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GOOD PROFESSOR

東京農業大学
農学部 農学科

根岸 寛光 教授

ねぎし・ひろみつ
1953年埼玉県生まれ。79年東京大学農学系研究科農業生物学専門課程修士課程修了。79年農林水産省に入省し、農蚕園芸局植物防疫課農薬対策室安全指導係長など歴任。84年東京農業大学農学部助手。その後講師・助教授・准教授をへて2012年より現職。博士(農学)。天台宗福聚寺住職。

根岸教授が主宰する「植物病理学研究室」のURLアドレスはコチラ↓
http://nodaiweb.university.jp/pptua/

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根岸先生の研究室が入る厚木キャンパス研究棟
東京農業大学厚木キャンパスの正門

カビ植物病理研究の第一人者

――今週は東京農業大学農学部農学科の根岸寛光教授に登場願う。まずはご専門の「植物病理学」というあまり耳慣れない学問のことからお聞きしていこう。

植物にもヒトと同じように病気があります。病原の種類が人間と違うところもありますが、その病気の原因が何なのかを見つけると同時に、どうやったら防ぐことが出来るのか、それらを追いかけていく学問が「植物病理学」(plant pathology)です。最終的には、生産収量をいかに安定させるかにつながっていきます。

じつは病気でダメになっている植物は皆さんの身近にもあるんですよ。たとえば最近の話題でいくと、東京・青梅ではいま梅林の樹木をバッサバッサと切り倒しているのはご存知ですか?

「プラムポックスウイルス」(ウメ輪紋ウイルス、英Plum pox virus)という植物ウイルスがあり、これは日本では発見されていなかったものなのですが、どういうわけか青梅の梅林で見つかってしまった。それで「植物防疫法」に基づいてどうやったら駆除できるか検討したのですが、結局その梅の木を伐ってしまうしか手段がない。植物に病気が一度持ち込まれてしまうと、ここまで深刻化してしまう例にもなります(参考URL:http://www.city.ome.tokyo.jp/norin/plumbox.html)。

もう少し南のほうの病害の例としては「カンキツグリーニング病」(Citrus Greenig Disease)というのもあります。これは柑橘類の病害ですが、バクテリアが原因で起こる病気です。これは東南アジアから北上してきて、奄美大島の東側・喜界島まで伝播してしまい、島で発病した樹木をすべて伐採しました。これで本州は防げましたが、奄美大島以南の沖縄の島々にはまだその病害が残っているわけです。

また「ジャガイモ瘡痂(そうか)病」というのもあります。これはジャガイモでよく発症してしまう大きな斑点キズのことです。みなさんも日ごろ特売品のジャガイモなど買うとときどきカサブタのような斑が入っているかと思います。人体には影響がないし、収量にもそれほど影響ないと言われるのですが、見栄えが悪いですし、深くキズが入り込んでしまうと切り取るのが面倒です。種イモとしては当然使えない、商品としても売りにくいということになります。そうなるとデンプン原料用にでも使うしかないことになります。その場合デコボコしていて洗いづらいですし、細かい粒子が残って白いきれいなデンプン粉が取れないことにもなります。ですから農業生産者にとっては非常に厄介なのです。一度発生すると土壌中に病原菌(放線菌の一種)が残って防除が非常に難しく、ジャガイモを作付けするたびに発生するやっかいな病気です。

こうした植物の病の大半は薬では防ぐことが出来ません。とくに梅の場合は永年作物でもあり、こういった派手な駆除対策方法をとるしかないのです。このほか身近でも植物病害という事例はたくさん起きています。でも、そんなに関心を払う人はあまりいませんね。この学問の宣伝が足らないのかもしれませんね(笑い)。

――そもそも「植物の病」といっても様々な種類の病気があるらしい。

植物の病害の原因については大きく分けて「カビ(fungus)」「バクテリア(bacteria」「ウイルス(virus)」の3種類があります。実はこれはヒトの病気も同じなのです。ただ原因の割合が大きく違います。ヒトの病気は、バクテリア(真正細菌)やウイルスが原因であることが多く、カビが原因の病気はひと握り。しかし植物の場合その病気の大半はカビが原因となります。

なにが原因かで、植物の病害への対処法が違ってきます。その対処法が少しずつ違うので、ひとつの病気にみんなで関わるようなことは難しくなります。何の病気なのか見当がつかないといった場合には、それぞれ専門の違う人間がタッグを組んで一斉にやったほうが答えに早く近づくというメリットもあります。

植物病理学に携わる者としてわたし個人は、カビが原因で起こる植物の病気を専門としています。ちなみに同じ研究室の篠原弘亮准教授はバクテリアを、助教のキム・オッキョン先生はウイルスをそれぞれ専門にしています。植物病理学研究室は創設以来、伝統的にバクテリアや細菌病に関する植物病害の研究が流れとして繋がってきています。カビやウイルスの研究をしている人は日本中にたくさんいるのですが、バクテリアの専門家は少ない。その点において非常に珍しい研究室であるとも言えます。

研究室入り口には学生の作業靴がぎっしり
東農大厚木キャンパス内のバス停時計台

植物病理3分野がすべて揃う稀有な研究室

――東京農業大学農学科において根岸教授は植物病理学の他どのような講義をしているのだろうか。

わたしの学部における今期の講義内容については、まず1年生の後期の必須科目「植物病理学」を担当しています。ここでは「植物病理なんて聞いたこともないぞ」という人が大半ですから、基礎的なところから丁寧に講義をします。2年生になってからは、病理に関連する講義として「植物病原微生物学㈵」という科目を担当しています。キム助教が主たる担当となり、ここでは分野を少し絞って、ウイルス病を中心に詳しく学びます。

3年次では「植物病原微生物学㈼」と「植物防疫論」があります。植物病原微生物学(二)は篠原准教授が中心に授業を進め、おもにバクテリアによる病気についての講義がおこなわれます。植物防疫論では植物の病害・病気ばかりではなく、それらをめぐる社会的な制度がどうなっているかなど法律体系の話や、農林水産省がどんな動きをしているかについても教えています。ここでは元農林水産省など外部の専門家を中心とした講義もなされます。

――ところで根岸教授の研究室は80名余という大所帯。理系研究室とはいえ規模は大きく、それを根岸教授が一人でまとめる苦労もあるのだろうか。

実はわたし自身はほとんど何もしていません(笑い)。若い准教授と助教が頑張り、院生がしっかりサポートするという流れができています。だから3〜4年の学生が80人いても自然とまとまるのです。院生・学部生同士の仲の良さというのもポイントでしょう。またカビとバクテリア・ウイルスと植物病理3分野の専門家がすべて揃っているところも珍しいと思います。それぞれ違う方向性で動いていて統一がとれている研究室というところは案外少ないと思いますね。

この80人の学生のなかで、実際に実験などを重ねて卒業論文を書き上げるという人は7〜8割程度ですね。この大学には、特定の研究室に所属したからといっても、学内の専任教員であれば誰に卒論を提出しても良いという規程があります。実験などしない「調査論文」でも構わないですしね。そうすると研究室に来なくてもいいわけです。というわけで4年生の数は少し減ってきます。

「植物病理学会」100周年ポスター

研究室で培う一生モノのコミュニケーション力

――それぞれ実験テーマについては学生側で決めるわけですか。

そうですね。やれる範囲では我々スタッフが手を添えてサポートしますが、その範囲を超えると、他の研究室や研究機関の先生に協力をお願いする。でも基本的には、研究室の中でできる範囲内に収めています。先輩が研究してここまで進めてきた。じゃあその次はどうなるか? という研究のつながりもあったりもしますよ。そこから院に進んでさらに研究を発展させる人も多いですね。

3年次になって、自分の所属が決まってくると、研究室の中での人間的なつきあいが濃くなってきます。「ああしよう」「こうしよう」「ここは先輩から学ぼう」ということを真剣に追い込んでくると、自然にこの研究室の住人みたいになってくる(笑い)。研究室スタッフは月〜金、基本的にここにいます。とくに我々の研究室は大所帯ですから、機械を使うために順番待ちをする等の都合で、滞在時間は長くならざるを得ません。これは理系ならどこの研究室でもありがちのこととも思いますが。

――大所帯の研究室だからこそ出来ることというのもある?

80人規模というのは、農業系の大学研究室としておそらく日本最大レベルかと思っています。そもそも畑を実際に作って、作物の病気の出方を見たりするには地道な耕作作業が必要です。畑仕事は暑さ寒さのなかでは大変ですし、人数も必要になります。その上でさらに人海戦術でやらなければならないような場面でも、ある程度協力し合って作業を進めることができます。

たとえば「薬剤耐性」(drug resistance)の問題があります。農薬をまくうちに病原菌に耐性ができて、その農薬が効かなくなってしまうことがあります。このような菌株を探し出すのは大変なことで、ちょっとそのあたりの畑からひと握りの試料を持ってきて調べれば必ず出てくるというものではありません。相当あちこちの畑から膨大な試料を持ってきて、そこからものすごい数を当たらなければならないことになります。そうなると少人数では到底できない。試料は新鮮でないと他の菌が入ってきてしまうので、一気に勝負をかけなければなりません。そうなると、やはり頭数が必要でして。そのときにはお祭りみたいな騒ぎになってしまいますね(笑い)。

ただ、人数が多いがゆえに困るのは飲み会をやれる広い場所がない(笑い)。ここは一学年の人数も多いし様々な道へと進みます。卒業して何年か経って話を聞くと思わぬところで活躍している人もいますし、我々教員としてもとても面白い。それはもちろん農大にとっても期待している分野だと思うんですよね。昔は地方の豪農のご子息を預かって卒業したらまた戻すということが多かったわけですが、いまや進路は農業に限りません。食品関係・農薬メーカーはもちろん、なかにはアパレルメーカーに進む人というのもいます。

そうなると本学での学問研究がそのまま生きているかは定かではありませんが、大所帯の研究室でいろいろな人と話をするという経験を積んでいるので、畑違いの場においても社会人になって客相手の商売にもそれなりに対応できるかな、というようには思います。社会人としての適応能力はつくと思いますよ。

――こちらの研究室やキャンパスで協同して研究を進めていると、自然と社会性が培われるというわけですね。

東京農業大学には「収穫祭」という文化祭のようなものがありますが、これは3年生は研究展示必須なんです。もうひとつ模擬店を開かなければなりません。そのあたりを団結してやることで、さらに社会性が養われることにもなります。この研究室では収穫祭に4年生も店を出します。ふつう、4年生は就職活動もあって関わらないのですが。さらに院生までも店を出す。それぞれ独立採算制で模擬店をやるんです。そこまでやるのは農大の中でもたぶんウチだけじゃないかなと思います。それだけ情熱を傾けられる場所といえるかと思います。

こんな学生に来てほしい

コツコツとなんでも一所懸命になれる人ですね。植物や微生物を扱っているので、白衣を着て研究室にこもって実験をするといったイメージがありがちですが、実はその前段として、きちんとした作物を作らなければいけない。すると泥にまみれる仕事がけっこうあるわけです。さらに病気の試料は汚いものが多い。そういう汚れ仕事をいとわない人ですね。もちろん協調性も大切です。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。