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GOOD PROFESSOR

東京農業大学
地域環境科学部 森林総合科学科

上原 巌 教授

うえはら・いわお
1964年長野県生まれ。’88年東京農業大学農学部林学科卒。’97年信州大学大学院農学研究科森林科学専攻修士課程修了。’00年岐阜大学大学院連合農学研究科生物環境科学専攻博士課程修了。この間に長野県の高校や養護学校、知的障害者更生施設、児童館などに勤務。’02年東海女子大学人間関係学部専任講師。’04年兵庫県立大学自然環境科学研究所助教授ならびに兵庫県立淡路景観園芸学校主任景観園芸専門員。’06年東京農業大学地域環境科学部森林総合科学科准教授。’11年より現職。日本森林保健学会理事長。
主な著作に『森林療法のすすめ』(コモンズ)『ジョン・レノンが愛した森 夏目漱石が癒された森』(全国林業改良普及協会)『回復の森』(監修・川辺書林)など多数がある。
「上原巌研究室」のURLアドレスはコチラ↓
http://www.geocities.jp/ueharaiwao/

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上原研究室が入る東京農大7号館
早春の農大世田谷キャンパス正門

「森林療法」実証研究のパイオニア

東京農業大学には地域環境科学部森林総合科学科がある。果たしてどんな学部で、どんな学科なのか?上原巌教授に説明してもらおう。

「今、『地域の時代』といわれますが、その地域について幅広く学ぶ学部です。つまり森林に始まり、そこから流れ出る川、さらにその川が潤す里や街についてまでを、林学や農業工学・造園学などを使って学んでいきます。これからの地域をいかに豊かな暮らしに創造していくのかが学べる学部です」

つぎに森林総合科学科については次のように語る。

「これまでの『林学科』にあたる学科ですが、学科名に『総合』が入っているのは、森林について社会学や人文学・心理学・倫理学までをも駆使したアプローチを試みようという意図があるからです。ですから林学の技術的なことも含めて、森林について理系・文系も織り交ぜた総合的に学べる学科となります」

近年この地域環境科学部森林総合科学科の学生たちには、卒業後に故郷に戻って地域活性化のために働きたい人が増えているそうだ。新しいコンセプトによる学部学科カリキュラムの効果も大きいのだろう。

建設中の東京農大「新図書館棟」
東京農業大学「食と農の博物館」

豊富な実証例を集めて科学的視点から療法を検証

上原教授による東京農業大学大学院における指導科目の一つに「森林療法」がある。森林療法(Forest therapy)や森林浴(Forest bathing)について講義する講座があるのは、全国あまた大学と大学院があれどもここだけだ。つまり、上原教授が唯一ということになる。森林療法については、東京農業大学の学部科目の「森林アメニティ学」の中でも講義しているという。

「かつての森林は木材を切り出したり、肥料や山菜の生産の場としての役割が主でしたが、近年は人々の健康に役立つことが見直され、健康増進のかたちで活用されるようにもなっています。わたしはここに着目し、森林のなかに身を置くこと、あるいは森林保全活動をすることで得られる健康への効果を、科学的な視点から研究・検証しています」

森林療法によって症状の改善が確認されたものには、(1)認知症=「コミュニケーションや短期の記憶障害の改善」(2)知的障害=「異常行動や問題行動の減少」「コミュニケーションの改善」(3)PTSD(心的外傷後ストレス障害)=「パニックや衝動行動の改善」――といったものが挙げられる。

このほかに「抑うつ症状」「不登校」などにも改善効果がみられた事例があるという。この森林療法に上原教授が出会ったのは、農業高校で教員をしていたときであった。

「わたしが担任していた生徒の一人に不登校の子がいまして、校内の相談室や保健室でカウンセリングしても効果があらわれませんでした。そこで学校の演習林にいっしょに行ってカウンセリングをしてみたのです。すると、気分の改善が進み、自分から登校できるまでになりました。これが森林療法との出合いでした」

さらに、養護学校に勤務していたときには、日ごろケンカを繰り返す児童たちが、森林に連れていくと非常に穏やかになり、その帰りには手をつなぎ合うまでに変化することなども経験する。

「こうしてダイナミックに全身にはたらきかけてくる『森林の力』は小手先のものではないと感じるようになり、本格的に研究するようになりました。現在は、おもに森林療法の具体的な実証例を集めている段階になります。この療法の良いところは特別なお金がかからないことにもありますしね(笑い)」

このほか上原教授は、健常者の健康増進も兼ねて、放置林の再生作業も手掛けている。ここでの伐採作業もチェーンソーや電動工具など使わず、人の手でコツコツとゆっくり刈っていくのだそうだ。森のなかで働く人々にもそれが療法的に良い効果をもたらすのだという。

「最も健全で最も美しい森林は、最も我々の健康を増進させる」

これこそが上原教授のモットーだ。なお、上原教授は造林学(Silviculture)も専門分野としており、「二次林(里山)の再生」「植物の休眠」「挿し木の研究」などの研究も手掛ける。

小雨けぶる世田谷キャンパス点描
小雨けぶる世田谷キャンパス点描

フィールドワーク実践のなかで研究テーマを探る

東京農業大学森林総合科学科の学部生が、各教員が主宰する研究室に配属になるのは3年次からである。上原研究室には、例年25人前後の学生が配属になる。配属希望者は全員受け入れるのを原則としており、多い年は30人ほどになることもあるそうだ。

「3年次の4月から研究室に配属された学部生には、挿し木の実習を全員でしたり、さまざまな樹木の名前を覚えたり、あるいは大学の演習林に行って各種調査の方法について学んでいきます。こうしたフィールドワークで造林学の基礎を学ぶわけです」

こうして3年次の1年間フィールドワークを重ねながら、それぞれの卒業研究のテーマを決め、4年次に1年間かけて研究を仕上げるという段取りとなる。

ちなみに、これまでの卒研テーマの中で上原教授の印象に残るものとして、「樹木の香りについて」「クスノキ(樟)に付く虫について」「ナラ(楢)枯れの原因について」などを挙げてくれた。こうした研究テーマはいずれも学生側から提案されたものばかりだそうだ。あらためて研究生・学生たちへの指導方針について次のように語る。

「高校までと違って、大学は能動的で自由な学習の場です。それは主体的に学習しなければならないということです。将来、森林に関係しない職業に就く人もいるとは思いますが、ここで学んだ自然に対する想いとか、樹木を大切にする気持ちなどを一生忘れないようにと指導しているつもりです」

最後に、現役合格をめざす高校生のためにアドバイスもいただいた。

「受験勉強などで疲れたときには、近くの公園や神社仏閣など樹木の多いところに出かけてしばらく休養するといいですよ。これは『転地効果』(Effect of change of air)といって、気分がリフレッシュされ、疲れがとれます。これで勉強の効率も上がるはずです」

こんな生徒に来てほしい

森と人間その両方に興味のある人に来てほしいですね。森林は、みなさんが思っている以上に魅力に富んだ対象です。たとえばカツラ(桂)の葉はいい匂いがするため、化粧品やチョコレートの原料に混ぜて使われています。そんな使い道は他にもたくさんあり、いろんな可能性にも満ちているのです。人間になくてはならない森林は、ありがたいことに日本国土の7割を占めています。その森林と人間とのかかわりについて是非いっしょに学んでいければと思います。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。