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GOOD PROFESSOR

東京工科大学
応用生物学部

多田 雄一 教授

ただ・ゆういち
1963年千葉県生まれ。’88年東京大学大学院農学系研究科修士課程修了。’88年三井東圧化学ライフサイエンス研究所研究員。’92年博士(農学)東京大学。’96年三井業際植物バイオ研究所研究員。’98年茨城大学農学部非常勤講師。’99年三井化学ライフサイエンス研究所主任研究員。’04年新エネルギー産業技術総合開発機構主査。’05年東京工科大学バイオテクニクス学部助教授。’07年同准教授。’08年応用生物学部に学部名変更。’09年より現職。
著作には『環境バイオテクノロジー』(三恵社)『図解 環境バイオテクノロジー入門』(共著・日刊工業新聞社)がある。
先生が主宰する「多田研究室」のURLアドレスはコチラ↓
http://www2.teu.ac.jp/tada/

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砂漠化を止める植物バイオテクノロジー

多田研究室の入る片柳研究所棟
早春の八王子キャンパス点描

今週の一生モノのプロフェッサーは東京工科大学応用生物学部の多田雄一教授だ。まずは、同学部ではどんなことが学べるのか語ってもらった。

「学部全体では、生物の機能を工学的に利用して、人々の暮らしをより豊かにしたり、環境の改善を図る方策を研究しています。このコンセプトのもとに、(1)バイオテクノロジーコース(2)環境生物コース(3)先端食品コース(4)先端化粧品コース――の4つのコースが設けられています」

応用生物学部において学科制を採らずにコース制を敷いている理由についてはこう語る。

「学科制ほど厳密な縦割りになっていないため、他コースに興味のある科目があれば自由に履修することができます。また、学ぶうちに他コースのほうが自分には向いていると気づくこともあり得るわけですが、転科と違って容易にコース変更が可能です」

多田教授が所属するコースは「環境生物コース」だ。

「このコースでは、バイオテクノロジー(生物工学、英biotechnology)を活用して環境の浄化や修復などについて研究していきます。水をはじめ、植物・微生物・バイオマスなどをそれぞれ専門にする教員がそろっていて、環境問題への生物学的アプローチについて総合的に学べます」

耐塩性植物の育種開発に心血を注ぐ理由とは

理系蔵書数を誇る図書館棟
書店コンビニ等が入るFOODFUU

そう語る多田教授の専門は「植物バイオテクノロジー」と「植物分子育種」(Plant Molecular Breeding)。具体的な研究内容について説明いただいた。まずは、バイオテクノロジーを活用した耐塩性植物の研究開発から。

「植物には、塩分への耐塩性が強い植物と、弱い植物があります(ほとんどの植物は塩に弱い)。塩に強い木性植物の代表が『マングローブ』(Mangrove)ですが、実はマングローブという特定の植物種があるわけではありません。塩に強い木本植物を総称してそう呼ぶのです」

’08年のこと、多田教授はそのマングローブ樹種の「オヒルギ」(雄蛭木、学名Bruguiera gymnorhiza)から耐塩性遺伝子を取り出し、アブラナ科の「シロイヌナズナ」(白犬薺、学名Arabidopsis thaliana)に移植して耐塩性を付加させる実験に成功した。世界初のことである。

「一応この実験は成功しました。ただ耐塩性については、期待した3分の1以下の効果までしか達成できませんでした。そこで、亜熱帯域の海辺に自生するイネ科の『ソナレシバ』に着目して、そこからオヒルギより強い遺伝子を最近発見しました」

無論これも世界初の発見だ。これほどまでに耐塩性遺伝子の発見と、耐塩性植物の育種開発に心血を注ぐ理由を問うと、地球レベルの砂漠化(Desertification)問題の深刻化があった。その砂漠化と耐塩性植物の関係についてこう説明する。

「地球上には塩類集積(salt accumulation)といって土壌塩分濃度の高い地域が3割近くも占めています。そこでも植物が育たずに砂漠化が広く進んでおり、そこに耐塩性植物を大規模に植えて緑化していきたいのです」

このほか砂漠化の主な原因として、地球温暖化(Global Warming)に伴う急激な気候変動と乾燥化の問題もある。もちろん多田教授の研究には、砂漠化のもうひとつの原因である乾燥にも強い植物種の研究もある。

「こちらは中南米原産の落葉低木である『ヤトロファ』(南洋油桐、学名Jatropha curcas)という植物について研究しています。これは、生育が早いうえに乾燥に強く、わたしの実験では2年くらい水を与えなくても枯れませんでした。サボテンより強いという説もあるほどです」

これら塩と乾燥に強い2つの植物により、地球の砂漠化に歯止めをかけようという多田教授の想い。まさに全人類待望の研究だ。

このほかには、「空気浄化植物の創製」「植物の機能性成分」「植物の耐病性」「DNA検定」「組織培養法」などと幅広く研究テーマを抱えているという。

研究室・ゼミのモットーは「自ら考えて行動」

培養植物を点検する多田教授
実験室内での学生と多田教授

東京工科大学応用生物学部の学部生は、3年次の夏から各教員の研究室に配属になる。多田教授の研究室でも例年12~14人の学部生を受け入れている。人気のある研究室だけに配属を希望する学部生は多く、例年のように選抜になるという。

「基本的には成績順による選抜になりますが、やる気と熱意があれば成績が多少悪くても採るようにはしています。ボーダーライン上の人については、わたしが面接をして、志望動機を細かく聞くなどして決めています」

3年次の夏に配属になった学部生たちには、空いている時間はすべて研究室を訪れてもらい、先輩たちのいろいろな実験内容を見学することから始める。

「そうやって実験方法を学びつつ、自ら興味のある研究テーマを絞り込んでいきます。卒業研究のテーマ決めについては、わたしの方からいくつか候補を提案し、その中からそれぞれ選ぶというスタイルです。学生側から希望が出されるときには、卒研にふさわしいテーマであれば出来るだけ認めるようにしています」

多田研究室ではひとり1テーマが原則で、各自で卒業研究に立ち向かう。さらにゼミ演習として英語論文の講読があり、担当を交代しながら全員の前で発表していく。

「研究論文ですから専門用語も交じり、英語が苦手な学生諸君にはちょっと辛いゼミにもなっているようですね(笑い)。しかし、そういう体験を学生時代にして壁をいちど乗り越えておくと、ますます厳しさを増す社会に出てからも役立つのではないかと思ってやらせています」

最後にあらためて学生指導において日ごろ心掛けていることについて次のように語ってくれた。

「『自ら考えて行動する』をモットーに指導しています。3年次までの実験はすべて準備されて結果もわかり切っている実験ばかりです。しかし卒研以降の実験研究は、準備から自分で考えねばならず、その結果など誰もわかりません。それが、ひょっとしてノーベル賞級の研究につながらないとも限りません。そういうことを意識して手を抜かないで研究に臨むようにと日々指導しているつもりです」

こんな生徒に来てほしい

生き物である植物を対象にする実験研究は、他分野のサイエンス実験などと違って、同じようにやっても同じ結果になるとは限りません。その意味で、時間もかかって大変なことだらけです。それだけに成功したときの喜びは特別に大きい。植物が好きで、粘り強く研究に取り組める人が来てくれたら素晴らしいなと思いますね。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。