜産物を求めるようになったのです」

これらを国がバックアップしたこともあり、地産地消は急速に広まることになった。これには野見山教授が運動として関わっていて、各地に出向いて講演をしたり、地元JAや市役所にアドバイスをしたりしてきた。
もうひとつは「半商品経済」についてである。

「半商品経済とは、哲学者(元立教大学教授)の内山節さんが提唱した概念です。生産者の個性が残りつつ商品を超えた価値の有するもの、これにふさわしいのを『半商品』として、これを産直で流通させようという運動です。私たちはそれをさらに発展させて、『生消共生』(生産者と消費者の共生)の域にまで高めて共生社会システムを実現させるべくさまざまな共同研究をしてきました」

その延長として、消費者が代金を先払いして地域の農家を助ける「CSA」(Community Supported Agriculture)という、安全な野菜を産直販売する地域支援農業活動についての研究などにも力を入れはじめているそうだ。

農業を社会科学的に研究する――その面白さと厳しさ

韓国チェジュ島での韓米FTA影響調査
現地調査にて研究室生との集合写真

東京農工大学生物生産学科の学部生が各教員の研究室に配属になるのは3年次後期からだ。野見山研究室にも毎年2~3人が配属になる。配属先の定員を超えた場合は、原則として学生同士の話し合いで決められるのだという。

「学部生が配属になりますと、まず農業経済学の基本文献を輪読することから始めます。それと併行しつつ各自関心がある分野やテーマについて発表してもらいます。それを4年次に進級するまで続け、それぞれの卒業論文のテーマが決まってきます」

ここで、テーマさえ決まれば卒論の6~7割は完成!というのが野見山教授の持論なのだという。

「ただそのためには、徹底した自己分析、なぜそのテーマを選んだのか、なぜこの研究室を選んだのか、なぜ生物生産学科を受験したのか――これらを深く突き詰めることが求められます」

ここでの卒論テーマが非常に多岐にわたるのが野見山研究室の特徴でもあるらしい。ここ数年のリストをちょっと見せてもらっただけでも、「食品企業における食育問題」「生協産直の役割」「都市農業の存続について」「農産物認証制度の意義と課題」「農産物地域ブランド化の現状と課題」などといった、ニッポン農業を取り巻く数々の暗雲を吹き飛ばしてくれそうな興味深いテーマが並ぶ。

「社会科学というのは批判の学問である――そのことを学生に常に自覚してもらうようにしています」

あらためて研究生たちへの指導方針については、徹底して学生の自発性に任せることにある。なんと週1回開かれる教室研究会への出席だけしか義務はない。それでも毎日のように研究室に顔を出す学生も多いのだという。

「頻繁に研究室に出てくる学生とは自然と質問に答えたり話したりする機会が増えますから、そうした学生の卒論のレベルは必然的に上がります。自然科学の研究では、植物や動物の成長に合わせた管理が必要になってきます。それを逃すと1年間を棒に振ることになりかねません。一方、社会科学の研究は他律的な規制は受けにくく、学生はのんびりする傾向があります。ですから緊張感をもちながら自らを律して研究過程をコントロールすることが重要です。そのことは最初に必ず伝えるようにしています」

こんな生徒に来てほしい

地球規模でも国内レベルにおいても食糧問題や農業問題を学ぶには本学科はとても良い環境にあると思います。とくにキャンパスが都内にあることから、中央官庁や各メーカーへのアクセスが非常によい。そうした利便性を生かしながら、これからの食糧農業問題を解決しようという有意なる若者に来ていただきたいですね。
さらにいえは、農業経済学を学ぶ学生というのは、いわゆる自然科学系とは違った方法で学ぶことができます。つまり頭のなかに「実験装置」を構築することにより、うまくすると「一生モノの研究分析器」を自らのなかに持つことにもなり得るのです。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。