早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東京大学
経済学研究科

柳川 範之 教授

やながわ・のりゆき
1963年埼玉県生まれ。’83年大学入学資格検定試験合格。’88年慶應義塾大学経済学部通信教育課程卒業。’93年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。’93年慶應義塾大学経済学部専任講師。’96年東京大学大学院経済学研究科助教授。’07年制度変更により同准教授。’11年より現職。日経・経済図書文化賞(07年)。
著作は『法と企業行動の経済分析』(日本経済新聞社)『元気と勇気が湧いてくる経済の考え方』(日本経済新聞出版社)『独学という道もある』(ちくまプリマー新書)など多数。
柳川先生が主宰する「柳川範之のウェブサイト」のURLアドレスはコチラ↓
http://noriyukiyanagawa.com/

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みんな幸せになるための「法と経済学」

柳川研究室が入る「経済学研究科棟」
冬枯れの安田講堂前「イチョウ並木」

今回紹介するのは東京大学大学院経済学研究科の柳川範之教授。なんと高校に行かずに独学で大学入学資格検定試験(大検・現高等学校卒業程度認定試験)に合格し、慶應義塾大学では通信教育課程を履修して卒業という学歴の教授である。

「父親が海外勤務の多い仕事でして、小学校もシンガポールの日本人学校を卒業しています。わたしの高校就学時期に父はブラジルに赴任したことから、わたしは高校3年分の教科書と参考書をもってついていって、現地で独学しました。独学はそれなりに覚悟のいる決断でしたが、何もやらないと大変なことになるという危機感はありましたから、自然な形で勉強には対せましたね」

そう当時を振り返る柳川教授。そして、大検に合格して慶應義塾大学経済学部に進むが、これも通信教育を履修することになる。

「大学在学時も父の仕事の関係でシンガポールにいましたから、通信課程で学ぶという選択になりました。ただし、慶應義塾大学の通信課程の指導は大変きびしくて、いろいろ苦労させられました(笑い)。長文のリポート提出の課題が多く、それをクリアしないと試験すら受けられないシステムでした。このリポートの作成がとにかく難物だったんですね」

まだネット時代前夜のことである。日本語の情報すら乏しい環境のもと、リポート作成に悪戦苦闘したであろうことは想像に難くない。

「シンガポール時代の苦労がいまも生きているとは感じています。とにかく自ら動いて、テキストを自分で読み取って理解していくしかありませんでしたからね。その経験がいまの仕事や研究にとても役立っています」

企業統治やM&Aなど企業行動のあり方を探る

枯れ葉も浮かぶ冬の「三四郎池」
東大グッズそろうコミュニケーションC

柳川教授が学部課程で担当しているのは経済学部金融学科で、’07年に開設されたばかりの新学科でもある。まずは東京大学金融学科について解説していただこう。

「この学科で扱うのは金融問題全般についてで、具体的には、中央銀行の金融政策をはじめ為替・市場などマクロの金融問題、銀行行動の分析、ファイナンスなどになります。この学科で特徴的なのは、こうした金融問題に加えて、マクロ経済学や財政問題・開発経済などの他学科の科目も学べて総合的な経済学の知識を身につけられるところでしょう」

さらに最近は、心理学や社会学・生物学までも学べる環境が整いつつあり、非常に学際的になっているとも語る。そんな柳川教授のご専門は「法と経済学」と「金融契約論」だ。

「金融は『経済の血液』とも呼ばれますから、これをいかに上手に回していくのかが大切です。そのために多くの法律や規制が整備されていまして、それをどう変えれば金融の循環が良くなるのか――それらを研究するのが、『法と経済学』であり『金融契約論』になります。非常に学際的な分野で、しかも現実の経済活動に影響を与えますから、そこが難しくもあり、面白いところでもあります」

最近、柳川教授が取り組むおもな研究テーマに「M&A」(企業買収、英mergers and acquisitions)や「コーポレート・ガバナンス」(企業統治、英corporate governance)などがある。それらの法律づくりの政府委員会にも委員として参加してきた。

「M&Aについては、’06年のライブドア事件をへて法改正が進められ、昨年(12年)の企業買収は過去最高を記録するまでになっています。コーポレート・ガバナンスのほうは企業経営を監視する仕組みのことです。その仕組みのルールはどうあるべきかを研究し、実際に法律改正の議論にも参加しています。新しいところではインサイダー取引(内部者取引、英insider trading)の規制問題にもかかわってきました」

それらの研究コンセプトの根本にあるのは、「みんなが幸せになるためのルールづくり」に尽きるという。

自らのゼミ研究成果は市販単行本化される

冬の日の東大本郷キャンパス点描
東大キャンパス前を走る「本郷通り」

東京大学経済学部のゼミ演習は3年次から始まる。柳川教授のゼミでは例年12~13人の学部生を受け入れてきた。選抜はグループ・ディスカッション方式で行う。ゼミ希望者間の討論を先生自ら見ながら選抜していく。ポイントは「やる気と意欲・積極性」なのだそうだ。

3~4年次合同のゼミでは、前・後期でそれぞれ1冊の金融・経済に関する英語の専門原書を輪読し、全員でディスカッションを重ねていく。これを基本としつつ、このほかに年4回ほどディベート大会も開かれる。

さらに柳川ゼミにおいて特筆すべきことは、隔年ごとにテーマを決めてゼミ生全員で原稿を執筆し、その研究成果を一般書として出版しているのだ。編著者「柳川範之+柳川研究室」による著作がすでに何冊もある。これはゼミ生にとって大いなる励みにもなっているようだ。

なお4年次ゼミ生には、これとは別に卒業論文の作成がある。あらためてゼミ生たちへの指導方針について次のように語ってくれた。

「自ら発言して議論のできる人になってほしいと思って指導しています。ゼミにディベートを積極的に取り入れているのもそのためです。高校までと大学における学習とでの一番の違いはこの点ではないかと思います。自ら考えた意見をきちんと言えること、これなしでは社会で通用しませんからね」

大学を出るまでにコミュニケーションとプレゼンテーションの能力をしっかりと身につけてほしいと強調する。さて最後に、独学のエキスパートともいえる柳川教授に「ひとりで学ぶことの奥義」についても話してもらった。

「将来なりたいものや成し遂げたいことを、具体的な目標として心のなかにしっかりと持つことですね。その願望が強ければ強いほど頑張れるはずです」

こんな生徒に来てほしい

好奇心のある人に来てほしい。高校までの勉強と違って、大学で学ぶ問題には明確な答えなどありません。つまり学問というのは、何が正しいのか分からないまま悪戦苦闘するというのが本質なのです。大学で伸びる可能性をもつのは、自分らしい好奇心のもと、いろいろと知りたい、調べたいと思える人だといえます。ぜひ、そんな人を望みたいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。