早稲田塾
GOOD PROFESSOR

埼玉大学
教育学部 美術教育講座

小澤 基弘 教授

こざわ・もとひろ

1959年愛知県生まれ。’83年愛知県立大学文学部英文科卒。’88年筑波大学芸術専門学群卒。’92年同大学院博士課程芸術学研究科美術論分野単位取得:博士(芸術学)。’92年埼玉大学教育学部講師。’93年同助教授。’06年より現職。この間’98年仏パリ国立高等美術学校教授研修員(文化庁芸術家在外研修員)。’08年米・西オレゴン大学美術学部客員教授兼客員芸術家。’10年東京大学大学院教育学研究科客員教授(併任)。

「自由美術展平和賞」(86年)「第26回佐武賞」(91年)「第5回風の芸術展ビエンナーレまくらざき佳作賞」(97年)。このほか個展・グループ展開催など多数。

主な著作に『絵画の制作―自己発見の旅』『絵画の思索―絵画はいつ完成するか』『絵画の創造力―ドローイング活用法』(いずれも花伝社刊)などがある。

小澤教授が主宰するURLのアドレスはコチラ↓
http://www9.plala.or.jp/kozamotohp/

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小澤研究室が入る「教育学部D棟」
埼玉大学キャンパス正門

現役画家の立場からの「美術教育論」

今週の一生モノのプロフェッサーは埼玉大学教育学部美術教育講座の小澤基弘教授である。小澤教授の研究室が入る「教育学部D棟」は新築になったばかりで、木の香に包まれたような新研究室での取材となった。まずはじめに、所属する教育学部と美術教育講座のことから話してもらおう。

「ここは全国的にも珍しい教員養成に特化した学部です。つまり教員の養成を前面に打ち出し、それを教育学部のカラーにしています。さらに一学年の募集定員480人は全国でも最大規模になるのではないでしょうか。また、学校教育に必要な専門分野がほぼすべて網羅されていること。この3つが特長になろうかと思います」

埼玉大学教育学部の学生は、卒業までに小学校あるいは中学校どちらかの教員免許取得が義務づけられている。次いで、美術教育講座については――

「一学年の学生定員が22人で、これも関東圏では最大の陣容になります。専門も、絵画をはじめ彫刻・デザイン・工芸・美術教育まで5分野すべて網羅され、それぞれ専門の教員がおります。それに今年4月から新築の校舎に移って教育研究環境が一新し、設備も最高のものが整えられています。それらが大きな特長ですね」

美術教育講座の学生たちは、まず1~2年次に基本の5分野について学ぶ。次いで3年次から専門課程に移り、4年次に卒業研究(作品か論文)に挑む。

小澤教授はここでドローイングする
初期の荒々しい油絵画の代表作『干渉の構図Ⅰ』(89年)

哲学的思索そして自己発見としての絵画制作

小澤教授の専門はといえば、「絵画制作」(油彩・アクリル画)と「美術論」だ。まずは、自身の絵画制作について語っていただいた。

「若いころは油彩を中心に描いていました。ただし、油絵の具は糊成分として乾燥する性質の油(主に植物性油)を使用していて、湿潤な日本の風土にはなじまない部分も、どこかで感じていました。それで2000年前後に、アクリル合成樹脂を固着材に用いたアクリル絵の具の存在を知ってからは、風土に関係なく乾燥時間が短いということで、ほぼ全面的にシフトすることになりました」

小澤教授の画風の変遷をたどると、初期の油彩は形象も荒々しいダイナミックなタッチだったという。それがアクリル絵画技法(Acrylic painting techniques)に移行した中期ごろからは微細精密な感触が印象的にのこる静寂な画風へと自然に変わっていく。さらに近年は、事物や風景を大胆にデフォルメした自己心象的な作品も多くなっている。

「初期のダイナミックな作品は油彩でした。また微細精密なアクリル画では、一度塗った絵の具を彫刻刀で削り出して繊細な線を表現していきます。そして最近は自分で見ているものを思ったままに描くという絵画制作本来の心境に至った気がします。一種哲学的な難解な命題を、絵画で解きながら創作するような向こうっ気の強さが若いころは強かったのでしょうが、最近はその角が取れてきたとでも言えるんでしょうかね(笑い)」

ただし、たとえ絵の具が変わり画風が変遷していっても、自身の作品は一貫したコンセプトで貫かれているという自負もある。

「わたしの絵画のテーマは『事物間の関係性』に尽きます。つまり、ある物体の隣に別の物体が置かれたときに、その両者の関係はどう変わるのか? その相互の力作用の表現、そうしたことを描くのが一貫したテーマとしてあります」

その事物の関係性を探り出すために欠かせないのがドローイング(鉛筆や木炭などで描く単色の線による素描画、英drawing)だ。日課のように小澤教授が描きためたドローイングはなんと5500枚にも上るという。

そして今は、自らの心を素朴に動かすものをサラリと描いてみたいという心境に至ったとも話す。

アクリル画の初期代表作『重力の原理Ⅱ』(96年)
繊細な技法が際立つ『榛名山麓のセメント工場』(11年)

作品を創るだけではなく言語化する力も培う

つづいて、美術教育および学生への指導方針についてはこう語る。

「わたしは画家という実作者の立場から美術教育はどうあるべきかを考え、学生の指導にあたっています。この視点が、とても大切な気がします。いま強く思うのは、我々はプロの画家を育てているのではなく、美術の教育者の養成をしているのだということですね。それを忘れてはならないと思っています」

ともすれば忘れられがちなこの点を胸に刻みつつ、教壇に日々立つという小澤教授。ところで、埼玉大学教育学部美術教育講座の学部生が各教員主宰の研究室に配属になるのは4年次4月からである。小澤研究室では、例年4~5人の学部生を受け入れている。配属を希望する教員志望の学生は全員を受け入れることを原則としているという。

「わたしの研究室では絵画の実作品と制作ノートの提出を義務づけています。つまり、卒業制作用の絵画を描いて提出すれば終わりという事にはしません。自らの作品の客観的な解釈、あるいは制作途中で発生した問題について、それらをどう克服したかなど自ら試行錯誤してきたことをきちんとことばで言い表わす必要があると考えます」

なぜならば、小澤教授はこの講座で画家を育てているのではなく、美術の教員を養成しているからなのだ。小澤研究室では毎週1回ゼミが開かれる。そこで各自の制作過程が報告され、また制作上の問題点などについても語られ、各報告をうけて全員でディスカッションもなされる。

「その意味で、美術制作系の研究室としてハードルがやや高いかもしれません。ただし、ここでの客観化・言語化の経験は教員になったときに生きてきますし、子どもたちへの指導にも反映されるはずですからね」

教育学部にあっても「作品主義」の指導が多いといわれる美術教育講座のなかでの小澤教授のこうした指導法は、まさに一生モノの成果と実力を培うことにつながるであろう。あらためて学生指導にあたって心掛けていることについて聞くと次のような答えが返ってきた。

「教員になることを望む学生のためのわたしの研究室では、画家志望の人は受け入れていません。それもあって、絵を描きながら様々なタイミングで自らを振り返る習慣が身につくよう常に指導しています。そこをキッチリしておかないと、作品が完成しても『いいね』『良くないね』といった感覚の感想だけで終わってしまう。なぜ良いのか良くないのか――それを言語化して子どもに伝える。それこそが教員の役目ですからね」

こんな学生に来てほしい

なんといっても教員志望の人ですね。子どものことが大好きで、どうしても教員になりたいという人ですね。さらに、「図工・美術」教科を通して自らのメッセージを伝えたい熱意のある人にぜひ来てほしいです。
そもそも日本という国は、経済先進国のわりには美術文化への需要が低く、それが日常のなかに根付かない傾向があります。欧米ではごく普通の人でも個人的に絵を購入し、自室でそれを愛でるすばらしい習慣が根付いています。自らの生活を豊かにするために美術が必要という考えがあるからなのですね。そういう好ましい習慣を醸成していくためにも、美術教育が果たす役割は今後ますます大きくなると考えます。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。