
武蔵野大学
環境学部 環境学科
村松 陸雄 教授
むらまつ・りくお
1968年島根県生まれ。大阪大学工学部卒。松下電器産業(現パナソニック)入社。関西大学大学院社会学研究科社会心理学専攻修士課程修了。英サリー大学大学院環境心理学専攻修士課程修了。東京工業大学大学院人間環境システム専攻博士課程修了。武蔵野女子大学(現・武蔵野大学)人間関係学部専任講師。加ダルハウジー大学客員教授。武蔵野大学環境学部准教授をへて12年より現職。博士(工学 東京工業大)。照明学会論文賞(02年)。
著作に『建築環境心理生理用語集(和英・英和)』(彰国社)『環境心理学(上)(下)』(前著ともに共著・北大路書房)がある。
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心理学手法を駆使する「環境心理学」
――今回取材に応じていただいた一生モノのプロフェッサーである武蔵野大学環境学部環境学科の村松陸雄教授に、まずはその所属学部・学科のことから伺っていこう。
本学環境学部は文理融合をテーマに、持続可能な未来をつくるための問題解決能力をもつ人材育成をめざしています。環境学というものは、ただ知識の蓄積をするだけでは意味がありません。その知識を活用して具体的な問題解決を図ったり、社会的アクションを起こしたりしないとなりません。そのため実践的な実験・実習を重視したカリキュラムになっており、それこそが本学部の大きな特色です。
――武蔵野大学環境学部は特に地域との結びつきを意識した学部でもあるようだ。
そうですね。近くの小学校に、環境学習の授業を学部学生が教えに行っています。学生にとっても、教えられる側から教える側になることで自ら懸命に学ぶことにもつながるわけです。
――さらに環境学部では「環境プロジェクト」というユニークな授業もある。
これは2~3年次合同の授業で、さまざまな環境問題をテーマに学生側主体でプロジェクトを立ち上げ、学生たちだけで学習や実験をしていくことを目指しています。もちろん我々教員が後方支援も随時していきます。ぜひプロジェクトがうまく育ってほしいと思いますね。
――さらに同学部における学生指導の主要テーマになっているのが「環境マネジメント教育」だという。
環境問題へのアプローチというと、自然環境の保全ばかりに目がいきがちですが、実はいろいろな角度からのアプローチが可能となります。本学では環境への負荷を下げるための仕組みづくりである環境マネジメントに力を入れて指導していまして、そうした環境マインドをもった人材を養成して社会に送り出しているつもりです。これこそが学生指導の中心テーマになっています。


ESD理論に沿った環境教育研究をめざす
――そう語る村松教授の専門は「環境心理学」(environmental psychology)だ。ちょっと聞き慣れないが果たしてどのような学問領域なのだろう。
環境問題を研究するにあたっては、経済学や生物学・化学など多くの領域からのアプローチの方法があります。わたしの場合は、心理学(とくに社会心理学)の視点から研究しています。具体的な方法論としては、インタビュー・アンケートを中心とする「質問紙法」(questionnaire method)や「観察」(observational method)などの心理検査手法を用いて環境問題に迫っていくことになります。
日本において環境心理学が注目されるようになったのは60年代のことでした。建築デザインの違いによって建物という社会的環境を利用する人々に与える心理的影響が違うことがわかってきました。その顕著な例が精神病院でした。病院建物のデザインによって患者の行動がまったく違っていたからです。
このようにして環境を心理学する――そのことが注目を浴びるようになっていきます。以来いろいろな研究分野からの参入もあって、非常に学際的な研究領域になっています。環境と人間は相互に影響し合い、長い時間をかけて醸成されていくというのが一般的な定義にもなります。
――そうしたなかで村松教授が具体的な研究テーマにしているのはどんな分野なのだろう。
最初はメーカーの研究室において、光が人に与える心理的影響を研究していましたが、そのうちに教育環境と人間心理との問題に関心が移って今に至っています。つまり、教育環境の意識を高める配慮、そうしたことにつながる教育方法などについての研究になります。
この研究の難しいところは、一般の研究のように数値化して実態を測れないところにあります。かといって環境そのものを変えて調査研究したことで個々の教育内容や生徒たちが劇的に変わってしまっては、それはそれで問題となってしまいます。
そのため、人々の生涯にわたって特定の環境を追認していく、長いスパンでの文化人類学的な研究が必要ではないかと言われています。いまその方向にシフトされているところです。その具体的な研究が「持続可能な開発のための教育」(Education for Sustainable Development、通称ESD)研究になります。
このESDは、90年代後半から始まった研究で、環境が悪化したところだけを保全・修正してもそれだけでは環境問題の解決にはならないという観点から、政治のあり方や平和・貧困などのさまざまな社会問題が環境に影響を与えるという、広い視野に立って考える新しい教育手法となります。従来からの環境教育をESD理論に沿って移行すべく研究しているところです。


自ら選んだ分野なら誰にも負けないレベルを
――武蔵野大学環境学部の専門ゼミ演習は、2年次後期のプレゼミに始まり、正式には3年次4月から4年次までとなる。村松教授が主宰する専門ゼミの内容については……
ゼミ生は均等割りで配属され、各ゼミ12~15人ほどで構成されます。わたしのゼミでは、3年次から将来の卒業論文を見据えて「文献調査」「テーマの発掘」「予備調査」を進めてもらいます。
4年次においては、「卒論計画書の作成」「卒論執筆」「卒論提出」といった段取りになっていきます。各卒論のテーマについては、環境心理学のカテゴリーからそれぞれ自分なりのテーマを発掘してもらうようにしています。
――あらためてゼミ生たちに対する村松教授ならでは指導方針については……
自らの頭でとことんまで考え、それで論理的に導き出された結論には確信をもつことですね。特定のこの分野に関しては、学生レベルといえども世界の誰にも負けないくらいのレベルの研究を目指すべきです。
そのためには出来うる限りのデータを集めつつ、自らの仮説を構築していきます。その実証のためにインタビューやアンケート調査を繰り返し、それらを駆使しながら科学的にとことんまで考え抜いていく。そのうえで学会発表できるくらいの学術的価値のある論文に仕上げてほしいわけです。
――インタビューの最後に、武蔵野大学における課外活動「たき火塾」についてもお話しいただいた。
これは全学の学生に呼びかけて毎年開くようになった課外活動です。米国ネイティブアメリカン(インディアン)の許で長年修行を積んだナチュラリスト実践家を講師に迎え、冬の奥多摩でたき火を囲んで話し合う試みです。
炎の揺らぎを見つめながらの真剣なディスカッションは一生モノの癒やし体験ともなり得ます。ただ、参加者が例年20人ほどしかないのが残念です。来年以降も開催する予定なので、ぜひ皆さんにはこぞって参加してほしいですね。
こんな学生に来てほしい
好奇心旺盛で、この世のいろいろなことに関心をもつ人に来てほしいですね。その関心の対象は役にたたないことやオタク趣味的なことでも全然構いません。目先のことばかりにとらわれないで、他人はどうであれ自身が心の底から面白いと思える現象に長いスパンでのめり込める人。そういう志ある人といっしょに学んでいきたいですね。
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