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GOOD PROFESSOR

国際基督教大学
教養学部

伊東 辰彦 教授(学部長)

いとう・たつひこ

1952年東京生まれ。78年国際基督教大学(ICU)教養学部人文科学科卒。81年米ニューヨーク州立大ストーニブルック校音楽学部大学院修士課程修了。91年米デューク大学音楽学部大学院博士課程修了、Ph.D.(音楽学)。04年国際基督教大学宗教音楽センター所長。06年同ディッフェンドルファー記念館長。07年同美術・音楽デパートメント長。07年同教養学部副部長。13年教養学部長。

主な著作に『アジアにおける異文化交流』(編著・明治書院)『天才音楽家たちの友情記念帳』(講談社)『バッハ全集 第4巻 教会カンタータ(4)』(分担執筆・小学館)などがある。

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「教養学部長室」が入るICU「本部棟」
同窓会交流のための「アラムナイハウス」

悩み生きた音楽家たちの実像に迫る

――今回紹介するグッドプロフェッサーは、ICU教養学部教授にして、日本を代表する音楽学者であり、さらには学部長でもある伊東辰彦教授。まずはICUが教育理念として掲げる「リベラルアーツ」(liberal arts)について説明いただこう。

ひとつの学問領域にとらわれない物事の見方を養うのが、リベラルアーツ教育の重要な目標のひとつです。専門領域を深く学ぶことはもちろん重要ですが、他領域との関連性やその意義を知る必要があります。ICUでは、たとえば経済や法律を学ぶにしても常に他領域との連携を意識します。それによって学生自らが問題意識をもって学ぶことに繋がります。

――さらにICUで採用される「メジャー制(専修分野)」教育についても説明をお願いした。

ICUでは1~2年次に英語科目(ELA)と30余のメジャーの基礎科目を各自選択して履修し、3年進級時に3~4年次で学ぶメジャーを選択して決めるという方式を採用しています。ここで重要なのは、与えられたモデルに従って決めるのではなく、それぞれの学生が自主的に判断し選択して決めることです。

「悩み、そして決断する力」という力が鍛えられるこのプロセスこそがリベラルアーツ教育において重要だと思います。ただ、これを学生に任せきりにするのではなく、我々教員や専門職員がつねに相談に乗る環境が整えられています。

――いまICUでは入試制度の改革が進んでいるらしい。その中心になっているのが伊東教授だ。

2014年度入試から大学入試センター試験の利用を廃止し、さらに15年度からは一般入学試験の「総合教養(ATLAS)」において、あるテーマについて講義を聴いてから資料を読んで設問に答えるという、新しいやり方を導入します。これまで英語のヒヤリングの試験はありましたが、日本語でやるのは、おそらくこれが初めてのことと思われ、画期的なものになると我々も期待しています。

しかし、これは決して「奇をてらった」ものではなく、他の人の言っていることをしっかりと理解する態度と集中力を試すものです。ここでは普段の学校生活や集団の中での経験が重要となります。

ICUキャンパス内「大学礼拝堂」
ICU三鷹キャンパス内のロータリー

時代のなか生きた作曲家たちの虚像と実像

――そう語る伊東教授が指導担当しているのは「音楽メジャー」だ。どんな専修分野なのかお話しいただいた。

音楽メジャーとはいっても、ここで音楽の実技そのものが学べるわけではありません(全くないわけではありませんが)。ここでは「音楽の理論」「音楽の歴史」「文化としての音楽」「社会における音楽」などについての研究がされ、学生への指導がなされます。

ただ、基本的に実技を教えないメジャーであるにもかかわらず、ここで学んでプロの音楽家として活動している人が幾人もいます。ここで理論的・文化的なことを学びつつ、実技についてはまた別のところで学んでデビューするケースは多いですね。

――伊東教授自身が研究する専門分野は「音楽学」「キリスト教の宗教音楽」「日本の洋楽導入」だが、はたして「音楽学」(musicology)とは、どんな研究をする学問なのだろうか。

わたしは西洋のクラシック音楽の作曲家についてずっと研究してきました。「作曲家研究」といいますと、どうしても作品中心に論じられがちです。わたしの場合はそれだけではなく、それぞれの作曲家をひとりの人間として見つめ、その人物像にも注目して研究しています。その題材として、ドイツの文化的伝統である「友情記念帳」を扱ったところが音楽学の領域では珍しいかもしれません(笑い)。

こうした研究でわたしがやりたいのは、楽曲の理論的分析だけでは見えてこない作曲家たちの生きた実像に迫ること、つまりは、これまで通念とされてきたものを見直すことが目的なのです。

――ここで、いわゆる古典派の3大作曲家についての伊東教授による評価の一部を載せてみたい。誌面の都合上くわしく掲載できないが、音楽に不案内な者にも実に興味深いと思うが、現役中・高生のみなさんにとってはいかがだろう。

【モーツァルト】天衣無縫で野放図な人と思われがちですが、社会人としては伝統を重んじるタイプの人で、幼いころから保守的な教育を受けて育った人でもあります。
【ベートーベン】自己の内面的理想と社会のしきたりとの葛藤に悩み抜いた人でした。彼が活動した時期は、フランス革命などが起こった転換期の時代で、激動する社会との軋轢に翻弄されながら作曲活動を続けた人です。その反面、自分の社会的・経済的位置の確保には卓越した現実的能力を発揮しました。
【ハイドン】伝統的・保守的な生き方をした人と思われて来ましたが、そのような中で、実は自分の個性を発揮すべく着実にその機会を実現した人でもあります。いくつも革新的な工夫もしています。

ICU三鷹キャンパス点描

入試改革責任者が教える自己マネジメント力

――ICUではメジャー制を採っているため、一般大学におけるいわゆる専門ゼミ演習制度はない。もちろん4年次の「卒業論文」にあたっては、各教員がすべての学生を個別に指導することになる。

ICUでは卒論が全員必修ですから、これがなかなか大変なのです(笑い)。年にもよりますが、わたしのメジャーの学生は平均で10人前後になります。卒論のテーマは各学生のやりたいものをまずは提案してもらいますが、初めは全体にテーマが大きすぎる傾向があります(それ自体は悪いことではありませんが)。

わたしとしては限られた研究期間内に良いパフォーマンスをしてもらうという使命がありますから、多くの場合はテーマを絞ることから始めるのが常になります。卒論指導ではこれが一番重要な作業になりますね。

また卒論作成で重要なのは、出来上がった結果だけでなく、作成過程(プロセス)にあると思っています。いろいろな資料にあたって、その価値を見極めつつ、自分の力でひとつの論文というかたちに集約していく過程ですね。学術論文は、ただ結果が良ければ全て良しというものではありません。その作成過程の検証や、形式的フォーマットに則って仕上げていくことも重要なのです。

――あらためて学生たちへの指導で心掛けていることについてこう語ってくれた。

自ら問題発見のできる人になることを目指してほしいということですね。だれか他人から指示されないと動けないような人ではなく、どんな困難な問題に直面しても、他人と協力しながら自分のアイデアで解決できるような力のある人ですね。そうした自己マネジメント能力を備えた人を育てたいと思っています。

【お知らせ】国際基督教大学における15年度からの入試制度改革の詳細については、同大学のURLを参照するか、ICUアドミッションズ・センターまでお問い合わせください。

こんな学生に来てほしい

他人からの借り物の価値観でものを判断するのではなく、自らの価値観で判断できるような一人前の人になりたいと思っている人。今後ますます簡単に答えが出しにくい時代が続くでしょうが、それでも不安を感じないで自分らしく生きていきたいと考えている人。既存の常識的なものの見方とは違う、別の考え方があるのなら見つけてやろうと思っている人。そんな勢いのある若い学生が来てくれたら大変すばらしいと思いますね。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。