早稲田塾
GOOD PROFESSOR

成蹊大学
法学部

塩澤 一洋 助教授

しおざわ・かずひろ
1969年東京生まれ。93年慶應義塾大学・経済学部卒業。95年同法学部卒業。
2000年同大・大学院法学研究科博士課程単位取得退学。同年成蹊大学・法学部専任講師。
02年より現職。03年より東京大学先端科 学技術研究センター特任助教授、04年より政策研究大学院大学客員助教授、05年より同客員教授を兼務。05年よりスタン フォード・ロースクール Center for Internet and Society 客員フェロー。
著書に『DVD-ROMで学ぶ「知的財産」入門』(共著・PHP研 究所)や『紛争解決と法』(共著・信山社)があり、『月刊 ASCII』にも連載中。

塩澤教授のサイト http://shiology.com/

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知識を蓄えるのではなく、知恵を生み出せる人間に

成蹊大学キャンパス 正門前のケヤキ並木

成蹊大学は若者に人気のある東京・吉祥寺にキャンパスを置く総合大学で、前身校の開設から90周年を迎える伝統校である。同大学は吉祥寺キャンパスに全学部を集めたワンキャンパス制を敷いており、学生は大学生活の4年間をひとつのキャンパスで履修できる。さらに、学部を越えた科目の受講や施設の利用など、ワンキャンパス制のメリットを生かしたさまざまな制度が用意されているのも特徴である。

 緑に囲まれたキャンパスの10号館研究室棟に今回のグッドプロフェッサーである法学部法律学科助教授・塩澤一洋先生の研究室がある。

「僕の教育の基本は、教えないことなんですよ」

塩澤先生は開口一番にそう語り、まず自身の指導方針について話してくれた。

「教えない教育方法というのはむずかしいことですが、一方的に教わったことは忘れてしまいがちです。でも、自分で考えたことは忘れにくいですよね。我々が扱っている法律学には唯一絶対という答えがありません。100人の人間がいたら100とおりの答えがあって、どの答えがより妥当性が高いのかを見極めていく学問なんです。ですから、教えられるのではなくて、自分で考えて自分の答えを見つけ出さなくてはならない。それで、教えないことにしているんです」

そう語る塩澤先生は端正な顔立ちによく通る声そして論理的な話し方と、まさに少壮気鋭の法律学者ぶりである。熱弁はさらに続く。

「僕が育てたいのは、自分で判断できる能力をもった人間です。将来法律家になろうと、また普通の社会人になろうと、新しい事柄に自分で判断して対応していくためには、自分なりの価値観をもっていなくてはなりません。それには既存のものを疑うこと、知識を蓄えるのではなくて、新たな知恵を生み出せるような人間であることが大切です」

同大学の法律学科では1年次に民法から学ぶ。民法は経済活動や人々の生活にかかわる身近な法律である。そこから法律への理解を深め、しだいに高次な法律の専門学習に移行していくカリキュラムになっている。また、1年次からゼミが行なわれており、しかも複数のゼミへの参加が認められてもいる。ともすれば法律学の学習といえば単調になりがちだが、こうした配慮によって講義やゼミが活性化し、学生の受講意欲が高まるように工夫されているのだ。

「教えない教育」の秘密は学生同士の徹底的討論

塩沢研究室のある10号館研究室

塩澤先生の講義やゼミも、この方針に沿いながら「教えない教育」が展開される。とくにゼミでは、学生間で徹底的に討論することに重点が置かれる。

「討論では何を発言してもいい。それが間違った意見であっても、僕は否定しません。それを肯定し尊重しながら、討論のなかで本人が矛盾に気づくように仕向けます。それを繰り返していると、学生たちのあいだに“何を発言しても許されるのだ”という雰囲気が生まれ、放っておいても学生間で議論が活発化していくんですね」

白熱化した討論なかで学生は鍛えられ、自分で考え判断できる人間に成長していくのだという。塩澤先生の専門は民法と知的財産法である。それぞれ高校生にもわかるように解説してもらった。
民法については、

「私法の根幹となる法律です。たとえば、経済活動というのは財産の帰属と移転の循環によってなされます。その循環の秩序を根本から規定しているのが民法です。我々が誰かと契約したり、携帯電話を購入することも、みんなこの法律に規定されています。基本的かつ最も重要な法律です」

また、いわゆる知的財産法については、

「知的財産というのは“さわれないけど価値のあるもの”のことです。発明のような技術的なアイデアとか絵画・音楽のような表現されたものがこれにあたります。これらを保護する権利を知的財産権といい、大きく分けると、特許権や商標権などの工業所有権と著作権という2つのカテゴリーからなっています。そしてこれらの権利を定める法律をまとめて知的財産法と呼ぶのです」

では、大学で法律を学ぶことにはどんな意味があるのだろうか?

「人間が社会のなかで生きていくには、他者とのかかわりが不可欠です。その他者との関係がうまくいくためのルールを知り、そのルールの本質に何があるのかを追究することが法律を学ぶということになります。そこでの法律というのはツールなのです」

「しかし、このツールはいかようにも解釈できます。それは、法律のひとつの条文解釈をめぐって原告と被告が争い、裁判官がまた別の判断を下すということからも明らかです。法律を学ぶことは、法律というツールをどのように解釈したら社会のルールの本質に最も適合するのかを探究することでもあるのです」

そのツールを使いこなすために、重要なことは何なのか?

「世の中にあふれている情報は他人のフィルターを通した2次情報ですから、自分で現場に行き、自分で体験して1次情報を得ること。それによって判断力を養うこと。さまざまな事実のなかから法律的な事実を取り出し、ルールを適用できるようになること。そうした訓練が重要です」

2004年4月ロースクール開校をめざし準備中

ゼミ生達と語り合う塩沢教授

法律学科をめざしている受験生が心がけるべきことは何か?

「法律に限らず学問とは、既存の価値を疑うところから出発します。ただ受験生がそれをやってしまうと、受験に影響してしまいますけどね(笑)。何かを批判するためには、その前提となる知識が必要です。高校生くらいまでは、基本的な知識を身につけておくことが大切でしょうね。それには何にでも興味をもって、面白いと思うことが大切です。ただの無味乾燥な知識の累積ではない、有機的な構成物として自分のものにする。そういう学習が必要ですね」

さて、法学部といえばロースクール(法科大学院)のことが何かと話題にのぼる。

成蹊大学でも2004年4月の開校をめざして準備中で、塩澤先生もその開設準備に追われる日々だという。受験生にとって当面の目標は学部入学だが、その先にはロースクール進学の道も開かれることになる。そうしたことも法律科志望者の大きな励みのひとつともいえよう。

こんな生徒に来てほしい

本当に大学に進むべきかを、まず自分自身でよく考えてみてください。みんなが行くからとか、行くことが自己目的化しているだけでしたら、大学に入っても不幸なだけとなる可能性があります。いまは受験知識の集積で手一杯かとも思いますが、自分のこれからの人生をどう生きていくのかについてよく考え、大学に進むことが人生のプラスになるという積極的な意味を漠然とでも認識したうえで、ぜひ大学に進むようにしてください。そうすれば、実り多い4年間になると思いますよ。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。