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GOOD PROFESSOR

学習院大学
理学部 生命科学科

安達 卓 教授

あだち・たかし
1964年仏グルノーブル生まれ。86年北海道大学理学部卒(生物学科)。92年名古屋大学大学院理学研究科博士後期課程修了(生物学専攻)。92年愛知県がんセンター研究所研究員。94年名古屋大学理学部助手(生物学科)。96年同大学院理学研究科助手(生命理学専攻)。99年米ミネソタ大学(文部省在外研究員として派遣)。01年神戸大学発達科学部助教授(人間環境科学科)。03年同大学院自然科学研究科助教授(自然環境基礎講座)。07年同理学研究科准教授(生物学専攻)。09年より現職。生命分子科学研究所兼任。博士(理学)。

 安達研究室のURLアドレスはコチラ↓
http://www.gakushuin.ac.jp/univ/sci/bio/laboratory/
detail_adachi/member.html

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安達教授の研究室が入る「南7号館」
学習院大学本部が入る「西5号館」

ショウジョウバエが教える発生遺伝学

――今回一生モノのお話を伺うのは、学習院大学理学部生命科学科の安達卓教授。まずは、生命科学科ではどんなことが学べるのか教えていただこう。

生物学の研究分野は近年めざましく多様化が進んでいまして、ひとつの学科ですべて網羅することは不可能になってきました。本学生命科学科では、分子細胞生物学を中心とした生命科学について研究しています。生物学の素養が必要なのは言うまでもありませんが、むしろ最近は物理や化学の素養も求められるようになっています。とくに化学の知識は重要ですね。

さらに、分子細胞生物学の研究に必要だと思う重要な素養が大きく2つ考えられます。まずひとつに英語です。研究に関する最新の情報はいまや英語で入ってきます。英語を苦手にしていると、どうしても取っ掛かりから後塵を拝することになりますし、こちらから情報発信をしようというときも不利になってしまいます。

求められる素養の第2はコンピューターのスキルですね。プログラミングまでできれば申し分ないのですが、そこまではいかないまでも、よりスピーディーなパソコン操作やワード・エクセルなど汎用ソフトの小ワザを身につけておくだけで相当に得することは間違いないです。

――そう語る安達教授のご専門は「発生遺伝学」(Developmental genetics)ということになる。果たしてどんな学問分野なのだろうか。

「発生学」(Developmental Biology)と「遺伝学」(Genetics)は、大昔は全くの別分野に分かれていました。しかし例えば、まだ役割の決まっていない幹細胞(stem cell)があったとして、それが細胞分化して筋肉や神経などになっていく時にどういう遺伝子が働くのかについて知るためには、発生学と遺伝学を巧みに組み合わせて研究する必要が出てきたわけです。

発生遺伝学研究室の学生と安達教授
ショウジョウバエを手に安達教授

消化管がん化の遺伝子メカニズムを特定

――安達教授の発生遺伝学における研究手法の特色として、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を使うことが中心であるという。

ショウジョウバエはわずか2ミリ程度の小さな昆虫ですが、その各器官を研究することで、ヒトを含めた哺乳類についてまで、その理解を発展できることがよくあります。私たちの研究室ではショウジョウバエの3胚葉それぞれに由来する3つの器官(「翅原基(翅)」「前立腺(附属腺)」「消化管」)に的を絞って、発生や老化などの、個体レベルの高次機能を研究しています。

まず「翅原基」ですが、翅になるための幹細胞のような細胞だけでできており、最初どんな器官にもなる得るかたちで増殖を始めます。ですから増殖の途中で刺激を与えてやれば、翅以外の器官に変わってしまいます。ですので、翅のなかに目をつくるようなことも出来てしまうのです。

これに対して成虫の「前立腺(附属腺)」は、いったん発生が終了すると二度と増殖しないで、死ぬまで同じ器官として使用されます。こうした器官では何か障害が起きたときに新たな代わりがつくられないため、とにかく今ある細胞を大事に守り抜こうとします。ヒトでいえば心臓などがこれと同じです。

もうひとつの「消化管」(小腸)ですが、成虫になってからも細胞分化がなされて新しい細胞に更新されていくのが特徴です。その細胞分化の源が組織幹細胞であり、そのため消化管は分化した細胞と未分化の組織幹細胞が混在したかたちで存在しています。

――これまでの安達教授の研究室における主な研究成果についてもお話しいただいた。

最近の成果では、消化管の「早期老化症状の原因の発見」があります。消化管が老化すると、そこは次第に腫瘍化しやすくなります。ところが、あるショウジョウバエの突然変異体では、まだ若いのに消化管が老化し腫瘍化しました。その仕組みを解明していきますと、細胞膜上のインテグリンという分子が関わっており、哺乳類の表皮における老化と密接な関係にあることがわかってきました。

またショウジョウバエの前立腺は袋状になっていて、約千個の細胞でつくられています。通常ひとつの細胞に核はひとつというのが常識ですが、この前立腺の細胞はいつも2つの核を含んでいます。なぜ2つも核があるのか、その分子メカニズムの原因となる遺伝子を、ごく最近に特定しました。

さらに2核である必要性についても、1核だと細胞の伸縮性がなくなりやすく、生殖器としての適切な機能が損なわれてしまうためであることも突き止めました。良く似た目的をもつ2核細胞というのはヒトの臓器にもあり、たとえば肝臓などはそういった2核細胞をたくさん含んでいるのです。

学習院大キャンパス点描

一生モノの科学的リテラシーを身につける

――つぎに学部生の研究室配属については……

学部生の研究室配属は4年次4月からで、わたしの研究室では例年5~10人ほどを受け入れています。配属を希望する学生が多いときには選抜になりますが、最近では学生たち同士で事前によく話し合って、最終決定までにうまく人数調整するようです。その調整にあたっては、成績とともに、この研究室で何をやりたいのかが明確になっているかどうかがポイントになっています。

卒業研究のテーマについては、こちらから複数提示し、それぞれ学生に好きなテーマを選んでもらいます。具体的な研究実施については就職活動との関係がありますから、できるだけ本人たちの都合をくんで、なるべく力を発揮できるスケジュールでやらせたいと思っています。

――あらためて学生たちへの指導方針については次の4点を挙げてくれた。
【面白い講義・指導】学部卒業でも、大学院に進学するにしても、大半の人が企業に就職することになります。その彼らに向かって、わたし個人の研究について細部まで語っても困惑する人も多いだろうと思っています。ですから、そこは一部にとどめ、できるだけ面白いか、または役に立つ可能性のある話をするように心掛けています。

【個々の知見における一般化の推奨】ハエの研究で得られた知見や現象をヒトに応用するとしたらどうなのか? そうしたことを常に考えていると、一つひとつの基礎科学研究の意義がいつの間にか、非常に良く感じられるようになれると思います。

【研究を進めるうえで大切な論理性】理系の科学研究においては、論理的に正しい方法で進めていかないと正しい結論に到底結びつきません。日常生活のなかでも論理的に思考することは大切。たとえば最近は簡単な詐欺に引っ掛かる若い人が多いようですが、論理的に考える癖さえつけておけば被害はかなり減るはずです!

【ミクロとマクロの視点から考察する習慣】さきに2つの核をもつ細胞の話をしましたが、なぜ2核である必要があるのかという要因を探すマクロの方向(究極要因)と、どのようにして2核細胞が生まれるのかというミクロの視点からの探求(至近要因)。こうした2つの視点をもつことで、科学的に探求すべき重要なポイントが見えてくるはずなのです。

こんな学生に来てほしい

まずは「生物学の意義を実感したい人」。基礎科学というのは、やっている価値を実感しにくいものですが、例えばかつてに比べて、人間の生活水準は確実に上がっています。その背景には常に基礎科学の発展があります。つぎに「好奇心の旺盛な人」。人類がここまで文明を発達させた理由のひとつは、ほかの生物より好奇心が旺盛であることがあります。それに「楽しんで勉強や研究をしたい人」。なにごとも楽しみながらやることが成功への秘訣だと思うからです。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。