
成蹊大学
理工学部 システムデザイン学科
弓削 康平 教授


無敵の設計ツール「計算力学」を研究
この世のあらゆる建築物や機械・航空機・船舶・自動車など、「固体系」を新たにつくろうと構造設計などに取り掛かる際には、必要に応じて構造力学や流体力学・音響力学・振動力学などによる、力学計算(dynamic computation)が必ず伴う。従来、この種の力学計算は各分野に特化した専門家が専ら扱うべきものとされてきた。
この力学計算において、各分野の枠にとらわれずにコンピューター上でシミュレーション計算する研究方法を提唱するのが、今回紹介する成蹊大学理工学部システムデザイン学科の弓削康平教授である。
「’91年に開設されて早々の『計算力学研究室』に着任した当時は、コンピューターを用いて力学シミュレーションを研究する研究者は数多くいませんでした。それから20年以上を経て、いまや多くの研究者が力学計算にコンピューターを用いています。ただ専門家への遠慮からか、計算力学研究の看板を掲げる研究者は少ないのが実情ですね」
そう言って笑う弓削教授は、日本において研究仲間とともに道を切り拓いてきた。ご専門は、「流体系」(liquid system)を除く固体系の構造と振動・熱などの力学計算である。
「コンピューター・シミュレーションを用いれば、構造といっしょに振動や熱なども合わせて扱うことが出来て、個別の計算ではわからなかったものも判明するメリットがあります。その一方で、力学の計算には、いろいろな過程のデータを入力する必要があるので、その分野に精通している専門家の協力が必要になります」
力学計算で精密なシミュレーションをする際に、建築物なら建築物(機械なら機械)などの専門家の意見が大切となる。そこで弓削教授も、必要な過程のデータを収集するために必ずプロとの共同研究のかたちを採用しているという。
これまで弓削教授は、自動車の衝突安全の設計をはじめ、大地震のときに個別の建物がどのように倒壊するか、さらには市町村全体がどのようなダメージを受けるのかをシミュレーションする国家プロジェクトなどに研究参加してきた。
「近年コンピューターの性能が良くなったことにより、これまで不可能とされていた、ヒトの身体内の力学計算すらも現実的になってきました。わたしの研究室でも医大や医療機関と共同で、人体頭部の精密モデルによる衝撃損傷の解析や、加齢により頚椎が細くなる原因の解明などの研究も手掛けています」
近年めざましいIT進歩が、力学シミュレーションの領域をもますます拡大させているというわけだ。


成蹊大学システムデザイン学科ならではの教育実践の数々
弓削教授が所属するのは、成蹊大学理工学部システムデザイン学科である。つぎにこの学科の特長について話してもらおう。
「工学の世界におけるデザインとは『問題解決』(problem solving)のことを意味します。ですから工学的な問題を解決するのがシステムデザイン学科の主要テーマです。この学科は、4つの分野、すなわち(1)機械システムデザイン(2)エレクトロニクスデザイン(3)ロボティクスデザイン(4)経営システムデザイン――からなっています」
このうち「機械システムデザイン」コースを弓削教授は担当する。各学生がコースに分かれて履修するのは3年次からだが、同学科では「マルチコース制」が採用されていることも特筆されよう。
「学生たちは4つのコースから2コースを選択して学びます。これがマルチコース制で、複数の分野が複合的に絡み合う実社会を反映したもので、本学科の大きな特長になっています。4年次になると履修コース内にある一つの研究室に所属(配属は3年次後期から)して、卒業研究に臨むことになります」
さらに同学科を特徴づけるものに「プロジェクト型科目」の実践もある。
「学年ごとに問題解決型の講義が用意されていて、各テーマを数人のチームで解決を図っていきます。これまで日本人はチーム作業が得意とされてきましたが、いつの間にか仕事も遊びも一人でする傾向になっているように感じます。メンバーそれぞれの特性から役割分担を決め、チーム全体で問題解決に挑む経験実績を積んでいきます」
いずれも、実社会に即応できる人材育成をめざす成蹊大学らしい教育プログラムとも言えよう。


自ら夢中になれる課題を見いだし解決実践していく
成蹊大学システムデザイン学科の学部生が各教員の研究室に配属になるのは、3年次の後期からである。弓削教授の研究室では、例年10人前後の学部生を受け入れている。
「3年次の後期には、配属と関係なく全学部生をシャッフルしてチームをつくり、例の問題解決型のプロジェクトをやってもらいます。各チームが解決する課題には、自動車や洗剤のメーカーなどから提供されたものだったり、地元・武蔵野市内の交通問題(抜け道対策など)であったりと、現実的なテーマに取り組むことになります」
これなど他大学にはあまり見られない試みであり、非常に興味深い。これらの研究実践は学科学生たちのモチベーション・アップと一体感を盛り上げ、さらに各コミュニケーション能力の向上などさまざまな相乗効果を生んでいると弓削教授は語る。
さらに、自らの研究室における4年次学生の卒業研究テーマについては、学生と先生との話し合いで決めていくのだと言う。
「おのおの希望を聞いて以下3つのグループに分けていきます。(1)設計ツールを利用してクルマ(フォーミュラカー)の製作をする(2)設計ツールを利用して企業の問題解決を図る(3)新機能をもつプログラムを作成する――の3つです。それぞれ将来の自分を見据えてグループを選んで研究してもらいます」
ちなみに、ワンテーマを2人で共同研究するのが計算力学研究室の基本なのだという。あらためて最後に学生指導で心掛けていることについて伺うと――
「学生自身に自分がやっていることの面白さに自然と気づくように指導しているつもりです。自らその面白さに気づきさえすれば、もうこちらからは何も言うこともないほど、夢中になって取り組むようになっていきます」
こんな学生に来てほしい
問題解決に積極的に取り組める人ですね。だれかの指示を待つのではなく、自ら動くことができる人。若さを生かした自由な発想ができる人。積極的にディスカッションに加わってくる人。そんな学生が来てくれたら素晴らしいと思います。
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