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GOOD PROFESSOR

学習院大学
文学部 哲学科

島尾 教 教授

しまお・あらた
1953年東京生まれ。東京大学大学院修士課程修了。独立行政法人東京文化財研究所美術部広領域研究室長・多摩美術大学教授をへて、2012年より学習院大学教授。主な著書に『日本の美術・能阿弥から狩野派へ』(至文堂)『絵は語る(5)瓢鮎図』(平凡社)『アートセレクション・雪舟の「山水長巻」風景絵巻の中で遊ぼう』(小学館)『日本美術館』(共著・小学館)『日本美術全集(9)水墨画とやまと絵』(編・共著・小学館)などがある。

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島尾研究室がある学習院大「北2号館」
都心のなか緑が映える学習院大学正門

「雪舟愛」みなぎる中世絵画史研究

――今週紹介するのは、中世絵画史研究でつとに知られる学習院大学文学部哲学科の島尾教教授だ。まずは哲学科および同美術史専攻のことからお聞きしていこう。

本学の哲学科では1年次から専門分野に触れることができます。ここでは美術史系と哲学系があって2年次で進路を決めるのですが、1年次から美術史の基礎演習も受けられるのは特長といえるでしょう。その後も、哲学と完全に分かれるわけではないので、美術の背後にある思想もいっしょに学べるのが特筆ものです。

そもそも美術史(Art history)というのは比較的新しい学問です。美術についての語りは、そのときどきにおける美術のありようと連動しています。たとえばキリスト教美術や仏教美術のような宗教美術しかなかったら、きっと今のような美術史は生まれませんよね。

たとえば中国では唐の時代から『歴代名画記』のような絵画史が書かれ、ルネサンス期にはヴァザーリ(Giorgio Vasari)が著した『芸術家列伝』があります。また日本でも『等伯画説』(長谷川等伯 談・日通上人 聞著)や『本朝画史』(狩野永納 著)がありますが、それらも書かれた時代における美術の世界を反映しています。

その意味でいうと、近代の美術史学とは、美術が様々なものを自由に表現できる時代になってようやく出てきたとも言えます。「学」として構築され、制度的に研究され講じられるようになったのは19世紀になってからです。日本の大学では美学に併設されて始まったところも多いですね。

水墨画作品でいっぱいの研究室室前

歴史的・雑学的な知識が欠かせない

――ところで島尾教授の専門はといえば、もちろん「日本中世絵画史研究」ということになる。

室町時代の日本中世絵画史をやってきまして、細かく言うと室町時代の「漢画派」です。わかりやすく言えば「水墨画」ですね。室町時代の漢画美術を研究対象とする作家論研究において、とくに雪舟(1420〜1506年ごろ)について研究を続けてきました。

じつは雪舟という画家は意外なほどに多様な作品を描いています。すごく個性が強いので絵を見るだけで雪舟とすぐにわかるほどなのですが、ただ非常にタイプが豊富なのです。山水画も人物画も花鳥画も描くし、同じ山水画であっても描き方もいろいろと違う。色つきの花鳥画も純粋な水墨画もたくさん描いています。

「室町時代の絵画=水墨画」などと学校で習ったかもしれませんが、それは半分正しいとも半分ウソとも言えるのですね。室町時代には平安由来の「大和絵」や、漆器に金銀で描く文字どおり金ピカな「蒔絵」もちゃんとあります。日本文化の基本として「それまでの文化を捨てない」という面があります。過去の流れが完全に捨て去られることは少ない。

だから美術の種類は増える一方で減りはしない。そのなかで変化しながら、テクニックが上がっていくものもあります。水墨画というとみんな墨だけだと思いがちですが、じつは色がついている作品もたくさんあります。また、プロの画家には水墨だけでなく派手に色のついた絵も描く人がたくさんいました。コテコテもシンプルも両方できるというわけですね。

――ここで島尾教授なりの雪舟への愛がみなぎるお話の数々となっていく。

雪舟の生きた時代というのは、ちょうど室町前期から応仁の乱をへて戦国時代へと移っていく激動期でした。こんな時代にあっても雪舟はアトリエに閉じこもるような人ではありません。山口地方の大内氏の庇護を受けつつも、そこから国内外いろいろなところへ出かけていきます。よく「漂泊の絵師」と言われますが、むしろ「公務出張」だったようですね。

「遣明使」に付いていって中国で描いた絵もあります、そのひとつが残っていて、地方の支配者のハンコも押されている。こうして雪舟は国内外のさまざまな階層の人と出会っているし、社寺やお坊さんとの付き合いもある。そういう社会関係のなかで絵を描いているものだから、雪舟の絵画を通じて当時における社会のありようが見えてくることも多いのです。

そうしたことを含めて美術史研究には雑学的なところが多分にあります。たとえば雪舟の研究をやろうと思ったら、まず彼は禅僧でもあるので、仏教史を知らねばならない。そして山口で暮らしていたので、そこの地方史を調べなくては始まらない。大内氏の館や城も発掘されているので、考古学の知識も求められる。遣明使にも随行したので、当時の日中交渉史や中国地方史も調べる。研究する側にとっては、あちこち行かれると大変なのですが(笑い)。でも「調査だ」といって旅行ができますので、楽しいこともたくさんあります。

当日はちょうどオープンキャンパス中

基本のディスクリプション力を磨き上げる

――あらためて学習院大学哲学科美術史専攻での講義内容については……

哲学科では1年次の基礎演習に続いて、2年次になると2年次演習があり、3〜4年次になると卒論作成のための発表中心のゼミになります。わたしが担当している2年次演習では、基礎的な研究手法や論文の調べ方について、が中心となります。とくに美術史研究の基本となる「ディスクリプション」(description)という、絵や作品を見て語ることに力を入れて教えています。

基本的にわたしが持ち込んできた作品材料を渡して、なかば強制的にしゃべってもらう。なかなか学生には難しそうにみえますけれど、結構みんな出来ちゃう。「くわしく内容を調べ上げて…」ではなくて、とにかく何でも良いからしゃべり合っていく。そこから始めて、最後のほうは各自好きな作品についてきちんと発表してもらいます。

いまや発表のときにプレゼンテーションソフト(MSパワーポイント)は必須になるので、その画像の取り込み・加工の仕方や参考文献の載せ方なども教えないといけません。視覚的に見たものを自らの分析を交えて説得力をもって語ることは、社会に出てからも様々な場面で使える基本リテラシーと考えますので、実学的なところを含めて教えているつもりです。

――最後に3〜4年次のゼミ演習のことについてお伺いしてみた。

3~4年になると、卒業論文を作り上げるための指導が中心となります。ただし、それとは別に、前期では卒論のための中間発表をやりつつ、カタログの制作をしてもらうようにしています。各自好きな美術作品を持ってきて、各4ページくらいで説明図版をはめ込んで解説を書いていく。画像の取り込みやディスクリプションは2年次演習で習うので、そこでやった基礎を発展させた応用ともなるわけです。

図録の大きさなども自由にレイアウトして、好きなようにキャプション説明を入れていくという試みです。たとえ十分な完成度までは出来ないとしても、少し長めの文字(1600字くらい)によりディスクリプションの枠を超えて、少し本格的に分析し表現する体験をしてもらいます。これは夏休みの課題としてやってもらって、後期のゼミのなかで批評し合うことになります。

こんな学生に来てほしい

まずは「見たもの」について自分なりに語るのが好きな人、そして興味が広がっていくような人がいいですね。美術史というのは、雑学的な部分を含めいろいろなことを知らないといけません。ですから出来るだけ幅広い知的な興味を持ちつづけて、世のいろいろなものへの好奇心を維持することが非常に大事なのです。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。