早稲田塾
GOOD PROFESSOR

神奈川大学
経営学部 国際経営学科

田中 則仁 教授

たなか・のりひと
1954年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。上智大学大学院経済学研究科博士課程単位取得後退学。神奈川大学経営学部教授。主な著書に『東アジアの地域協力と秩序再編』(共著・御茶の水書房)がある。 

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田中研究室が入る湘南ひらつかキャンパス「1号館」
湘南ひらつかキャンパスのシンボル「11号館」

異文化間コミュニケーションに基づく国際経営論

――今週は神奈川大学経営学部の田中則仁先生に登壇ねがうことにした。まずは在籍する経営学部国際経営学科のことからお聞きしよう。

本学経営学部は「国際経営学科」の1学部1学科です。経営の基本分野と経営カテゴリー以外の経済や法律・情報関係・経営環境などの分野、さらに国際地域研究など地勢学的な分野――こうした3分野の柱を身に付けさせるという方針のもとで運営されています。

学部としての一番の目標は、国際社会において将来役立つ人材を育てていくことです。そのための素養として学んで欲しいことがずらりとカリキュラムになっているわけですが、現在の1年次から「キャリア・ショップシステム」をスタートさせていることが特徴です。

グローバリゼーションが着実に進んでいく中で、これからは自らがなりたい将来のキャリア形成を念頭に置きながら、たとえば10年後にこんな仕事をして活躍していたいといったことを見定めて学ぶようにしなければなりません。そこで目標と現状の延長線を引っ張って、必要となる勉強を体系的・効率的にできるように科目群をグループ分けしました(参考URL:http://www.mgmt.kanagawa-u.ac.jp/study/careershopsystem.html

そうしたグループごとの科目群を「専門ショップ」と呼びます。経営学部には一学年に530名の学生がおり、それぞれがなりたい将来像に向けて勉強ができるようなカリキュラム編成をしています。

経営学部国際経営学科には200ぐらいの開講科目があります。18~19歳の1年次にとっては、その中から自由に取れるといっても自分でどの順番で学べば体系的なのかなど、なかなかわかりません。そこで先ほどのショップ制度を整え、それを基準に体系的に学んでいくと卒業の時点では将来に必要な科目が自然にきちんと身につくような科目構成を用意しました。

たとえば将来、国際ビジネスの分野に進みたいという場合、「国際ビジネス」というグループのなかに9科目が用意されていて、その中から6科目以上を履修してひとつの「メーンショップ」にしていきます。わたし自身が担当する「国際経営論」や「多国籍企業論」という科目を勉強して、体系的に学んでいくと国際ビジネスに関する基礎基本が身につきます。また関連領域である「国際社会」や「異文化理解」などを関連して学習していくと、10年後に国際社会で仕事をしていくときの素養が身につくカリキュラムを1年次から導入しています。

なかには資格取得として税理士や公認会計士といった難関の国家資格の専門職をめざす学生もいます。その場合には経営と会計分野などをさらに極めていく方向に合わせた学習環境が整っています。たとえば簿記の勉強だったら、日商簿記の3級・2級・1級という形で理解を順次深めていくことができます。このような資格取得講座も並行して開講されています。

――それではキャリアショップ制度以前はどのような内容のカリキュラムだったのだろうか?

キャリアショップ開講以前のこれまで10年間は、5つに分けたコースを定めて、そのなかで自らがやりたいコースに登録をし、そのコースに開講されている科目を中心に学ぶという方法を採用してきました。いまの2年次以上の場合においては「経営」「会計」「経営環境」「国際コミュニケーション」「スポーツマネジメント」――の5コースが用意されています。こうした仕組みを10年ぐらい続けてきたのですが、もう少しいろいろな可能性が追求できるようにということで、今年度から具体的なキャリア形成に資するよう、きめ細かいカリキュラム編成のショップ制へと変更しました。

このうち「スポーツマネジメント」には530名のうち約80名の現役スポーツ選手やアスリートが学んでいます。たとえば女子サッカーワールドカップで優勝した「なでしこジャパン」の一員であった矢野喬子(元浦和レッドダイヤモンズ・レディース)さんは、現役引退後に神奈川大学で職員として勤務し女子サッカー部を指導していますが、彼女は本学部スポーツマネジメントコースの出身です。

このコースの学生たちは現役選手として活躍しつづけるケースも多いので、経営や会計だけということですとアスリート本人の関心から離れてしまいます。そこで選手として練習を重ねながら、将来は指導者となったりスポーツ関連の企業に就職したりするために「リーダーシップ論」などの専門科目も学んでいきます。

なお、国際的に使える英語力を身につけたいという有意の学生のために、湘南平塚キャンパスのなかの「学生ラウンジ」の一角には「イングリッシュラウンジ」(English Lounge)という部屋が用意されています。そこには外部の英語教育専門学校でネイティブ研修をうけた専門講師が常駐して、学生が自らの空き時間に通って英語だけで会話のやりとりができます。そうすると国内にいながら日常的に英語だけの環境ができることになります。わたしが学科主任をしていたときに始めたので、これはすでに20年くらいになります。

湘南ひらつかキャンパス「English Lounge」
神奈川大経営学部独自の留学プログラム「BSAP」

海外進出企業研究から見えてくる世界経済の仕組み

――そう語る田中教授の専門分野は「国際経営論」「国際経済学」「海外進出日系企業の研究」だ。教授が海外進出企業の研究などを注目することになったキッカケなども興味がわいてくる。

わたしはもともと経済学部の出身でしたが、いまは学科での講義として「国際経営論」「多国籍企業論」を担当しています。ぜひ高校生の方には知っておいてほしいこととして、「経済学」と「経営学」(あるいは経済学部と経営学部)の両者は何が違うのかということを説明しておきたいと思います。

まず日本や世界の経済を鳥瞰図のように見ていくのが「経済学」に特有なマクロ的な分析ということ。鳥のような目で森を見るのが広い意味での経済学(マクロ経済学)なのですね。その一方で、森というのは一つひとつの木から成り立ちますが、それぞれに着目してみるという手法も可能なわけで、これがミクロ的な経済分析ということになります。経済学分野においても消費者行動・企業行動・価格理論というミクロ的な分析(ミクロ経済学)があります。

いまから200年ほど前にイギリスの経済学者アダム・スミス(Adam Smith)が経済学を構築しました。そして90年くらい前から消費者行動は「マーケティング論」、企業行動は「経営戦略論」という形で分かれてどんどん進化してきた。それがいまの経営学につながるわけです。歴史的にみるとこれらの分野は経済学から派生しています。

わたしは経済学を学び始めたころ、企業家の視点で経済を見ていくことに興味がありました。そして経営学へと進み、さらに国際経営の視点も面白いなと思いはじめました。今はどちらかというと国際経営論、なかでも各企業のグローバルな行動に関心があります。

――海外進出企業のうちでもトヨタ自動車をはじめ自動車産業に注目して研究を重ねてきたことで田中教授は知られる。

そもそも自動車産業というのは裾野が広い分野なのですね。クルマって一見するとただの鉄の塊ですが、その鉄素材だけでもその成分や加工法までも含めると100種類以上の鉄で構成されています。およそガソリン自動車1台で小さなネジまで含めると3万個の部品から構成されています。どれ一個でも外れてしまうとカタカタと支障が出てくるわけで、不要な部品はそもそも存在しません。

それら一つひとつの部品を製造する大企業から中小企業・零細企業までを含めてのチームワークが大事になってきます。小さなネジひとつまでも設計通りの強度と精度で組み合わされて、やっと自動車が1台できてくる。こうして非常に複雑な仕組みが必要となるので自動車メーカーというのは世界でも数えられるほどしか生き残れませんでした。

ところが今後5年から10年ぐらい経つと、電気自動車や水素エネルギーの自動車が実用化されるようになって事情が変わってくるはずです。電気自動車の場合は動力がモーターだけなので、いまのガソリンエンジンよりも部品の点数が半分くらい少なくてすみます。ということはモーターを取り付けるだけで誰でも製造できます。そうなると世界中どこの中小企業でも電気自動車メーカーになれる可能性があります。こうして参入障壁が低くなると自動車業界は競争が激しくなり、ますます海外進出が進むことになるかも知れません。

自動車メーカーに限らず日本企業が海外に出ていくのには2つほど大きな理由があげられます。ひとつは日本国内の人件費が高止まりしていること。飲食店アルバイトでも時給1,000円以上でも募集が集まらないという国内事情もあるわけですが、アジアの国々のなかには1日800円以下でもぜひ仕事をしたいということは幾らでもあり得ます。人件費だけで考えると生産拠点を移したほうが多くの人を雇えます。そうしたコスト面の問題で海外に進出するというのが一番大きな理由になるのですね。

もうひとつの理由は、バブル崩壊後に失速した国内市場が消費者レベルにおいて景気が回復したという実感がないことがあります。そうなると企業側としては売上高を確保し拡大しようという場合、海外市場に展開するほかないという事情も出てくるのです。

――その一方で、国際化という意味では、身辺を見まわすだけでも海外製品に囲まれるようになってきたという一面もあるという。

国内における家庭用電気製品をみても、韓国製や台湾製・中国製・ベトナム製ばかりで、10~20年前とは全然違ってきました。日本メーカーのロゴマークがある家電製品だとしても、製品の原産地で考えると、じつは9割以上が海外からの調達部品という製品が国内の店頭にずらっと並んでいます。そうなると私たちが意識しているかどうかは別にして、すでに国際的な経営環境のなかで暮らしているのです。外に進出する国際化だけではなく、外からもじわじわと国際化してくるわけです。

そうなると、わたし英語できないし海外は苦手ですなどと内向きのことを言い合っているうちに、自らの周囲では勝手に国際化が進んでいて、海外製品のなかで暮らす日本の現実があります。これは工業製品ばかりでなく、たとえば豆腐や納豆などの原料である大豆は85%が海外からのものですし、食品スーパーを見れば生鮮食料品も海外からのものが多く、もはや国産品は高級品扱いになってきました。

さらに株主が外国人ということで言えば、ルノーが筆頭株主である日産自動車はすでにフランスの会社ということもできます。また株主の構成比率からいえば、外国人投資家が54%が保有する花王は外資系の会社といえます。それでも多くの人々は日本の企業だと思い込んでいますよね。

そういう意味でも日本人の身のまわりはグローバリゼーション(Globalization)が進展してきました。こうした現実から目をそらすのではなく、向き合ってその経済の仕組みを理解していくことが社会人として大切になっています。そういう目で高校生のみなさんも将来を考え、自らの10年後の姿を描きながら将来のキャリア形成を考えてほしいですね。

神奈川大湘南ひらつかキャンパスの正門

学生自らで進出企業10社へアポ準備する海外研修

――つづいて田中教授の研究室のことについても教えていただこう。

わたしの研究室(ゼミナール)では、経営学の基本的な勉強と国際経営学を柱としています。いちばんの目玉は、ゼミ活動の一環として、海外進出企業への訪問を中心とした海外研修を毎年9月に10日間程度実施していることでしょう。これは国際経営を学ぶとき机上の勉強だけではいまひとつ実感がわいてこないので、3年次生を主体として海外研修に行きたい国や都市・企業を学生たち自身で決めていきます。いま24期生ですが、1期生から毎年実施している伝統行事になりました。

その年によって研修の行き先は違って、今年はインドネシアのジャカルタとシンガポールの2ヵ所に行き、合わせて10社ほどの海外進出企業を訪問する予定です。企業を訪問するときだけは団体行動をしますが、それ以外のスケジュールや滞在日数は、ゼミ生が自ら自由に決めていきます。すべて大人の行動として自己責任・自己負担が原則です。幸いこれまで事故など1件もないですね。

――なんと企業へのアポイントメントもすべて学生自らで原則としてやるのだという。

具体的には、きちんと会社四季報で調べて大代表に電話して海外事業部担当者に回してもらい、現地企業を訪問したい旨の希望を伝えます。とりあえず希望の日時やメンバーリスト・質問事項などをリストアップして提出してくださいなどと言ってもらえれば、もうこっちのものなのですが。それをまた現地企業の担当者に転送して、現地のスケジュールでもって受け入れ可能かの最終確認をもらうといったふうに手順を踏んでいきます。

じつはアポ取りってすごく大変なのです。何月何日に学生20名で工場見学をお願いしたいといっても、ふつう企業にはそういう対応をしている担当部署も時間もないわけです。日系進出企業とはいえ異国の学生は顧客ではないし、当然忙しい。だいたい5回挑戦して1回OKだったら運が良いほうです。つまりは10社訪問するとなると50社くらいとの交渉になります。

訪問企業の業種なども基本的に学生たちが人気投票をして書き出して、だいたい上から消えていきます。比較的ヒット率が高いのは食品関係です。これまでヤクルトやキッコーマンなどが受け入れてくれました。なぜかというと学生相手でも基本的にお客さんだと思ってくれるのです。そこで工場見学のルートなどが出来ていたり、工場見学の後に工場長さんから進出経緯の説明や質疑応答にも対応していただいたりします。

一方で自動車関係は学生相手だと一般的にガードが堅いようです。当然のことながら写真撮影NGとか。過去には日産やホンダには行きました。これまで何故か「世界のトヨタ」にはご縁がなかったですね。

いまも訪問企業のアポ取りの真っ最中で、6月~7月から2ヵ月ぐらいかけてスケジュールづくりをして、実際に海外研修に出かけるのは9月です。とにかく8月の第1週までにはスケジュールを確定する。企業にお願いをするときも早ければ早いほどいいだろうということで。ただしあまり早く連絡し過ぎても、そんな先のことは分からないというケースもあるんです(笑い)

――インタビューの最後に学生たちへの指導方針についてこう語ってくれた。

わたしには講義の最初と最後で必ず言うことがあります。この講義で何か会得してほしいことがあるとしたら、それは異文化コミュニケーションとは何たるかである――その一語に尽きます。わたしなりに海外進出企業の経営戦略や人事戦略・国際財務など国際経営論の各論について述べてはいきますが、所詮こういう理論は数年経ったらもう陳腐化して古くなる。それでも若き日に自分なりに感じて考えついた異文化コミュニケーション(Cross-cultural Communication)への見方や感覚は今後もずっと生きていくだろうということです。

だからこそ人生でいちばん時間だけはある貴重な4年間を大切にして、自らの感覚でどんどん行動範囲を広げる努力を惜しまないでほしい。国内でも知らないところは積極的に訪ねてほしいのですが、これが海外となると時間をかけて行かざるを得ません。自ら直接見た感覚とテレビやインターネットなどで感じたものとが大きく違うことに気づくこと、それは一生モノの経験になるはずです。ただし自分の見たものが全てと思い込むことは慎むことも知ってほしいですが。

ここで異文化コミュニケーションを、国境を越えての国籍や人種・宗教が違う人とのやりとりに限る必要はありません。いちばん身近な異文化コミュニケーションの対象は実は家族なのかもしれません。たとえば両親や祖父母、それぞれ食べたいものや観たいテレビ映画・聴きたい音楽などは全部違うはず。みなさんが「西野カナ」や「ももいろクローバーZ」が好きだとしても、お父さんお母さんは「サザンオールスターズ」が好きだとか、おじいちゃんは「美空ひばり」が好きだとか様々にあるはず。

ここで「美空ひばりなんて」などと全面否定したら、そこで話は終わってしまう。だったらどうしようと逆にそれぞれが歩み寄ることで互いの距離を縮めていくことが可能になる。同じように、どうしたら自分以外の世界中すべて人々と歩み寄って生きていくかを考えることです。

こんな学生に来てほしい

わたしが好きなのは「なんでも見て体験してみよう」という知的好奇心あふれるエネルギー旺盛な人です。エネルギーさえあれば、自らの好奇心を武器につねにアンテナを張って、自分なりにピント感度を得たところに一気に関心を持っていけるはずです。逆に困るのは、エネルギーがない人ですね。なにを語りかけても反応がないとかね。それでも4年間でひとかどの市民・社会人に育てて大学から送り出すのが教育機関としての責務と自覚しているつもりです。卒業した人たちが企業や社会において活躍していく。それがまた大学や教員の評価を高めていく。いちばん道のりとしては遠いように見えるけれど、これこそが正攻法で近道なのですね。そのような有為な人材をぜひ送り出したいと日々思っています。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。