早稲田塾
GOOD PROFESSOR

千葉大学
大学院 園芸学研究科

礒田 昭弘 教授

いそだ・あきひろ
1957年滋賀県生まれ。’85年北海道大学大学院農学研究科博士後期課程修了。’86年日本学術振興会特別研究員。’86年千葉大学園芸学部助手。’93年同大学院自然科学研究科助手。’96年同園芸学部助教授。’07年同大学院園芸学研究科准教授。’12年より現職。中国・烏魯木斉(ウルムチ)中亜干旱農業環境研究所理事(研究統括責任者)。

礒田教授が主宰する「礒田研究室」のURLアドレスはコチラ↓
http://www.h.chiba-u.jp/crop/Isoda.html

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礒田研究室が入る千葉大松戸「C棟」
最寄りJR松戸駅から近い「北門」

人類を救う世界一の「作物学」研究

「本学園芸学部は国立大学では唯一の園芸学部です。他大の農学部などと違って、その名のとおり園芸分野の研究に特色をもっています。園芸関係はもちろん公園を含めた緑地関係、あるいは都市設計などについての研究も充実しています」

冒頭そう語ってくれたのは千葉大学大学院園芸学研究科の礒田昭弘教授である。礒田教授が指導にあたる千葉大学園芸学部は、(1)園芸(2)応用生命化学(3)緑地環境(4)食糧資源経済――の4学科からなり、教授ご自身は園芸学科の所属となる。同学科については次のように語る。

「この学科では、園芸作物はもちろんのこと、それを取り巻く環境や作物の加工の問題などを中心に研究しています。園芸作物の先端栽培技術と品種改良、さらにはバイオテクノロジーまでを体系的・専門的に学べます。園芸生産のエキスパート養成が学科の大きな目的です」

この分野の研究と指導については全国トップクラスの学科であることはいうまでもない。礒田教授の専門は、「作物学」だ。それも「作物の生産性向上」が研究テーマである。園芸学部においてなぜ作物の研究なのか、そうした詮索の前に先生の話を聞こう。

「作物学はカテゴリーとして『食用作物』『飼料作物』『工芸作物(繊維や油などに加工して利用する作物)』の3つからなります。その中でわたしはダイズとラッカセイ・ワタ・イネなどの栽培について研究してきました」

礒田教授の作物栽培研究の舞台は、中国を中心に展開している。中国は、国土の急速な砂漠化が懸念されている国であり、乾燥地であることを生かした作物栽培こそが先生の研究テーマになる。

「作物の生育に水は欠かせません。少ない水をいかに有効に使って栽培するかの研究になります。結果から申しますと、02~04年まで3年連続で8t/haというダイズの収穫量を記録しました。日本で栽培されるダイズは1本に20~30の莢(サヤ)を着けますが、わたしたちの実験栽培では50~60もの莢を着けました」

これはダイズ収穫量の世界記録に匹敵する記録だろうといわれる。

キャンパス内にはフランス式庭園も
千葉大附属図書館の松戸分室

遺伝子組み換えによらない世界一の農作物収穫

礒田教授の研究にはさらに驚かされる点がある。それは、こうした世界的レベルの収穫量を達成するために、安全性に疑念がつきまとう遺伝子組み換えなどを一切やらずに栽培方法の工夫だけでなし遂げているということだ。

「栽培手法の工夫としては、ダイズが水を必要とするときに、必要な量だけを与える『点滴灌漑法』(Drip irrigation)を用いたこと。さらには乾燥地に有機質肥料を使うことで、肥料が徐々に溶け出していき効果的であったこと。あるいは使用したダイズの品種が適切だったこと。そして何より、乾燥地というのは太陽エネルギーが豊富ですから、その影響が大きかったと思いますね」

そう自らの成功について分析する礒田教授だ。乾燥地での栽培実験として直近で挑んでいるのはイネの畑地栽培である。それも水田に水を張って育成する水稲だという。それでは何故あえて乾燥地で水稲を栽培しようというのか。

「まず水の管理が細やかにできること。水量が水田栽培の3割程度ですむこと。点滴灌漑のチューブが施肥に利用できること。水田と違って傾斜地でも栽培できること。水田で発生する温室効果ガスとなるメタンの発生がないだろうということ(13年度中に実験して確認の予定)。こんなメリットがあるのです」

現在のところ、収量はほぼ水田栽培並みで、味も遜色のないところまで漕ぎ着けているという。なお礒田教授が水稲栽培の実験をしているのは中国・新疆ウイグル自治区の省都ウルムチ(烏魯木斉)にある「烏魯木斉中亜干旱農業環境研究所」である。

ここは、かつて礒田研究室に留学していた中国人研究者が設立した研究所でもある。その施設や圃場を利用しての栽培実験というだ。

21世紀以降の人類にとって、地球温暖化(Global warming)と砂漠化(Desertification)の進行、そしてアフリカ・インド・中南米諸国の近代化に伴う人口爆発現象によって、食糧危機への直面こそが最大課題となるのは必至といわれる。そんななか礒田教授らの研究は、地球と人類の未来に燭光となる貴重な研究といえよう。

松戸キャンパス内に広がる温室群
中国新疆ウルムチのダイズ実験圃場

作物の栽培管理がきちんと出来るプロとなれ

千葉大学園芸学科の学部生が各教員主宰の研究室に配属になるのは3年次の後期から。礒田研究室に配属になる学部生は、年度によって違いはあるが、平均すると4~5人ほど。これら配属を希望する学生の全員を受け入れるのを原則としているという。

「新たに配属になった3年次学部生は、4年次の春から始める「専攻研究」(卒業研究と卒業論文)のための作物栽培へ向けて知識を蓄えないといけません。そのため週1回開かれるゼミ演習への参加と、作物栽培についての文献講読などに傾注してもらいます」

それらに併行しつつ、研究候補テーマのいくつかが礒田教授から学生たちに提示され、学部生はそこから自ら関心のある研究テーマを選んでいく。同研究室の専攻研究で栽培される作物はダイズ・ラッカセイ・イネのうちのいずかとなる。

さらに4年次進級と同時に、それぞれ研究テーマに沿った作物栽培が始まるが、なにぶん相手は生き物であり、夏休み返上で世話をすることになる。ちなみに礒田教授による中国における実験栽培の都合によっては、学部生であっても中国行きのチャンスもあり得るそうだ。

あらためて礒田教授が研究室学生への指導で心掛けていることについては――

「自ら問題点を見つけ、自分で解決ができる実力を身につけなさいということ、それに作物の栽培管理がきちんと出来るようになること、基本的にはこの2点に尽きますね。栽培管理と口で言うのは簡単ですが、ある広さをもった畑で収穫までをきちんと管理するのは実に大変なことなのです。ただ、わたし自身は学生の自主性に任せてほとんど口出しなどしませんけどね(笑い)」

そして、最後に礒田教授はこうも語ってくれた。

「地球上にはまだまだ食糧が不足して飢餓に苦しむ国々が多く、そうした国の大半は乾燥地にあります。そうした人々が少しでも豊かになるようにというのが、わたしたちの研究の最終的な願いなのです」

こんな学生に来てほしい

大志、野望……、そんな若者らしい大きな夢をもって、それに向かって努力を惜しまない人に来てほしいですね。わたし自身、出身母校の創設者クラーク博士(William Smith Clark、1826年~86年)が語った「Boys, be ambitious」の意味がこの歳になってようやくわかってきた気がします。夢をもち続けるということ、そのことこそが全ての人生最大のモチベーションになるのではないかと思います。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。