
國學院大學
経済学部 経済学科
菅井 益郎 教授
すがい・ますろう
1946年新潟県生まれ。’69年早稲田大学第一政治経済学部卒。’69年より柏崎刈羽原発反対運動に参加。’76年一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了。’76年東京大学社会科学研究所助手。’80年國學院大學経済学部経済学科専任講師。同助教授を経て、’89年より現職。この間’87年米ペンシルベニア大学ウォートン・スクール客員研究員。’90年市民エネルギー研究所研究員。主な著作に『通史足尾鉱毒事件 1877-1984』(新曜社)『原発廃炉に向けて:福島原発同時多発事故の原因と影響を総合的に考える』(日本評論社)『技術と産業構造』(東京大学出版会・英語版あり)などがある(著作はいずれも共著)。
「菅井ゼミ」のURLアドレスはコチラ↓
http://kuin.jp/fur/sugai/sugai.htm
「負」の視点からの日本経済史研究
今週紹介する一生モノのプロフェッサーは、國學院大學経済学部経済学科の菅井益郎教授である。まずは、所属する学部学科の特徴から話してもらった。
「本学経済学部は(1)経済学科(2)経済ネットワーキング学科(3)経営学科―の3学科からなっています。経済学部とは、市場の経済原理による動きを研究する場所。そこで経済ネットワーキング学科という存在は、経済原理によって動かないもの(NPOやNGO・地方自治体など)の活動について研究する学科で、これはかなり特徴的なところではないでしょうか」
さらに、國學院大學経済学部3学科の融通性に富んだ修学制度についても語る。
「3学科とも他学科の科目を自由に履修することができます。たとえば経済学科で経済活動の原理を学びながら、経営学科の会計科目を履修して税理士をめざすことも可能です。それぞれゼミ演習は学科の枠を越えて、自由に取ることもできるようになっています」
このほか少人数教育であること、コンピューター教育に力を入れていることなども挙げてくれた。
原発・公害事件に共通するニッポン流無責任
菅井教授のご専門は、「日本経済史(近現代)」「日本公害史」「エネルギー・環境問題」。その中心的な研究テーマは近代日本の経済発展を「負の側面」からとらえていくというものだ。経済学の研究手法としては特異な視点であり、それだけに興味深い。
「わたしが経済発展を負の側面からとらえることになるキッカケは、田舎で原発問題に直面したことと、大学院時代に故・都留重人先生(元一橋大学名誉教授、1912~06年)と出会ったことにあります。日本で最初に公害問題を経済学のなかで論じた人、それが都留先生なのです」
日本における環境経済研究のパイオニアの教えを継承し、発展させてきたのが菅井教授なのだ。
「明治維新から60年代高度経済成長期まで、この国の経済は生産第一主義で貫かれ、それに伴う公害問題や労働災害にほとんど配慮がなされてきませんでした。生産効率だけを重視して大量生産し大量消費するということは大量廃棄につながります。それがまた悲惨な公害事件などを発生拡大させてきたのです」
そうした経済構造を見直して国民の福祉を充実させていくためには、環境汚染や都市貧困問題などを引き起こす負の要因を小さくする努力を惜しまないことだと菅井教授は語る。
「環境問題の基本は廃棄物をいかに管理するかにあります。そのためには生産構造の基本から変えなければなりません。本当に必要なものは何か? そうした議論と了解のもと、必要最小限のものだけを生産する省エネ・省資源の社会構造を目指さないといけません。その動きは欧米先進国ではすでに始まっています」
環境汚染といえば、わが国には3.11大震災に伴う福島第一原発事故による放射能汚染の問題がある。じつは菅井教授は70年代初頭から反原発運動に参加してきた人でもある。
「原発というのは、放射能の大量生産システム以外の何物でもありません」
そう断じる菅井教授。今回の原発事故は、公害問題における足尾銅山鉱毒事件や水俣病などに通じるものがあるとも語る。
「福島原発事故と足尾鉱毒・水俣病とに共通するのは、責任の所在があいまいに回避されているところです。たとえば福島原発事故では、その経営責任は第一義的に東京電力にあるとしながらも、国策として原子力政策に沿って遂行したのだから、国にも責任があるというような言い方がされます。これは足尾・水俣でも戦争責任でも同じで、そうやって誰も失敗の責任をとらない悪弊が繰り返されていきます」
菅井教授は別のところで「資源の枯渇と大量の廃棄物に対して、経済学は有効性を持ちうるか」と書く。これは重い問いかけである。
一生モノの批判的視点と環境問題知見を培う
國學院大學経済学部のゼミ演習は2年次後期から始まる。菅井研究室では、例年15~16人ほどのゼミ生を受け入れている。人気のあるゼミで、希望者が倍ほどに達することもあり、例年のように選抜になる。
「選抜の方法はリポートの提出と面接になります。面接は、先輩ゼミ生の代表6人とわたしが面接官になります。選抜のポイントは、環境問題に関心があるのか、ユニークな活動や体験をしてきたかなどになります。わたしと先輩ゼミ生たちの間で意見が分かれることは滅多にありませんね(笑い)」
2年次後期からゼミ入りすると、まずは環境エネルギー問題に関する新聞記事をスクラップすることが課せられる。その中から自ら関心のある記事についてそれぞれで発表し、全体で議論していく。
また菅井ゼミでは現地調査を年2回おこなう。産業廃棄物最終処分場におけるフィールドワーク調査が夏合宿の定番。そして春には、足尾銅山鉱毒事件の被害跡地踏査と、トヨタ「産業技術記念館」の見学とを隔年でおこなっている。
なお國學院大學経済学部は卒業論文が必修ではない。その代わりに菅井教授は「ゼミ修了論文」提出を義務づける。そのテーマは自由で、環境問題についての論文が多い。
そんななか國學院らしく宗教問題や死生観、さらには自分が就職する業界についての体験調査なども交じって、バラエティーに富んだ修了論文が毎年提出されるという。ちなみに推理小説作家として活躍する永瀬隼介(ノンフィクションライターとしての本名は祝康成)氏は菅井ゼミのOBでもあるそうだ。
あらためて最後にゼミ生たちへの指導方針についてこう話してくれた。
「自らの頭で考え抜いた意見をはっきり言えること。そのためには何でも無批判に受け入れるのではなく、物事を批判的に見る視点が必要になります。新聞記事をスクラップさせるのも、書いてあることを単にストレートに受け取るだけでなく、批判的に読むよう指導しているつもりです」
こんな生徒に来てほしい
何につけても面白がって思い切って取り組めるような人がいいですね。物事に熱中できる人。自らのやりたいことをする。それこそが、人生でいちばん大切なことなのです。また若いうちは失敗することも必要だと思います。
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