早稲田塾
GOOD PROFESSOR

千葉大学
普遍教育センター(文学部史学科)

上村 清雄 教授

うえむら・きよお
1952年兵庫県生まれ。78年東京芸術大学大学院美術研究科修士課程西洋美術史専攻修了。86年イタリア共和国シエナ大学考古学および美術史研究科修了。群馬県立近代美術館学芸員をへて、2002年より千葉大学文学部助教授。准教授をへて、11年より同文学部教授、13年より現職。

おもな著書には『ラファエッロとジュリオ・ロマーノ』(2008年、ありな書房)などがある。

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上村研究室のある総合校舎A号館
千葉大西千葉キャンパス正門

イタリア美術史の魅力を探る

――今週は千葉大学文学部史学科の上村清雄教授にご登壇ねがうこととなった。まずは学部・学科のことからお伺いしていこう。

日本史・東洋史・西洋史という歴史学の基本的な3研究領域を対象に文献資料を中心に学ぶ授業、そして「モノ」を扱う考古学関係の授業、「イメージ」を主体とする美術史関係の授業、それら全体によって歴史について幅広く学ぶ。これが千葉大学史学科の特徴でしょう。その中でわたしは「イメージ」による歴史研究をおこなうグループに属します。

本学史学科において美術史専攻に進む学生は、学年によって違いますが、例年5人ほどです。多いときには7〜8人のときもあるし、数人のときもあります。また分野として、ヨーロッパ美術史が多い、あるいは日本美術史が目立つ、性差によるイメージ表現の特色を学ぶジェンダー研究が際立つなど、年度によって様々ですね。


――千葉大学史学科における上村教授の講義内容については……

本学の授業は「普遍教育」と「専門教育」から構成されています。「普遍教育」のなかには、必ず1年生が履修しないといけない「教養コア」という授業があります。たとえば人文系の学部学生なら、理系の科目も学んで総合的な視野を養うことを目的とした授業です。ただしこの授業はクラスによって指定があるので、全学部の学生が必ずしもすべての授業を受けられるわけではありませんが。

わたしは「教養コア」で「イメージの歴史」という科目を学部1年生の前期授業として担当しています。オムニバス形式で3人の教員、すなわち、「ヨーロッパ美術」をわたしが、同僚の先生が「日本美術」を、さらに教育学部の先生が「現代美術」を、それぞれ分担してイメージの多様な仕組みと歴史について紹介しています。

「普遍教育」ではさらに「教養展開科目」という授業もあります。これも1年生から受けることができ、わたしは「西洋美術史」を後期に担当しています。絵画作品を中心とする「西洋美術史A」と彫刻作品を主体とする「西洋美術史B」とを、それぞれ隔年で開講しています。このほか「普遍教育」における初習の外国語科目としてイタリア語も教えています。

夏の千葉大西千葉キャンパス点描

美術館好きでない美術史専攻の学生なんて

――さらに2年次以降における上村教授の講義内容については……

「専門教育」では、1年生から履修できる科目として前期開講の「図像情報史学概説B」があります。イメージ史料にはどのような特徴があり、歴史研究にどのような役割を果たすのかという問題意識のもとに、ヨーロッパ美術を中心に講義をしています。2年次以降の授業でお薦めしたいのは、同じく前期におこなっている美術史演習ですね。日本美術史を専攻する同僚の教員といっしょに金曜日の午後、2コマ連続で担当しています。

なぜこの授業を開講したのか、まずその経緯を説明しましょう。千葉大学に赴任したばかりころ、美術史専攻の学生なのにあまりにも美術館を訪ねていない事実に驚きました。これは授業で強制的に連れて行くしかないなと考えたわけです。最初の年度は、1回講義をおこない、2回目の授業を金曜日の夜間開館を利用して美術館見学に充てました。そのつど展覧会レポートを課しましたので学生は苦労したようです。

現在は2回目の講義の後に見学授業を実施しています。美術展を企画した学芸員の話を聞くなど積極的に展覧会を学ぶ工夫をしているつもりです。また最後に自分たちが構想した展覧会案を提出してもらうなど主体的に展覧会をとらえることも目指しました。この試みは現在でもおこなっています。後期は、わたしが単独で1コマを担当しており、美術館の見学授業と展覧会案を考える課題は同様に実施しています。

いまの学生は本やWebなどで美術作品などのイメージを見知って満足するところがあるようですね。ぜひ美術がもつオリジナルの力を感じてほしい。油絵でもマティエール(matiere)、すなわち絵の具などの素材がどのように盛りあがっているのかを実感する、あるいは小さい点で描かれているものを離れて見ると全体でくっきりとしたイメージが見えるとか、そういう体験ができるのは「本物」すなわち「オリジナル」作品からだけなのです。

そのほか「専門教育」でわたしが通年で担当しているのは「図像解釈学」です。講義の名称となっている図像解釈学(イコノロジー、英iconology)とは、20世紀の美術史学において特定の図像を、それらを生み出した社会や文化全体と関連づけて解釈するために発展した研究手法を指します。つまり美術作品を成り立たせている様々な文脈(コンテクスト)を明らかにしようとする研究方法ですね。おもに1年生で受講する「図像情報史学概説B」によってイメージ史料を研究する基本的な知識と技術を身につけてから、学年が進んで「図像解釈学」や「図像解釈学演習」へと進むカリキュラムとなっています。

――あらためて上村教授の専門分野については……

わたしの専門は、彫刻を中心としたイタリア美術史です。そう言うと「古代ローマの彫刻ですか?」と聞かれるかもしれませんが、15世紀以降のイタリア彫刻が専門分野となります。

なぜわたしが大学生時代に彫刻に関心をもったのか。15世紀のイタリア・ルネサンス初期の彫刻家ドナテッロ(Donatello)の存在がやはり大きかった。この彫刻家の研究を通してイタリア彫刻の奥深さに魅了されました。大学院を卒業した後はイタリア・シエナ大学へ留学して彫刻史について本格的に学びました。そこで、ドナテッロの影響を受けて15世紀後半のシエナで画家としても彫刻家としても活躍したネロッチョ(Neroccio)の、彫刻家としての活動をあとづける研究を修士論文にまとめました。

そのあと日本に戻って群馬県立近代美術館に学芸員として勤めました。15年間在職しましたが、ここでイタリアやヨーロッパの美術展、あるいはアフリカ彫刻展などを企画担当する貴重な体験に恵まれました。大変ありがたかったなと今でも感謝しています。

――15世紀から現代までのイタリア彫刻にはどんな潮流があったかレクチャーをお願いすると……

15世紀ルネサンス初期にフィレンツェなど強大な都市国家を担ったのは上層の市民たちでした。市民たちは海に乗り出し正確に航路を測定し、そして世界を明晰にとらえようと努めました。すべての空間がひとつの消失点に結ばれる世界像を科学的に再現する遠近法など、市民階級は等しく共有できる強靱なイメージを求めました。それが15世紀末から宮廷中心の社会に移るにつれて、洗練された人工的な美を求める趣向へと変わります。その後は都市ローマを中心とした教皇庁の財力を背景に劇的なバロック文化が展開していきます。

このように、芸術の潮流は、その時点での政治そして経済の動向と密接な関連をもっています。18世紀になるとイタリアは国力をなくし、政治や経済と同じく、美術の世界もフランスやイギリス・アメリカへと舞台の中心は移っていきます。

ただイタリアの魅力は、20世紀初頭に登場した「未来派」に代表されるような、新しい革新的な動きを常に示すことです。そういう意味では今でもイタリアは現代美術に貢献しつづけています。伝統的な国であるけれども、いやそれだからこそ、新たな斬新な流れが生まれてくるとも言えるのではないでしょうか。

夏の千葉大西千葉キャンパス点描

美術鑑賞における一生モノのリテラシー

――ここで図像解釈学演習におけるゼミ演習の内容について伺ってみることとした。

ヨーロッパ美術史を図像解釈学の立場から学ぶときには約束事があります。それは神という存在をどう描くのかとか、イエス=キリストはどう描くのかとか、そういう基本的なことですね。このようなキリスト教美術の原則となる知識を前期は『旧約聖書』、後期は『新約聖書』を主題とする美術作品の検討から学びます。

キリスト教においては、旧約聖書に書かれていることは新約聖書に成就する、逆に新約聖書に書かれていることは旧約聖書でもあらかじめ示されている——といった関係が両書にはあります。そこで前期では旧約聖書を主題とする美術作品の図像を具体的に調べて発表してもらう。それを踏まえて、後期には主題を新約聖書に求めた作品について、旧約聖書との関係を考えながら報告してもらいます。

昨年度後期は、ミケランジェロ(伊Michelangelo di Lodovico Buonarroti Simoni)が描いた有名なシスティーナ礼拝堂の天井画に注目して、ミケランジェロが伝統的な表現から何を学び、また彼の独創性はどこにあるのか各自に発表してもらいました。90分授業でだいたい2人が発表します。各発表後に参加者でコメントを出し合っていきます。

具体的には、天井画の各場面にどのような主題が描かれているか、ミケランジェロが参考にした過去の作品は何なのか、ミケランジェロはどういう点が新しいのか——こうしたことを論点に、彼の表現の独自性を検討していきます。この演習によって、美術作品を見るポイントや歴史の流れのなかに美術作品を位置づけることの大切さを学んでほしいと考えております。

こんな学生に来てほしい

かっこ良くいえば知的好奇心がある人。単なる好奇心だけでなく、知的な好奇心ですね。イメージって目に見えるから「一見」わかるような気がします。しかしながら、じつは正確に物事を見るには感覚を磨く必要があるし、訓練も必要です。もちろん思考することも。

最初は課題となる美術作品を見せても大づかみでしか捉えられなかった学生が、センスを身につけるというのでしょうか、向学心を発揮してだんだんと対象を広くそして細かく見るようになっていきます。そのためには最初の導きって必要ですよね。それに応えるにも知的な好奇心は不可欠です。「これ何だろう? なぜだろう」このように考える学生をわたしは歓迎しています。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。