早稲田塾
GOOD PROFESSOR

一橋大学
社会学研究科

大坪 俊通 教授

おおつぼ・としみち
1970年福岡県生まれ。93年一橋大学法学部卒。93年郵政省通信総合研究所(現・情報通信研究機構)入所。小金井本所・鹿島宇宙通信研究センター勤務。この間、98年英NERC Space Geodesy Facility客員研究員。07年一橋大学大学院社会学研究科専任講師。08年同准教授。12年より現職。博士(工学)。坪井賞(04年 日本測地学会)。 

著作に『シリーズ現代の天文学 第13巻 天体の位置と運動』(共著・日本評論社)がある。 

大坪先生が主宰する「一橋大学地学研究室」のURLアドレスはコチラ↓
http://geo.science.hit-u.ac.jp/

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大坪研究室が入る一橋大「東本館」
イチョウ並木の紅葉と「東2号館」

社会学部で講じる「宇宙測地学」とは

一橋大学大学院社会学研究科で地球科学や宇宙科学を講じる大坪俊通教授は、学部では社会学部を担当する。自身の大学生学部時代は法学を学んでいたが、途中から宇宙物理学の研究にシフトしたという少し変わった経歴をもつ。まずはその専門転向のいきさつから話を聞いていこう。

「子どものころから数字と向き合い、算数や数学が好きな子でした。これには理由がありまして、わたしが数学で失敗しないようにと、小さいころから父親に仕向けられてきたからなのです」

大学では法学を学ぶことになる。これは実家が商家であったことから、進学当時の実利的な気分で選んだ結果なのだという。

「いっしょに地元・福岡から上京して他大学理系学部に進学した友人たちの様子がみんな生きいきとして見えました。それで3年次から宇宙物理学を講じる社会学部教員の教えを請うことにしたのです。するとその教授から旧郵政省の通信総合研究所に研修生として派遣され、そこで人工衛星までの距離をレーザーで計測する部署に配属されます。それが今のわたしの研究テーマとして続くことになりました」

不思議な偶然と運命の強さが大坪教授の今日をもたらしたらしい。そもそも一橋大学には理学系の学部学科はない。その時だけなぜか社会学部に宇宙物理学に関するゼミがあった偶然、いきなり通信総研のプロ集団の一員となる運命。
そして、そんな状況にうろたえることなく研究チームのメンバーとして溶け込んでいけた大坪教授。
やはり、理数系の天賦の才に恵まれていたということなのか。

大学卒業後、通信総研の正式職員に採用され、一時期は他部署担当であったこともあったが、基本的には人工衛星観測一筋の道のりであった。そして、いまも大学教授として同じ研究を続ける。これまでの研究人生を振り返って大坪教授はこう語る。

「どんなときでも自らの可能性を狭めないことですね。進むべき選択肢が多くある人生はすばらしいことだと思います。一橋大学は当時から学部間の垣根が低く、法学部に在籍しながら社会学部のゼミを取ることができました。それもわたしには幸いでした」

秋の国立キャンパス東地区点描
秋の国立キャンパス東地区点描

人工衛星のデータ解析から地球の今がみえる

ここで大坪教授の研究内容について詳しく伺っていこう。それは正式には「人工衛星の精密軌道決定」ということになる。

「わたしの研究のベースになるのは『宇宙測地学』(Space Geodesy)という学問分野になります。地球には緯度と経度とがありますが、それを決めるために座標系というのを定めます。その座標軸であるX軸Y軸Z軸の交わる点が地球の重心になります。これを決めているのが宇宙測地学なのです」

宇宙測地学の成果を利用した技術の一つにGPS(全地球測位網、英Global
Positioning System)がある。これはカーナビなどにも活用されているから中高生にもおなじみだろう。大坪教授らが人工衛星追跡でおもに使用しているのはSLR(衛星レーザー測距、英Satellite Laser Ranging)という技術だ。

「人工衛星にはプリズムで出来た再帰型反射鏡が搭載されています。これは中心が常に地球方向を向いている鏡です。この鏡に向かって地球上からレーザーを照射し、行って帰ってくるまでの時間をはかり、それによって人工衛星までの距離が割り出されます。ただ、これを一つの観測局だけで計測するのではなく、地球上40ヵ所ほどの観測局がそれぞれ計測して正確さを期しています」

人工衛星を望遠鏡で追尾しながら再帰型反射鏡にレーザーを照射し、誤差が数百億分の1秒という精度で反射タイムを計測する。なんともロマンに満ちた仕事である。ただ大坪教授がこの計測作業に就いていたのは通信総研の前半時代で、後半時代から現在はデータの解析作業が中心ということだ。

「人工衛星の軌道を確かめることで地球の重力場というのが分かります。たとえばグリーンランドの氷床が溶け始めているという説があります。それはグリーンランド島の全体重力が減少して、人工衛星を引く力が弱まっていることで証明されます」

地球温暖化の影響、その些細なことまでもがデータ解析で裏付けられてくるのだそうだ。

再帰型反射鏡を手に大坪先生
最寄りJR国立駅は新装工事中

「変わっているね」が最高の褒めことば

一橋大学社会学部における専門ゼミ演習は3~4年次学部生が対象となる。大坪教授のゼミには例年3~4人のゼミ生が入ってくるという。

社会学部の学生が宇宙のゼミに入ってくる不思議。これには、学部における大坪教授の講義が非常に興味深く、本来文系であるはずの学生たちを惹きつけて止まないからではないだろうか。

大坪教授が指導するゼミの内容もまたユニークそのものなのだ。

「大学の教員の役割は学生にきっかけを与えることだと考えます。本学が立地する東京という街は、いろいろな施設やイベントなどで刺激に満ちています。ですから教室から街に出てさまざまな体験をしてきなさいということです。いまや大学の中にいて学べることなどタカが知れていますからね」

ゼミ生はそれぞれ街に繰り出し、自らの脚と目を使って情報を集めてリポートにまとめる。そして、それらの中から卒業研究のテーマを絞り込んでいく。それだけにテーマは宇宙物理学の枠をこえて非常に多様なものになるという。
あらためてゼミ生たちへの指導方針については次のように語る。

「卒業研究では独自性が発揮されないと意味がありません。教員・先輩に言われたことだけをするのではなく、自分なりにアレンジしてみたり、手を加えてみたりすることが必要です。そういう意欲的な学生を育てたいと思います。
『普通』であってはいけないわけで、『君、変わってるね』と言われるのがこの研究室での最高の褒めことばになります」

こんな学生に来てほしい

まずは一人でも行動できる人ですね。このことは広い意味で大切なことだと思っています。それに自分で自らの可能性を狭めない人ですね。悠久の時の流れのなかで人生なんてどうせ1回限りですから、わたしのように回り道をしようと何であろうと、自らの意志を強く持ってやりたいことをすることが大事だろうと思います。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。