
東京学芸大学
教育学部 芸術・スポーツ科学系美術分野
鉄矢 悦朗 教授
てつや・えつろう
1964年東京生まれ。89年東京藝術大学卒。89年一級建築士事務所A.T.System勤務。都市計画から店舗・インテリアまでの企画設計に携わる。94年一級建築士事務所「鉄矢悦朗建築事務所」開設。98年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了。98年東京藝術大学建築科非常勤講師。02年東京学芸大学芸術・スポーツ科学系美術分野助教授。07年同准教授。13年より現職。


「もの」「こと」「場」をデザインする
――今週の一生モノプロフェッサーには東京学芸大学芸術・スポーツ科学系美術分野の鉄矢悦朗教授に登壇願うことになった。まずは同美術分野のことから伺っていこう。
本学のミッションは「創造力・実践力に富む有為の教育者を養成すること」にあり、私たちの分野で指導養成しているのは図工と美術の教育者ということになります。教育カリキュラムとしては、1〜2年次のあいだに全体の基本である美術教育学・絵画・彫刻・デザイン・工芸・造形芸術学を理論と実践の両面から学びつつ、2年次からそれぞれの研究室(ゼミ)の所属学生となって学びます。もちろん小学校の先生の課程ではその他の教科についてもしっかりと学ぶ仕組みになっています。
大きな特色としては、同じキャンパス内に附属幼稚園・小・中学校があるのを含め、都内に12校の附属学校・園舎があることです。それら学校とは教育実習や連携研究などで強くつながっています。また、近隣の公立学校などとも関わりが深く、さまざまな場面で美術やデザインなどの新たな試みが創造的に実践できます。学生たちは、自分たちの活動に対して実感を伴った理解をしていきます。
国立大学ならではの少人数教育も挙げておくべきでしょう。いろいろな専門分野の専任教員がそろっていて、附属学校の先生たちも含め、学生のやりたいことに応えようとする教育環境があります。その意味で、教員養成の環境としてはしっかりと整えられていると思います。
そのあとは学生自身がどれだけ自分の足で歩き出してくれるのかにかかっています。またよく考えてほしいのは、美術の得意な人が必ずしも美術を教育することが上手とは限らないということですね。


「デザイン教育」の可能性を探っていく
――そう語る鉄矢教授の専門についてもお聞きしていこう。まず当初はプロの建築家の道を歩んでこられた教授。それが現在は「デザイン教育」「立体デザイン」へと方向転換されているという。
今わたしが手がけているものは「ものづくり」「ことづくり」「場づくり」といったら良いでしょうか。つまり「つくる」ことや「伝える」ことをやっています。そのなかで「デザイン教育」については、実感をもって伝える(教える)ことの大切さを学生たちに理解してもらえるよう指導しているつもりです。
デザイン教育について考えますと、デザインの技術や歴史は「教える」ことが出来るのですが、本当に必要なことか判断する勇気や志については「育む」ことになります。この「教え」「育む」ことのバランスなのですが、いまは特に「育む」ための「待つ時間」を大切に考えています。
――鉄矢教授といえば、いくつかのデザインプロジェクトを手掛けられていることでも知られる。そのひとつ「木を活かしたデザインの基礎研究」(略して「木活研究」)については……
日本において一番身近にある素材であり、ものづくりに格闘するに値する素材といえば、まずは木だろうと思うわけです。過去の先人たちも木とかかわって多種多様なものを残してきました。では自分たちは木とどう関わっていくのか……。そのような問いに応えようとしている全国の木に関する取り組みなどを「月報」として5年近く集めたものです。
そうすると次第に木を通じてネットワークができてきました。愛媛の小学校から「『風』をテーマに図工をしてほしい」という依頼もそんなネットワークからです。わたしも楽しくどんな授業がデザインできるかを悩みかつ楽しみました。
風を違った体感となるように、子どもたちに大きな農業用シートを持ってもらい、それに思いっきり風をはらませる造形遊びをしました。「風って重い!」そんな感想が聞けました。デザイン的とは、ふだんと違う角度からモノゴトをとらえるトレーニングでもあるのです。
――さらに「NPO法人東京学芸大こども未来研究所」(codomode http://www.codomode.org/index.html)にも主要メンバーとして参加されている。
これは「遊びは最高の学びである」をコンセプトに本学教員間の横の連係プロジェクトから生まれたものです。東京学芸大学の「知」である子どもに関わる「ひと/人材育成」「こと/調査・開発」「コミュニケーション/伝達支援」を社会に発信するNPO活動です。わたしはここで産学連携した教具や遊具のデザインや、練馬区の学校応援団を支援する「ねりまチャージ」という講座の担当もしています。

教員として何がしたいのかを考えてみよう
――つづいて専門ゼミ演習についても伺っていこう。
美術分野のゼミは原則的に2年次からですが、本人が希望すれば1年次からでも入ることができます。少しでも早くからゼミでやってみたいという学生に対応したものです。高校までの美術とは違うことがたくさんあります。
やってみなければわからないものでもあり、ぜひ自分に合ったゼミを探してほしいですね。学芸大のゼミというのは小さく囲い込まれていないはずです。わたしのゼミでは、理科教育や環境教育の教員やゼミなどとの共同プロジェクト等もおこなってきました。
本学には珪藻の研究をしている理科教育の研究室や、雑穀を研究している環境教育の研究室、暗黒星雲を研究している研究室などがありまして、わたしの研究室とコラボレーションして「雑穀展」「珪藻展」「暗黒星雲展」などを開催しています。デザイン研究室にいてデザイン雑誌を読んでいるだけでは仕方ないわけで、異なるフィールドがたくさんある学芸大自体を楽しむやり方ですね。
こうしたプロジェクトに参加する学生たちは「次に何をしたらいいんですか?」などと聞きません。だれかの指示を仰ぐのではなく、自らしたいことを積極的に見つけてどんどん動けるようになりましたね。
――あらためてゼミ生たちへの指導方針については次のように語ってくれた。
わたし自身が建築家でありデザイナーですので、与えられた素材をいかに活かしてより良いデザインをしていくかを常に考えています。わたしのゼミに集まってくれた学生についても同じこと。それぞれの素材を見て、最高のパフォーマンスを出すためには具体的にどうしたらいいのか? それを考える手助けがわたしの役目だと思っています。
――最後に現役高校生諸君へのメッセージもお贈りいただいた。
本学に入学して教員になることを目的とするのではなく、教員になることはあくまでも手段と考えてほしい。それよりも教員になってから何がしたいのか、それを描いてほしい。
こんな学生に来てほしい
まずは好奇心と行動力のある人ですね。ここはまずは教員養成のための大学ですから、基本的に元気でハツラツとしていたほうが良いのは確かですが、またそんな教員ばかりだと学校という場が歪んでしまいます。ですから多少勉強が不得意だったり何かひとつ得意なものばかりに挑戦したりしてきた人、でも「地頭」が良いというような人に来てほしいと思いますね。センター試験でない推薦入試という方法もありますから……
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