早稲田塾
GOOD PROFESSOR

首都大学東京
都市環境学部 地理環境コース

高橋 日出男 教授

たかはし・ひでお
1959年東京生まれ。’88年東北大学大学院理学研究科博士後期課程単位取得退学。’88年日本学術振興会特別研究員。’88年広島大学総合科学部助手。’89年理学博士(東北大学)。’96年東京学芸大学教育学部助教授。’07年より現職。

主な著作に『自然地理学概論』(共編著・朝倉書店)『日本の諸地域を調べる』(共編著・古今書院)『内陸都市はなぜ暑いか』(共著・成山堂書店)などがある。

高橋教授紹介のURLはコチラ↓
http://www.tmu.ac.jp/stafflist/data/ta/587.html

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高橋研究室が入る8号館「理学部棟」
大学管理部などが入る1号館

都市の環境と防災に取り組む気候学者

首都大学東京の都市環境学部は、(1)地理環境(2)都市基盤環境(3)建築都市(4)分子応用化学(5)自然・文化ツーリズム――の5コースからなる。今回訪ねた高橋日出男教授は「地理環境コース」に在籍する。まずは同コースのことから話してもらおう。

「大地や気候など自然環境の成り立ちや人間活動の実態を解明し、自然と人間とのかかわり合いを解き明かしていく――これこそが地理環境コースということになります」

ここでコース名につく「地理」というと通常は「人文・社会系」のカテゴリーに属するような気もするかもしれない。しかし首都大学東京の地理環境コースは、自然面からアプローチする「自然地理学」の手法に重点をおいているため、理系の学部に属しているという。

「研究の具体的な内容については、地形や地質はどのように形成されるのか、気象や気候のメカニズムの解明、その両者の接点である土壌の成り立ちや構造・利用状況について、あるいは人間の活動を都市人文地理学の観点から解明する研究や、各種の地理情報をコンピューターで解析する研究など様々にあります」

こうして「地理」「環境」をキーワードに非常に広範な総合的研究を重ねている「地理環境コース」。この分野でおそらく国内の大学では最大級の研究陣容になるのではないかとも語る。

なお、学部生がコース別に分かれるのは入学時からであるが、地理学に特徴的な分析手法などを専門的に学ぶのは2年次の基礎演習の授業からになる。3年次には、4~5日間現地に泊まり込んでフィールドワークを実施する現地実習(巡検)もあるという。

首都大東京「学生ホール」
首都大東京「学生食堂」

ビル集中化の見返りとしての都市型異常気象現象

高橋教授の専門は「気候学」(climatology)ということになる。とくに都市部特有の「ヒートアイランド」(urban heat island)や「集中豪雨(強雨)」(torrential rainfall)などの気象現象のエキスパートとして知られる。

「いわゆる『都市気候』(Urban climate)といわれる現象の研究になります。これを主に東京圏を中心とした関東地方の空間スケールで研究しております」

そこでまずヒートアイランド現象についてから聞いた。

「原因として考えられているのは、(1)人工排熱による気温の上昇(2)高層建築物により地表面の熱が上空に逃げる放射冷却現象が起こりにくいこと(3)地面の舗装で水分の蒸発が抑制され気化熱が小さい――の3点です。かつては(1)がその主因と考えられていましたが、近年は(2)と(3)が主要な原因と考えられるようになっています」

そちらに高橋教授らの研究の中心も移っているという。ここで「熱」とは「赤外線エネルギー」のことをさす。それが都市を覆うビルなど建物群のあいだに閉じ込められ、放射冷却現象が起こりにくいために保温されてしまう状態をいうのだ。

「地上から上空を見上げたとき空がどれだけ見えるのかを『天空率』(Sky viewfactor)といいます。将来の都市計画によってこの天空率をどれだけ大きく取れるのか、あるいは日中いかに多くの水分の蒸発ができるのか、それらが解決策につながると考えております」

また、夏の都市を襲う集中豪雨については次のように語る。

「こちらはまだ原因が特定されていませんが、要因としてはこれも3点考えられています。(1)都市のヒートアイランド現象により大気が不安定になるため(2)建築物による地表面の凹凸が大きく、水平方向の風が弱められて上昇気流となるため(3)大気中の汚染物質が水蒸気凝結の核になって雨雲を発生させる――これらの3点ですね」

実際に発生した集中豪雨について高橋教授は、発生頻度の高い場所を明らかにしたり、発生前後に現われる風や気温の変化などを詳細にとらえたりするデータ解析を中心に研究に取り組む。現在の課題は集中豪雨発生の予測ということになる。

「レーダーで雨雲を監視しつつシミュレーションするというのが現行の予測方法ですが、実際にはなかなか予測が難しいのが現状です。そこで私たちは、積乱雲の発生や発達には地表面の近くで空気が集まる(収束)ことによって上昇流が発生する必要があることから、多数の観測データから風の時間変化を詳細にとらえることで、数十分~1時間くらい前に予測ができるのではないかと考えて研究を進めています」

早春の南大沢キャンパス点描
最寄り駅は京王線「南大沢駅」

主体的な取り組み、それこそが一生モノの人生作法

首都大学東京の都市環境学部地理環境コース所属の学部生が、各教員の担当する研究室に配属になるのは4年次の4月からである。それぞれの配属先は、3年次にどの研究室の現地実習に参加したのかでほぼ決まるという。高橋教授の「気候学研究室」は教授2人態勢ということもあり、受け入れ学生は例年6~7人ほどとなる。

「3年次から『地理環境科学基礎セミナー』というのが始まります。ここで文献講読などをしながら各自の卒業論文の仮テーマが実質的に決まっていくことになります。3年次後半もしくは4年次に進級すると、各研究室のゼミに参加します。ここで先輩院生の話を聞いたり研究の様子を見たりすることを通じて、夏休みの前までには正式な研究テーマを決定します」

ここで夏休みを機に各テーマに沿った観測やデータ解析が始まっていく。こうした学生指導で高橋教授が日ごろ心掛けていることについて次のように語ってくれた。

「私たちの研究室に配属される学生の興味や関心は多様で、卒論のテーマは学生自身で決めるのを基本にしています。ですから観測やデータ解析も各自の自主性に任せています。これで、主体性が身についてくれればと思っています。これは社会に出てからも一生役立つことになりますしね」

といっても高橋教授は徹底的に突き放すわけではない。学生側からアドバイスを求めてきたり、論文の仕上げ段階になったりしたときには、高橋教授側からも親身の助言を惜しまないのは言うまでもない。最後に、教授2人体制の自らの研究室についてこんな話もしてくれた。

「ここでは、わたしが都市気候を研究し、もう一人の松本淳先生がより広範囲を対象にしたモンスーン気候学を研究しています。そのため研究室全体で扱う幅はかなり広くなります。自然とか人間に興味のある人にとっては、なんらかの関心のあるテーマが見いだせると自負しています。ぜひ、地理や気候学方面への進学の際には選択肢のひとつに考えていただければと思いますね」

そう言ってニッコリする高橋教授。悠揚迫らぬ風格が印象的な先生だ。

こんな学生に来てほしい

気候や気象現象の多くは目で直接見ることができません。たとえば気温を知るには温度計が必要で、その数値を通して現象をとらえていきます。さらに気温の分布とか、風の流れ、気圧の変化など、そうした抽象的なものを頭のなかでイメージできて、それを面白いと思える人。そんな人が来てくれたらと思いますね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。