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GOOD PROFESSOR

玉川大学
教育学部 教育学科

寺本 潔 教授(教育学部長)

てらもと・きよし
1956年熊本県生まれ。’79年熊本大学教育学部卒。’81年筑波大学大学院教育研究科修士課程修了。筑波大学附属小学校教諭をへて、’83年愛知教育大学教育学部助手。’88年同助教授。’04年同教授。’09年玉川大学教育学部教育学科教授。’13年学部長。中部開発センター懸賞論文優秀賞(’01年)21世紀日本委員会教育賞入賞(’01年)。

主な著作に『子どもの世界の地図―秘密基地・子ども道・お化け屋敷の織りなす空間』(黎明書房)『子どもの初航海―遊び空間と探検行動の地理学』(共著・古今書院)『言語力が育つ社会科授業』(編著・教育出版)などがある。

寺本教授が主宰する「寺本潔 こどもと地図の世界」のURLアドレスはコチラ↓
http://www5.hp-ez.com/hp/mapman/page1

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寺本研究室が入る研究室棟の外観
清涼感あふれる玉川学園の正門付近

「地図力」で生まれ変わるニッポン教育

ひろく世に「教育の玉川」と言われ、理想のリベラルアーツ教育を具現化する代表的存在でもあり続ける玉川大学教育学部。その学部長に2013年4月から就任したのが今週の一生モノのプロフェッサー・寺本潔教授である。まずは、玉川大学教育学部のことから伺っていこう。

「本学の創設者である小原國芳(1887~77年)が提唱した全人教育『真・善・美・聖・健・富』の理念の実現をめざす――それが玉川大学教育学部のいちばんの特色になります。つまり、こうした姿勢をもった教育者を育成したいというわけです。具体的には先進ドイツ由来の『労作教育』というのがあります。野菜や草花の栽培や森林・建物の手入れ・修繕などを教育の一環に取り入れ、自分たちや他人のためになることを学ぶということですね」

玉川大学教育学部は「教育学科」と「乳幼児発達学科」の2学科からなるが、クラス編成では2学科混成となる。また教育学科では、入学直後に学生と教員とが個別面談をして、それぞれ習熟度に合わせた4年間の学習計画を立てる「プログラム制」が採用される。いずれも他の教育系学部では目にしない特長であろう。さて、学部長に就任した寺本教授の抱負はというと――

「学ぶ力をもった教育者の育成でしょうか。ここで学ぶ力とは、『人間力』『社会力』『専門力』のことです。各自の人間性を高め、やる気がみなぎり、自ら学び取ろうとする――そんな学生・教育者を育てたいと思います。教員を30年40年と続けていくためには、自己成長しながら持続する力もつけていて欲しいですね。わたし個人の課題としても、おのおの教員としての専門力をどう磨いてもらうか、それが目下最大の関心事です」

アットホームな雰囲気の学食「KEYAKI」
豊かな緑陰が涼しげな大学図書館

生き抜いていけるための羅針盤を頭のなかに構築する

寺本教授のご専門は「社会科教育」と「生活科教育」。とくに地図を用いたわかりやすい地理の指導法研究に定評があり、わが国の第一人者ともされる。

「通常の地理教育では、地図が読めたり、駅から自宅までの案内図が描けたりすることをいいます。わたしが提唱する『地理(地図)を大切にした学習』とは、それだけではなく、子どもの内部に地理をつくることを目指します。つまり、世の中の地理空間において人々が生き抜いていけるだけの羅針盤を頭のなかに構築することなのです」

だれでも人間は幾度となく人生の岐路に立たされる。そうした二者択一の選択を迫られたとき、頭のなかに地理空間を描くことができるかどうかが重要となるという。

「たとえば就職活動中にAとBの2社から採用の内定が得られたとして、その両社の企業規模や立地場所・市場規模・支社店舗数などを自らの頭のなかに空間的に描くことが出来てはじめて、AとBいずれかを賢く選択することが可能となるのです」

こうして地理を上手に操作することは、グローバル化が進む現代社会を生き抜くための必携のスキルにもなり得ると寺本教授は語る。そのためにも、小学校授業での具体的な指導が大事となる。

「たとえば生活科の授業では、自宅から学校までの通学路の地図を作製させます。ここで友人がつくった地図と比較して、自分の地図には描かれていない場所を発見することが、そこに行ってみる試みのキッカケともなります。また社会科では、自分たちが住んでいる町・コミュニティーの外側にはどんな町並みが広がっているのかを調べさせます。たとえばAとBの2点が地図上で等距離にあっても、自分にとって重要度の高い地点のほうが近く感じるイメージ、そんな地図の感覚を考えさせることなどですね」

さらに寺本教授は、地図の大切さと同じくらいの重要性が「地球儀」にもあると説く。

「地球儀の視点でこの世界を立体的にとらえている人は案外に少ないんですよ。ですから地球儀をつねに身辺に置いて、いつでも眺められるよう準備しておくことが大切です。さらには歴史なども、地図と対照してみると深く認識できることがあります。源頼朝が鎌倉に幕府を開いたのはなぜか、地図を見ているうちに実感できることもありますからね」

美しく配置されたキャンパス点描

停滞からの脱却に火をつける――教育者としての決意

玉川大学教育学部の専門ゼミ演習は3~4年次の学部生が対象となる。同学部では、ゼミに厳しい定員制を設けず、各学生がその希望するゼミを取りやすい態勢を用意している。そのためか、どのゼミも年度によってゼミ生数に増減があるという。寺本教授のゼミでも、13年度は3年次ゼミ生が9人、4年次ゼミ生は19人という陣容である。

「まず3年次のゼミでは、地理学と教育学に関する専門書の輪読から始めます。章ごとに担当グループを決めて、要約と所見を発表してもらって全員で討議します。それが終わったら、各種の学会誌に掲載されている論文を各自で選び、同じようにその要約と所見を発表してもらい、それをもとに全員で討議していきます」

こうした発表・討議の日々の中からそれぞれの卒業論文のテーマが絞られて、4年次の1年間をかけて卒論に挑んでいく。これら正統的な学習研究に並行しつつ、博物館めぐりなどの機会をもうけて「本物」にふれる体験を積極的にさせている。いかにも寺本教授らしい工夫とも言えよう。

「卒論に関してはたとえ一つでもいいから、オリジナリティーを見出して考察することが必要です。先行研究の論文をただ要約しただけのようなレベルでは到底認められません。自分だけが初めて気づいたこと、資料の新たな解釈、新しい視点からの考察など何でもいいのですが、卒論にはそうしたものが含まれていないと意味がなくなってしまいます」

そしてインタビューの最後に、3.11以後ますます「生きづらさ」を増す社会環境のなかで生きる宿命を負った若者たち世代への熱きエールも頂戴した。

「いまこそ若いうちに見知らぬ土地を旅してほしいと思います。最近の若者は内向きになっている人が多いと言われます。かつての世代が旅や自然を愛した意欲は、いまの若者にほとんど感じられません。いま豊かになった都会に暮らしているだけでは、高齢化や産業の空洞化が進む我がニッポンに潜む貧困なる現状は理解できないでしょう。ましてや発展途上国の人々の生活ぶりなど知ろうはずもありません」

お金はともかく時間だけはたっぷりあるはずの大学時代、その青春の日々にこそ、見知らぬ地に積極的に出てみよう。きっと一生を生き抜く支えとなる全人的信念へのキッカケを得た自らを発見できるであろう。

「そのための火をつける役目はいつでも担いたいと思っています」

静かな口調ではあるが、そう語る寺本教授のことばには理想の全人的教育者としての強く熱い決意が込められているようにも感じられた。

こんな学生に来てほしい

人生を生き抜くための羅針盤の話をしましたが、それは他のだれかが与えてくれるものではなく、自らつかみ取る以外にないものなのです。小学校から高校までは受け身の学習でした。大学からはそれを反転させて、自ら学びの地図を頭のなかに描き、能動的に動いていかなければなりません。そんな意欲的な新入生を望みます。しかし、現実には受け身で指示待ちの学生が多くなっているのが淋しいところですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。