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GOOD PROFESSOR

国際基督教大学
教養学部

西尾 隆 教授

にしお・たかし
1955年広島県生まれ。’86年国際基督教大学大学院行政学研究科博士後期課程修了(学術博士)。’86年国際基督教大学教養学部専任講師。’87年同助教授。’92年同准教授。’98年同教授(現在に至る)。この間’89~’91年米プリンストン大学客員フェロー。2000~’01年英ロンドン経済大学(LSE)客員研究員。’12年より放送大学客員教授。これまでに国際基督教大学大学院行政学研究科長、同サービス・ラーニング・センター長、同教養学部長、および自治大学校客員研究官、参議院客員調査員などを歴任。

著作は『日本森林行政史の研究―環境保全の源流』(東京大学出版会)『現代行政学』(放送大学教育振興会)『住民・コミュニティとの協働』(前著ともに編著・ぎょうせい)など多数。

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西尾研究室が入る「教育研究棟」
食堂や留学生寮が入るダイヤログハウス

テーマも方法も自由な「行政学」研究

国際基督教大学(ICU)は教養学部だけの単科大学で、「リベラルアーツ教育」を理念に掲げ、「メジャー方式」という独自のスタイルによる教育指導で名高い大学である。

「ここでいうリベラルアーツ教育とは、専門教育の履修を少し遅らせる制度だと理解してもらえたらいいでしょうね」

そう語るのは同大教養学部の西尾隆教授だ。教授は続ける。

「ほとんどの大学では、4年間に学ぶ学部・学科を決めて受験しますので、大学での学びの内容がかなり限定的になります。本学の場合は、まず教養学部という間口の広い学部に入り、2年間かけていろいろな科目に接する中から自らの興味と関心のあるメジャー(専修分野)を選択して、3年次以降で深く学びます。その2年間の猶予期間に新旧さまざまな学問にふれて、それら学問間の地下茎のようなつながりを知ること、それがリベラルアーツだろうと思います」

3年次から学ぶメジャーには、文系・理系合わせて計31の分野が用意されている。そのなかから学生は1~2のメジャー(またはマイナー)を選択し、卒業までの2年間を本格的に学ぶ。このメジャーについてはまた後で聞いていく。
まずは、その前にご自身の専門について話してもらおう。

「わたしの専門は本学のメジャーでいうと『公共政策』、具体的には『行政学』と『地方自治論』です。そのなかで最近の研究テーマにしているのが『公務員制度改革』で、個別分野では以前から『森林行政』について研究してきました」

最近のテーマのうち、まず公務員制度改革の研究というのはどういう内容なのだろうか。

「この国で公務員制度改革の必要がいわれて20年近くなりますが、遅々として進展していません。公務員制度の理想的な形はどうあるべきで、政治や民間とどういう関係が公務員の人材をよく育んでいくのか、いろいろな意見がありますが、これといった道筋も合意も見えないまま悩ましい問題になっています。
わたしの見解としては、細部の技術的問題以前に、世論への応答性が重要ではないかと考えています。たとえば天下りなどは世論が許さなくなっていますし、公務員倫理法も世論の力が立法を後押ししました。改革案は責任あるものでなくてはなりませんが、そうした世論の動向の解釈を足がかりに、進むべき方向を考えているところです」

ICU学生の知識を支える大学図書館
ICU三鷹キャンパスの案内板

ニッポンの森林を救う「林業の地産地消」

世論は気まぐれで無責任と考えられることが多く、こうした視点から公務員問題にアプローチしているのは西尾教授くらいだそうで、今後どんな提案が導き出されるのか興味深い。次いで、これまた悩ましい難問である森林行政についての研究へと話は移る。

「すでに産業としての日本林業は崩壊しています。コメとは逆に木材には関税障壁がないため、安い外材に押されて日本の木材生産は採算が全くとれません。その一方で、フィリピンなどでは戦後の日本向け原木の乱伐などによって、経済林はほぼ壊滅という状態に追い込まれています。さすがに現状のまま放置はできないということで、フィリピンでは大統領命令による地域立脚型の森林管理事業(Community-Based Forest Management、略CBFM)が展開され、日本もJICA(独立行政法人国際協力機構)を通じて技術協力するようになりました」

ここで西尾教授は、国レベルにおいても『林業の地産地消』を試みるべきと提案して注目を呼んでいる。

「ウッドマイルズという指標があり、『輸入する木材量(wood)×運搬距離(miles)』で示し、日本は断トツの世界ワーストワンです。ある試算によると、日本の住宅建築に各地元産木材を使用すれば、ウッドマイルズは百分の1になるといいます。世界でもまれなほどの森林資源に恵まれながら、森のなかでも輸入材で住宅を建てる。こんな矛盾はありません。わたしが強く林業の地産地消を提唱するゆえんですね」

このほか西尾教授の研究には、刑務所行政についての比較研究などもあり、どの研究も視点が実にユニークである。

「行政学の研究で何が面白いかと言いますと、個別行政では何でも自由に研究できることです。研究テーマは森羅万象なにを取り上げてもいい。しかも、その方法論も基本的に自由なのです。わたしはこれを『方法的多元主義』と呼んでいます」

晩夏を迎えたICUキャンパス点描
晩夏を迎えたICUキャンパス点描

一生モノの問題意識と研究リテラシーを

ICU独自の教育スタイルであるメジャー教育において、西尾教授は「公共政策メジャー」を担当している。同メジャーは広義の政治学の範疇に属し、法学や経済学・社会学から理工系の諸学問と連携して社会問題を解決していく学際的で実践的な研究分野となる。

「公共政策メジャーの授業ではよく街を歩くようにしています。キャンパス近隣の公共施設や遺構・河川・道路、ときには幕張などの臨海開発、あるいは府中刑務所などに出かけることもあります。わたしがこのキャンパスのゾーニングとプラン作成に参加したこともあり、土地利用の視点からキャンパス内もよく見てまわります。竹林や雑木林の様子はどうかなとか、畑のトマトは色づいたかな、とか。実際の街や事物の観察と体験を授業で学ぶ抽象的な概念や理論とリンクさせること、それこそが公共政策を学ぶうえで重要と考えるからです」

こうして学部生は3年次からメジャー科目を履修していくとともに、セミナー(特別研究)の受講も始まっていく。西尾教授の春のセミナーでは10数人の学生が履修した。

「今年の春学期は『農業政策』をテーマに取り上げました。ゼミ生はそれぞれテーマをもって、キャンパス近郊の都市型農業について調べたり、純農村地帯まで行って調査や農業体験をしています。わたし自身、家庭菜園はやっても実は農業経験はゼロですので、学生らに交じって一から学習する日々なんですよ(笑)」

そして4年次ゼミ生には卒業論文が待つ。先述のように公共政策という学問分野では何でもが研究対象となり得る。当然のこととして、西尾教授のこれまでの守備範囲を超える研究テーマを設定するゼミ生も出てくる。

「そんなときはゼミ生といっしょになって学んでいくしかないわけです」

あらためてゼミ生たちへの指導方針については次のように話してくれた。

「学生諸君には、入学したときから自分なりのテーマ、あるいは問題関心をもって学ぶ姿勢がほしいですね。学問の研究分野にはそれぞれ相性というものがあって、研究方法とかフォーカスの当て方とか、肌合い・味わいなど各分野によって違いますから、それらにフレキシブルに対応できる力を培うようにしていくことですね」

こんな学生に来てほしい

高校でも大学においても、与えられた課題をやってこなすだけという態度はあまりにもったいないと思います。多感な若い年代に抱いた問題意識や関心はぜひ大切に育んでほしいですね。さらに逆説的なようですが、あえて嫌いなことをやってみる忍耐力や好奇心も若いときには必要です。嫌いなこと、苦手な分野にチャレンジした経験が次へとつながることも多々ありますから。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。