早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東京大学
大学院 農学生命科学研究科生物・環境工学専攻

三中 信宏 教授

みなか・のぶひろ
京都市生まれ。80年東京大学農学部農業生物学科卒。85年同大学院農学系研究科博士課程修了、農学博士。89年農林水産省農業環境技術研究所研究員。90年同主任研究官。2004年独立行政法人農業環境技術研究所地球環境部生態システム研究グループ研究リーダー。06年東京大学農学生命科学研究科生物・環境工学専攻エコロジカル・セイフティー学講座生態系計測学研究室教授(連携大学院兼任)。07年東京農業大学大学院農学専攻客員教授。08~10年京都大学理学研究科連携併任教授(進化生物学)。 

おもな著書には『生物系統学』(東京大学出版会)『系統樹思考の世界 すべてはツリーとともに』(講談社現代新書)『分類思考の世界 なぜヒトは万物を「種」に分けるのか』(講談社現代新書)などがある。 

三中教授が主宰するURLのアドレスはコチラ↓ 
http://cse.niaes.affrc.go.jp/minaka/ 

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つくば市内の環境技術研究所正門
真夏の環境技術研究所周辺点描

生物学の新地平に迫る生態系計測学

――今週は東京大学大学院農学生命科学研究科の三中信宏教授にご登壇ねがう。上席研究員を兼任する独立行政法人農業環境技術研究所に先生をお訪ねした。

茨城県つくば市にある農業環境技術研究所は農林水産省の研究機関でして、教育機関ではありません。ただ研究している分野そのものは東大農学部でも同じようにやっているものも多い。そこで今から10年くらい前に、ここの研究所がもつ実験圃場などの農業施設を活用して東大の大学院生を受け入れることにより、教育研究としても活用してもらうこととなりました。

文京区本郷の弥生校舎にある東大農学部の圃場はあまり広くありません。そこで東大農学部の院生に実験圃場を使っていただいて修士論文や博士論文をまとめてもらうという趣旨で、連携講座「エコロジカル・セイフティー学」が開設されました。さらには本来、学生さんは受け入れられない農水省研究機関という限界を超えて、東大と提携することで双方にプラスになるような人の流れを作ろうという趣旨もあります。

わたし自身は東大農学部内に「生態系計測学研究室」を持たせていただいて、おもにデータ解析を中心とした研究をしています。要するにここ農水省研究機関でやっている研究内容をそのまま東大農学部に持ち込む形になっているわけです。ほかの農学系研究室はデータそのものを集めますが、わたしは集められてきた膨大なデータの分析・解析を担当するという分業での研究ということにもなります。

いま連携講座を構築している東大農学部生物・環境工学専攻は、もともと農業機械や農業土木など農地に関わるいろいろな工学的研究をしているところです。一方で農業環境技術研究所のキーワードは「農業環境」で、そこらに何とか接点をつけながら連携して研究をしていこうというわけです。

真夏の環境技術研究所周辺点描
東京大学弥生キャンパスの正門

農生物学分野で重要性を増すデータ解析研究

――ところで三中教授の研究分野については……

この研究所では、農業関連の基礎となる分野のうち統計学やデータ分析による研究をしています。農作物や病害虫のデータに関して具体的にどうこう研究するのではなく、すでに集まっているデータの分析の仕方や、どんな新しい方法で統計解析すればデータがもっと生きるのかといった研究が中心となります。

実際には研究所内やつくば近隣の研究所の方々と共同作業するのが日常的となります。じつは生物学や農業系の研究者において統計学を勉強している人が少ないのです。数学の理論知識として統計を学んできた人はいるのですが、実際の農業現場のフィールドから集まってきたデータをちゃんと扱えるような経歴を持った人が意外に少ないのです。

最近は農学部門でも遺伝子情報の活用が盛んになっています。ただ有用な1次データを取ってくる人はたくさんいるのに、集まったデータをどうやって活用するのかについて研究する人は少ない。そこでいろいろな農業系研究機関を訪問してデータ解析の仕方について教えるという仕事が最近増えています。農学系の研究所でこんな研究をしている人は少ないこともあり、そういう意味ではニーズがありますね。

――農学分野でのデータ解析における具体的な使い方というのは……

たとえば典型的な農学の例だと、新しい作物の品種をつくって今までの品種に比べて良い果実ができたとします。それが今までの品種と比べてどれぐらい良いのか悪いのかは具体的なデータをとって判定しないといけません。その場合どれくらい大きくなったとか、どのくらい糖度が高くなったかなどの比較を定量的にするのですが、そのときに統計学が必要となってきます。

数字的な裏付けがあって初めて、これくらいであれば意味のある比較になりますよということが言えるわけです。直感的には前の品種に比べて新しいものは違うように見えますが、本当に優れているといって良いのかを判定するのが我々の取り組むデータ解析の大事なひとつの役目でもあります。

扱う農産物や生物のデータには実にいろいろなものがあります。従来どおり形や品質について計ることもありますが、最近はDNAレベルの遺伝子情報の差異をダイレクトに調べるという新たな手法も求められてきました。そうなると扱うデータそのものがその質・量ともにどんどん変わっていくので、その解析のやり方もどんどん変える必要が出てくることにもなるわけです。

伝統を誇る東大農学部3号館入り口

大学連携講座「エコロジカル・セイフティー学」

――三中教授にはもうひとつ重要な研究テーマがあるという。

生物の分類や系統についても関心があります。これまで生物分類については、その生物の形態や内部の構造データを使って分類されてきました。ところが最近は、DNAデータを駆使して生物分類をしたり生物進化をたどったりすることが主流となってきました。そうなると、どんなやり方ならきちんとした分類ができ、整然とした進化の道筋がわかるのか等々といった問題がいくつも浮上してきます。

地球上にはたくさんの生物がいます。生物の名前をつけるのは今も昔も分類学者の仕事となりますが、生物界全体として分類や系統をどういう基準でみるべきなのかということは今の科学者は意外にやっていません。これは理系の研究というより、文系的デザイナー的な観点が必要にもなってきます。

調べるべき研究対象とそのデータがたくさん存在するというだけでは、生物界全体の構造や系統は見えてきません。データが多すぎるときは、むしろ絵に描くなど可視化によって全体を理解できます。では、どういうふうに可視化・見える化すれば大量のデータがより良くわかりやすくなるだろうか――そういうことを試行錯誤していく。そのへんの根本的なことは今まで誰もやっていないので、ここ数年わたしは取り組んでおります。

――大学の講義では実際どのようなことを教えられるのだろうか?

わたしの場合は、実例を出しながら統計学の基本的な使い方や統計モデルの立て方をレクチャーするのがほとんどですね。もうひとつは大半の院生はすでに修士論文や博士論文に向けて研究を進めていますので、個別のカウンセリングに対応することになります。

要するに「ここまで進んでいて、こういうデータが出たんだけれども、どういうふうに進めてまとめていけば良いでしょうか」というマンツーマンの相談に応じるわけです。とくに大学院になりますと各自が研究テーマを持っていますから、一人ひとり違ってくるわけです。

――最後に大学内での生態系計測学研究室のことについては……

ここでの集中講義「エコロジカル・セイフティー学特論」については年に1回、2年で1サイクルになっています。これは大学院修士の学生を前提にしているので、1年ずつやればどの学年も必ず1回は取ることになります。もともと生物・環境工学専攻そのものがそんなに大人数の規模ではありませんので、修士課程で10数名、博士課程になるともっと少ないのです。ですので何年かに一回学生が来るか来ないかという感じなんですよ。

こんな学生に来てほしい

自らを文系だとか理系だとか縛ってしまわないような人が望ましいですね。高校までの学業成績や好き嫌いだけで「わたしは文系(理系)」などと安易に分けてしまいがちで、結果的に自分で自らを縛ってしまうことがよくあるんですね。そうじゃなくて、実はそんな壁は科学・学問のなかに最初から存在しないんだというふうに考えるほうが実りがあろうかと思います。
たとえば経済学はふつう文系とされます。しかし「文系だから数学はいらない」などと決め込んで経済学部に進んでしまうと、後からものすごく苦労することになりますよ。むしろそういう先入観に縛られない考え方をする学生に来てほしいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。