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GOOD PROFESSOR

東京外国語大学
大学院 総合国際学研究院

宇佐美 まゆみ 教授

うさみ・まゆみ
広島県生まれ。84年慶應義塾大学大学院社会学研究科心理学専攻修士課程修了。93年昭和女子大学講師。97年東京外国語大学外国語学部助教授。02年大学院地域文化研究科教授。09年より現職。この間92年米ハーバード大学教育学部大学院人間発達心理学科、言語・文化修得専攻博士課程単位取得。99年博士(教育学)。

主な著作に『言葉は社会を変えられる』(編著・明石書店)『Discourse Politeness in Japanese Conversation』(ひつじ書房)『新・はじめての日本語教育1』(共著・ASK講談社)などがある。

「宇佐美まゆみ研究室」のURLアドレスはコチラ↓

http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/usamiken/

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宇佐美研究室がある東京外大「研究講義棟」
東京外大正門にある「TUFS」の立体オブジェ

「ポライトネス理論」の第一人者

――今週登場願うのは、東京外国語大学大学院総合国際学研究院(学部の担当は言語文化学部)の宇佐美まゆみ教授。まずは、担当される言語・文化学部のことからお話しいただこう。

東京外国語大学は一昨年度、それまでの外国語学部だけの単科大学から「言語・文化学部」と「国際社会学部」の2学部制になりました。学生は入学時に選択した「専攻言語」を選択し、それと英語を4年間かけて習得していきます。実質、3年次から2つの学部に分かれて各専門分野について学ぶことになります。

わたしが所属する言語・文化学部については、近年グローバル化が進む地球を複眼的視点でとらえつつ、ことばや文化を中心に人間の営みについて相対化して考えていきます。3年次からは学部ごと(さらにコース別)にも分かれていきます。

今わたしが担当しているのは「言語・情報コース」です。ここでは基本的に、言語の構造を押さえたうえで(1)他言語との対照(2)言語と社会との関係(3)複合領域としての言語教育科学――などについて学ぶことになります。なお言語・文化学部には、このほかに「グローバル・コミュニケーションコース」と「総合文化コース」もあります。

――つづいて宇佐美教授の専門分野についてお聞きしていこう。

わたしは心理学の出身ですので、特定の専門言語ではなく、(1)社会と言語の関わりについて探る「言語社会心理学」(2)言語を非母語話者(外国人)に教える言語教育法について考える「言語教育科学」(3)言語によるやり取りについて談話レベルで研究する「談話研究」(4)人はことばをどのように用いているかを考える「語用論」――などを研究テーマとしています。

このような一見多様に見えるいくつかの研究テーマに共通しているのは、言語の使い方を通して人間関係のあり方、ひいては「人間」を見ているということになるでしょうか。

――そうした研究の一環だろうか、宇佐美教授の研究には「ポライトネス理論」という用語がよく出てくる。

ポライトネス(politeness)とは、敬語や丁寧語をもちろん含みますが、そのような従来のとらえ方とは異なる親近感や親しみを表わすことばも含め、「相手と良い関係を築くための配慮を示すことば」すべてのことを指します。ですから、冗談で場を和ませるようなこともれっきとしたポライトネスになります。

研究手法としては、おもに「実際の会話」を録画・録音し、それを文字化して、そのやりとりを分析していきます。中国・韓国や東南アジア・ヨーロッパからの留学生はもとより、日本人の学生に対しても言語・文化によるポライトネスの表面的な違いと、さらにはもっと重要な表面的な違いを超えてある共通点としての「普遍性」について2言語以上を比較・対照することをすすめています。

具体的な内容としては、留学生の母語にはどんなポライトネスが存在するのか、いわゆる丁寧さより親近感を示すフレンドリーな話し方のほうが好まれているのか? 初対面の人にはどんな丁寧語を遣うのか――こうした点について実際の会話を分析し、日本語との比較分析をしていきます。

ここでわかってきたことは、ポライトネスの表現方法については言語や文化によって違いがありますが、その根本の動機は普遍的であり、世界に共通する原則があるという仮説を立てています。いまはそれらを実証するための研究をしているところです。

――言うまでもなくポライトネス理論を日本に紹介したのは宇佐美教授に他ならず、わが国における第一人者とされる。最近は会話の前後までもふくめて談話レベルでポライトネスをとらえる「ディスコース・ポライトネス」(discourse politeness)の理論も独自に展開している。

東京外国語大府中キャンパス点描
東京外国語大府中キャンパス点描

「男ことば」「女ことば」から見える「ことばジェンダー」問題

――宇佐美教授と言えば、ことばとジェンダー(社会的・文化的な性のありよう、英gender)についての問題提起でも知られる。

日本語にはいわゆる「男ことば」(男性語、英men's language)と「女ことば」(女性語、英women's language)があるとされてきました。しかし実際はそうではありません。

たとえば「腹が減った」は、男性は使えますが、女性は使ってはいけないと教育されてきました。ただ、これには何の正当性も必然性もありません。日本の男性は、丁寧で上品な「おなかがすきました」から、丁寧度が低い「腹が減った」まで、相手や状況に応じてどの表現でも自由に選ぶことが出来ます。それに対し女性のほうは、丁寧度の低いことば遣いをするのは事実上のタブーになっているわけです。

ただ、よく見ると、男性が使えることば遣いはすべて「基本の日本語」(辞書にある形)なのです。男性は、丁寧度の高いものから低いものまで相手や状況に応じてすべてを選べるのに対して、女性は選べる範囲が狭められているというのが実情といえます。幼児期からの教育や社会生活において、直接的・間接的にその制約を押しつけられてきたのが実情なのです。

ただ、そのことに必然性がないからこそ、社会の価値観が変容してきた現代、若い女性を中心にその暗黙のルールを守らなくなってきているのです。これを「ことばの乱れ」ととらえるのは正確ではありません。わたしは、現代の女性が奪われていた「ことばの選択の自由」という権利を取り戻しつつあるのだと主張しています。ただし、だからといって、今すぐに女性も男性と同じように、「汚いことば(?)」を話すべきだと主張したいわけではありませんよ(笑い)。

東京外国語大府中キャンパス点描

大学4年間で一生モノの研究スキルを身につけよう

――次いで宇佐美教授の専門ゼミについても伺うこととしよう。東京外国語大学言語文化学部の専門ゼミ演習は3~4年次の学部生が対象となる。

私たちの「言語社会心理学研究室」では例年、各学年7~8人の学部生を受け入れてきました。ゼミの内容としては、心理学における実証的な方法論による研究をメーンにしています。

各ゼミ生は先にあげた研究テーマの中から自ら何に着目するのかを決め、たとえば日本人と中国人の「謝罪行動の比較」を研究テーマにするというように絞っていき、会話データの収集条件を詳細に決めた上でその実例を録画・録音して収集していきます。3年次のうちに予備研究としてのサンプリングが終了しているのが望ましいですね。

――こうして3年次のうちから卒業論文に向けての準備に入る。

学部生にとっては初めて経験することばかりで意外と時間もかかりますから、卒論は2年がかりで丁寧に仕上げてもらいます。4年次に入って、各自収集したデータの統計分析などをしながら、本格的に卒論を執筆していくということになります。

具体的な卒論テーマとしては、「ポライトネス理論(敬語研究ふくむ)」「ディスコース・ポライトネス理論」「ことばとジェンダー」「異文化間コミュニケーション」「謝罪や断りなどの発話行為の対照研究」などのカテゴリーから選ばれることが多いようですね。

――あらためてゼミ生たちへの指導方針についてはこう語っていただいた。

基本的には、学生が自ら考える習慣を身につけて欲しいということに尽きます。研究テーマを決めるにも、先行研究の論文をいろいろ読んだりして、自分なりのテーマや方法論を自ら考えて決めてほしいのです。

さらに言えば、データを分析して得られる統計的な数字をただそのまま論文に書くというような姿勢ではなく、それらの数字の意味することをあらゆる角度・観点から考えたうえで、考察するよう指導しています。ただ注意することは、何ごとも「得られたデータに基づいて」考えるということです。

つまり、研究においては「事実としてのデータ」がいかに重要かということを認識し、それに対して「厳しくかつ誠実に」向き合わなければならないということです。この基本的姿勢をぜひ身につけてほしいと思います。そういう姿勢はその後の人生においても重要だと考えるからです。

こんな学生に来てほしい

とかく就職に有利とか実践的とかという面がもて囃される風潮が続いていて、若者の多くも振り回わされているように感じます。しかし研究者にならない人こそ、研究そのものに没頭できるのは大学時代の4年間をおいて他にないことも自覚してほしい。ここでの研究の経験は、将来どんなところに就職しても必ず役立つはずです。さらに言えば、この大学で学ぶからには、学生時代に世界に飛び出す経験もしておくべきでしょう。とくに先進諸国と発展途上国の双方を一度見ておくことは一生の財産となるはずです。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。