早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東京工芸大学
工学部 生命環境化学科

平岡 一幸 教授

ひらおか・かずゆき
1960年東京で生まれ、大阪で育つ。83年東京工業大学工学部(有機材料工学科)卒。83年日新製鋼株式会社入社。94年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了(有機材料工学専攻)。94年東京工芸大学工学部講師。98年同助教授。06年より現職。この間に99年ドイツ連邦共和国フライブルグ大学高分子化学研究所派遣。博士(工学)。

主な著作に『熱可塑性エラストマーの材料設計と成形加工』(技術情報協会)『液晶ポリマーの新展開』(CMC出版)『液晶便覧』(丸善)などがある(著作はいずれも分担執筆)。

平岡教授が主宰する「バイオミメチック材料研究室」のURLアドレスはコチラ↓
http://www.lssc.t-kougei.ac.jp/biomimetic/index.html

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平岡教授の研究室が入る「10号館」
棒状分子と鎖状分子との混合物から得られたミエリン鞘の類似体

新世紀を拓くバイオミメチック材料研究

――東京工芸大学工学部の平岡教授は「バイオミメチック材料研究室」を主宰し、この分野の研究での数少ないトップリーダーの一人とされる。はたしてどんな研究分野なのだろうか。

バイオミメチック(生命体を模倣した 英biomimetic)材料とは、生命体の優れた機能に学んで人工的に設計・構築した材料です。たとえば絹糸に代わるナイロンの開発や人工皮革の開発などが挙げられます。いまや人工の皮膚や筋肉・臓器などが研究される時代にもなっています。

――そのなかで平岡教授は結晶性高分子化合物や液晶などを用いた研究をされているが、これについてご説明いただこう。

生命体を構成する物質として、両親媒性物質や高分子・液晶などの柔らかい秩序構造をもつ分子や分子集合体(ソフトマテリアルと呼びます)が注目されています。生命体の基本構造である細胞は両親媒性物質で構成されていますし、皮膚や筋肉さらには多くの臓器などもソフトマテリアルが複雑に組み合わされて出来ています。我々の研究室は、生命体のもつ高度で神秘的な機能を手本とし、ソフトマテリアルの階層的な秩序構造を利用することで、未来を拓く新しい素材の開発をめざしています。

いま話に出た「結晶性高分子」というのはポリエチレンやポリプロピレンのことで、とても美しい結晶構造をしています。これに光や熱・電気を加えることで、結晶構造や分子を並び替えたり制御をしたりして、新しい素材への応用などを考えています。学生時代の初めての研究テーマはポリプロピレンのフィルムを使った透過膜の研究でした。

――もうひとつの研究素材である液晶について伺うと。

液晶についても以前から研究していたのですが、99年にドイツの研究所に派遣されたときに、液晶とゴムを組み合わせた液晶エラストマー(Liquid Crystal Elastomer)の研究を知りました。今やわたしの研究テーマの中心にもなっています。

液晶の分子には幾種類もの並び方があって、三角形の分子配列の液晶に熱を加えると四角形に変形するような相転移(phase transition)という性質があります。そのため液晶分子とゴムを化学結合させると、自発的に伸縮する材料が得られます。これを使うことで人工筋肉などへの応用を考えています。

――この他にこれまでされてきた研究成果には、どのようなものがあるのだろうか。

液晶を構成している棒状の分子を溶媒に溶かしてやりますと「ミエリン鞘類似体」が生成されるのを見出しました。ミエリン鞘(myelin sheath)というのは、生体内の神経を保護しているカバーのことです。この成果は、献身的に協力してくれた学生たちのおかげです(写真参照)。

東京工芸大厚木キャンパス本館
学食などが入る「学生ホール」

必ず1回は学会発表が義務となる研究室

――発見といえば、昨年には研究室から世界的な発見があったようですね。

そうなんです。学部4年次のA君が、卒業研究で液晶エラストマーの合成をしていたところ、途中で試験体が切断してしまったのです。切断したのは当初の実験目的からは失敗でした。ところが、この切断した試験体を加熱・冷却したところ8~10倍も伸縮したのです。これまでの研究では3倍程度が限界とされてきましたから、現在のところA君の結果が世界的なチャンピオンデータとなっています。

なぜうまく出来たか? その理由は完全にはわかっていません。これから原因を解明していくことになります。化学の実験では、失敗が大きな発見につながることもあるという良い例です。

――卒業研究の話が出たので、学部生の研究室配属についても伺おう。

3年次の12月から学部生は各教員が主宰する研究室に配属になります。4年次学生の研究を引き継ぎ、新年度の4月からそれぞれ卒業研究に入っていくという段取りになります。わたしの研究室に配属になるのは毎年3~5人ほどです。

わたしの研究室では、(1)卒業までに英語の専門論文が読めるようになること(2)全員1回は学会発表をすること――この2点を学部生にも義務づけています。そのための勉強会なども開いていて、その指導には力を入れているつもりです。

――あらためて学生たちへの指導方針については……

だれかに言われたから研究作業をやっているようでは全然ダメなのです。自らの仕事であるという意識でやることが大切です。最近の若者には他人とのコミュニケーションを苦手にしている人が多いようで、わたしの研究室では、その週の研究でどんな作業をやったのかを文書で報告させるようにしています。ちょっとでもコミュニケーション能力の向上につながればとの思いからですね。

厚木キャンパス点描
実験室で学生指導をする平岡教授

実験研究することの一生モノの楽しさを

――平岡教授が所属する「生命環境化学科」についてもご説明いただいた。

本学科のキャッチフレーズは、「化学の力で生命・環境の美しい未来をクリエートする」でして、「化学の学習をきちんとしよう」というのが学科のコンセプトとなります。20世紀は物事を単純化・抽象化するいわば「物理の時代」でした。21世紀は生命や環境などの複雑系が重要課題であり、具体的な事象と各論を大切とする「化学の時代」になると思います。

本学科は文部科学省の補助もあり、他大学もうらやむような各種大型機器や分析装置を保有しています。大学院生のみでなく学部学生の卒研においてもそれら機器装置を積極的に利用できるというのが本学科の良いところのように思います。ですから卒研の内容にもおのずと反映しているという自負もあるわけです。

また学科全体で取り組む学生実験として、相模川水系の水質調査を取りあげています。学科の2~3年次学生が総出で、厚木市内12ヵ所から同時に取水する定点観測を続けており、13年度で6年になりました。ここから貴重な水質データが集められています。

――学生が資格取得するための支援カリキュラムが充実しているようですね。

これも本学科の特長のひとつでしょう。たとえば「公害防止管理者」という非常に難易度の高い資格があるのですが、この資格取得を目標にしたカリキュラムが用意されています。毎年、何人もが在学中に合格しています。若者が本気を出したときの成果には我々のほうが教えられることもありますね。

化学分野の研究や実験は予定どおり進むことより、うまく運ばないことの方が多いものです。うまくいかなくても明るさを失なわない学生がいます。そういう子は研究や実験をうまくやり終えていきますね。失敗を乗り越えるためには理論的な勉強も大事ですが、つねに研究や実験に明るく向かうという姿勢も大切だと思いますね。

こんな学生に来てほしい

まずは高校生としての勉強をきちんとしてきてほしいですね。いま勉強することは将来かならず活かせるときが来ます。一方でどこかサボっていると、たとえば論文を書くときなど一応の体裁を整えたとしても、本当に大事な点を欠いた論文になるものなんです。勉強することの一生モノの楽しさを覚えてほしいと思いますね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。