早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東京工芸大学
芸術学研究科

吉田 成 教授(研究科長)

よしだ・あきら
1957年東京生まれ。’82年日本大学大学院芸術学研究科文芸学専攻修士課程修了。’84年東京大学史料編纂所文部科学技官。’94年米ジョージ・イーストマン・ハウス国際写真美術館で研修(文化庁派遣芸術家在外研修員)。’99年国立西洋美術館客員研究員。’04年東京大学史料編纂所附属史料センター共同研究員。’04年東京工芸大学芸術学部写真学科助教授。’07年より教授。
主な著作に『写真史料の保存』(日本図書館協会)『幕末・写真の時代』(筑摩書房)『研究者のための史料写真の撮り方』(理工学社・著作はいずれも共著)などがあり、写真集に『残された原風景 東京、佃・月島界隈』がある。
先生が主宰する「吉田成研究室」のURLアドレスはコチラ↓
http://blog.latened-image.com/

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「風景」を伝える写真表現・修復研究

吉田研究室が入る中野キャンパス1号館
案内掲示版も電子化された1号館ロビー

今週の一生モノのプロフェッサーは、東京工芸大学大学院芸術学研究科の吉田成教授(学部は芸術学部写真学科)である。まずは写真学科の特長から話してもらった。

「本学は前身校が東京写真大学でして、写真に関する教育研究については90年の歴史を有します。学生指導については、写真の理論的研究者というより写真制作者の育成を主眼にしております。かつては写真の技術や科学に教育の重点が置かれ、実務的なカメラマンの人材育成が中心でしたが、近年はアーティストとしての写真作家をめざす人が増える傾向にあります」

それを裏付ける話として、写真界の芥川賞ともいわれる「木村伊兵衛写真賞」(朝日新聞社主催)などで、近年も同校の卒業生や大学院生による受賞が相次いでいる。

「さらに、この学科の特長として、学生と教員との距離の近いことが挙げられます。そこで密度の濃い関係が生まれ、学生たちは自分の担当以外の教員にも作品を見せて批評を仰ぐのが当たり前になっています。そんな関係の中から作家性のある学生が育っているのかとも思いますね」

吉田教授ご自身は東京工芸大学出身ではないだけに、そんなことが客観的に見えるのかもしれないとも語る。

百年後の人に見てもらう―そのための写真撮影・修復

撮影から現像焼付までの専用スペース
最新技術ほこる「デジタル写真演習室」

吉田教授のご専門は「写真表現」「画像保存」「写真史」だ。写真表現とは、いわば教授自身が本来めざしてきた写真作家への道で、それはアメリカ滞在時に撮影した作品展『ロチェスターからの贈り物』を東京とニューヨークでで開催したり、写真集『残された風景 東京、佃・月島界隈』などに結実している。

「わたしの写真のテーマは、かつては自然の情景の部分を切りとって、その形態や質感に注目した造形的な写真が多くありました。それが最近は、写真のもつ記録性について考えるようになり、いまを後世に残しておきたいという想いが強くなっています。ひとりの写真家として、急速に変貌している東京という街の今を写真で残し、100年後の人に見てもらいたい――そんな気持ちで撮影しています」

吉田教授の撮影テーマに変容をもたらしたのは、研究テーマが、「写真表現」に「写真の保存・修復」が加わったから。いまの街並みのありのままの姿を後世に伝えることに意義を見い出したためである。その「画像保存」(写真の保存・修復)については――

「写真の保存・修復について、以前は、化学的に制作し劣化した写真は化学的に修復するという考え方がかつての主流でした。しかし、それでは、画像を一時的によみがえらせることが出来ても、後に取り返しがつかない劣化が起きてしまうことがありました。そこで現在では、写真の保存・修復の基本的な考え方は物理的に保護をする方法が中心になりました」

ここでその実物を筆者の前に広げて見せてくれた。古い写真が1枚ずつ厚紙(写真に悪影響を与えない材質でつくられている)のケースに収納され、なるべく外気にふれないような工夫がなされている。それら古い写真はおびただしい数にのぼるが、そのほとんどは吉田教授が私費を投じて国内外からコレクションしたもの。それもこれも後世の写真家の卵たちに本物に触れさせたいという想いからだという。

「写真史」の研究については、独自コレクションした古い写真のそれぞれ撮影年代を推定することから始まった。

「写真術の発明は19世紀の前半ですが、その後、今日までの間にさまざまな材料を使って写真が制作されてきました。使用する材料によって、つまり写真の支持体が、金属かガラスか紙かフィルムなどによって、また画像材料が、銀か顔料かその他の材料かなどによって、写真技法や制作年代を推定する方法があります。また、劣化の状態や写真を入れたケースのデザインや、ケースに使用された材料などから制作年代を推定するなどいろいろな方法があります」

写真技法や制作年代の推定方法はたくさんあり、さまざまな方法を駆使しながら写真技法や制作年代などを解明していく。そうした作業はなぞを解く探偵のようでとても楽しい――そう語る吉田教授であった。

「自らの気持ち」が育てる一生モノの写真人生

古写真資料を広げて説明する吉田先生
「古典技法演習室」内にて吉田先生

東京工芸大学写真学科学部生の研究室配属は、3年次学生が半期配属のプレゼミとして、4年次が通年としての配属となる。吉田研究室にも例年それぞれ10数人ほどが配属されてくる。研究室配属になった学生たちには、古典技法による写真制作などの研究を楽しみながら行っている。

「まず3年次の学生には19世紀の『ゴム印画技法』による焼き付け、つまり、紙にアラビアゴムと絵の具・重クロム酸カリウムを混ぜたものを塗布し、その上にネガを重ね合わせて、太陽光や人工的な露光機で光を照射して焼き付ける方法でやってもらいます。4年次の学生には、『鶏卵紙』による写真制作の研究を行っています。これも19世紀に流行した技法で、卵白に塩を混ぜて紙に塗り、その上から硝酸銀溶液を塗って化合させ、そこにネガを重ねて露光する方法です」

これら古典技法による写真制作の研究の一方で、もちろん自作の写真作品の提出も義務づけられる。3年次が各自10枚以上で、4年次は20枚以上である。このうち3年次学生は、写真学科3年次の全学生と教員の前で、自作を掲示しつつのプレゼンテーションを体験する。

そして4年次学生の作品については、ほかの芸術学部4年次学生の卒業制作作品とともに六本木や秋葉原など、東京の中心で公開展示されることになる。これは芸術学部7学科をあげての一大イベントとして学生たちの大きな励みにもなっている。あらためて吉田研究室に集う学生たちへの指導方針について伺うと、次のような答えが返ってきた。

「わたしは若いころ心理学のカウンセリング手法も学んでいることから、個々の学生と向き合い話し合うことで、作品テーマの絞り込みなどについて、彼らが自ら気づくように導いています。つまり、指導するこちら側の価値観を押し付けるのではなく、学生が自分で考えて自ら気づくという方法で、コミュニケーションを大切にしながら才能を伸ばすようにしたいのです」

こんな生徒に来てほしい

一番大事なことは、写真が好きであること、写真を撮りたいという気持ちのあることです。芸術系を学ぶには才能が必要だとも言われますが、わたしは好きであることこそが一番の才能だと思います。たとえ知識などなくとも、写真を一生かけてやっていきたい――その強い気持ちさえあれば大丈夫ですよ。細かな知識など私たちがゼロから教えます。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。