{literal} {/literal}
GOOD PROFESSOR

東京学芸大学
教育実践研究支援センター

橋本 創一 教授

はしもと・そういち
1963年東京生まれ。’87年埼玉大学教育学部卒。’89年筑波大学大学院教育研究科修士課程修了。以後、東京都立養護学校(知的障害)2校に教諭として勤務。’97年東京学芸大学特殊教育研究施設専任講師。助教授をへて’12年より現職。そのかたわら精神科・小児科クリニック・保健センター・子ども発達センターで心理療法士・心理判定員として非常勤勤務。保育所・幼稚園の巡回相談員、小中高等学校の専門相談員も務める。博士(教育学’06年)。学校心理士。臨床発達心理士。特別支援教育士スーパーバイザー。
おもな著作に『障害児の理解と教育・支援』(金子書房)『予防する子どものSSTプログラム』(ラピュータ)『人間関係でちょっと困った人&発達障害のある人のためのサポートレシピ53』(福村出版)などがある(著作はいずれも共著)。
 
「橋本研究室」のURLアドレスはコチラ↓

  • mixiチェック
橋本研究室が入る「教育実践研究支援センター」
学芸大キャンパスの「グラウンド門」入り口

「人間関係で困る人々」への支援法を探る

今週紹介する一生モノプロフェッサーは東京学芸大学の橋本創一教授である。橋本教授が所属するのは教育実践研究支援センターの教育臨床部門だ。

その専門は「障害児心理学」「教育臨床学」「発達臨床心理学」。さらにはダウン症候群(Down syndrome)や自閉症スペクトラム障碍(Autistic Spectrum Disorder、略称ASD)・注意欠陥多動性障碍(Attention Deficit / Hyperactivity Disorder、略称ADHD)などの人の行動特性について、さらに「発達支援(乳児~高齢者)」「教育支援(指導プログラム構築)」「アセスメント法開発」など多岐にわたる。
まずは、その広範囲にわたる専門分野のことから伺おう。

「どうやらあれこれ手を出したい性分のようでして、いつのまにか研究項目も多くなってしまいました(笑い)。まとめて申しますと、発達障碍(Developmental Disorder)を抱えた人の心と行動についての研究が中心で、特にその支援方法の研究を主にしています」

ひと口で「障碍者支援の研究」などと言うのは簡単だが、現実にはその種類・程度・年齢などによって支援の方法も違ってくる。「本当に実際には大変ですよ」と橋本教授もうなずく。さらにこの難問においては喫緊の大問題も存在するのだ。

「いま日本は他に例を見ないほどの超高齢化社会に邁進しています。一般社会がそうであれば、必然的に障碍をもつ人々の世界でも高齢化問題が浮上してきます。高齢化する障碍者の支援をどうするのかという切実な問題ですね」

実はこの「発達障碍者の高齢化問題」について専門的に研究している日本人研究者は橋本教授ただ一人だそうで、非常に貴重な存在なのである。

「成人障碍者の多くは福祉施設を出て、地域で暮らすことになります。彼らの多くは、老後も地域で暮らしたいと願っています。『障害+高齢』という2つのハンデを抱えた彼らを地域としてどう支援していけるのか? はじめて経験することだけにいろいろな問題の発生が予想されるわけです」

日本は高齢障碍者問題のトップランナーであり、その成り行きは後続の問題を抱える国々から注目されている。「責任重大です」と表情を引き締める橋本教授の姿が印象に残った。

学食などが入る「第一むさしのホール」
東京学芸大小金井キャンパス点描

臨床心理士資格取得ふくめた一生モノの指導

橋本教授は、学外においても講演会や講習会などで活躍されている。そうした活動の一つに自らが主宰する「ソーシャルスキルトレーニング」(Social Skills Training、略称SST)プログラムがある。

「発達障碍の方に多いのは行動上のちょっとしたつまずきです。学校施設を卒業して社会に出ると、そのつまずきに対する理解が得られなくなるという現実があります。そこで社会性を身に付けてもらうトレーニング(他人との距離感や対人コミュニケーションなど)のSSTプログラム講習を開催して、ちゃんと生活が送れるよう支援しています」

橋本教授の視線は、障碍を抱えた人や高齢障害者介護など福祉の世界でこれまで「見えていなかった死角」へと注がれているのだ。

東京学芸大学は教育学部だけの単科大学だが、教員の養成を主目的にした「教育系」と、教育に関する各分野の専門的なことを学ぶ「教養系」の2学系からなる。学生指導面での橋本教授は「総合教育学系カウンセリング教室(心理学)」の教壇に立つ。ここでは教育系と教養系双方の学生に講義をしているという。

「教育学系の学生には、教室内などでうまく対応できずに学習活動や友人関係などで苦戦する障碍児たちへの支援について、子どもごとの特徴に応じた支援が重要であることを中心に指導しています。いっぽう教養系の学生の多くはカウンセラーをめざしますので、学部(臨床心理士などの受験資格は大学院修了以上)では病気・障碍の特徴から診断法などの医学的な説明、それに知能検査・発達検査などを使った科学的な理解の方法について指導しています」

こうした一生モノの薫陶のもとで幾多の学校教員や心理カウンセラーが育っていくことになる。

東京学芸大小金井キャンパス点描

きちんと向き合った科学的支援を心掛ける

橋本教授自らが担当する心理学分野のゼミ演習が始まるのは3年次の春から。各教員が受けもつゼミ生は平均していて、一人の教員が4~5人(1学年)を担当する。

「わたしのところに配属になるゼミ生は、障碍のある子どもへの支援・教育などに関心のある学生です。また研究室には修士・博士課程で学ぶ大学院生もおります。その大学院生から学部生までをいっしょにして、それぞれ関心のある研究テーマ別にグループをつくって研究するスタイルのゼミにしています」

この異世代合同の研究グループから、学部生はいろんな啓発を受けていく。さらにまた、この異世代タテ割りのゼミとは別に、同世代4~5人によるゼミも開かれている。

「それぞれ異世代から刺激を受け、同世代からもまた刺激を受けることになります。こういうキメ細かい指導ができるのは国立大ならではと言えるでしょう」

それに加えて橋本研究室では、実際に障碍児とその家族を招いて、4年次以上の学生が担当する支援実習の実体験が積めるようにしている。こうした橋本研究室だけの実習によって、ゼミ生たちは大いに力をつけていく。あらためてゼミ生たちへの指導方針については次のように語ってくれた。

「人の支援をする仕事をめざすわけですから、まず相手をしっかり洞察・観察する力をつけること。そのうえで相手のことを論理的に分析して理解する。そうした科学的根拠をもって支援にあたるということですね」

インタビューの最後に橋本教授はこんな話もしてくれた。

「よく教育とは熱意と愛情であるなどと言われます。しかし障碍を抱えた人たちに向き合っていくうちに、指導・支援をするうえでの根拠や科学的な意味づけもより大切な気がしてきました。さらに最近は脳科学に基づく支援の重要性も叫ばれています。何のためにその支援をするのか? その意味づけを明確にすることが重要ということですね」

こんな学生に来てほしい

教育・福祉分野で働くには、人間が好きで積極的にコミュニケーションがとれる人でないと難しいものがあります。人間関係を苦手とする人を支援するのですから、支援側までが「人づきあいは苦手です」では困ります。さらに言えば「探求する心」にこだわりをもつ人、いい意味でのオタク的な人ですね。そういう人が向いていると思いますよ。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。