早稲田塾
GOOD PROFESSOR

専修大学
ネットワーク情報学部

上平 崇仁 教授

かみひら・たかひと
1972年鹿児島県阿久根市生まれ。1997年筑波大学大学院芸術研究科デザイン専攻修了。グラフィックデザイナー・東京工芸大学芸術学部助手を経て、2004年専修大学赴任。2012年より現職。コミュニケーションデザイン研究室を主宰。このほか産業技術大学院大学 人間中心デザインプログラム非常勤講師、人間中心設計推進機構 評議委員・同認定専門家、経産省インフォグラフィックス事業「ツタグラ」アドバイザリーボードなど兼務。おもに情報デザインに関する教育・研究に従事。近年は、社会におけるコミュニケーションの道具としてのインフォグラフィックス/ビジュアルシンキングの方法論や、対話を通して人々が創造的に問題解決していく社会に向けた参加型デザインの仕組みづくりについて取り組む。

著書には『情報デザインの教室 』『情報デザインのワークショップ』(どちらも情報デザインフォーラムとの共著/丸善出版)などがある。

上平教授のブログ「kamihira_log」のURLアドレスはコチラ
http://blog.kmhr-lab.com/

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専修大学生田キャンパス正門
ネットワーク情報学部の学びの概念図。
「ビジネス」「技術」「人」の3つをベースとする

人々が主体的に実践するためのデザイン研究

――今回紹介するのは、専修大学ネットワーク情報学部の上平崇仁教授。まずは、耳慣れない学部名である「ネットワーク情報学」のことから教えていただこう。

ネットワーク情報学部は、文系学部中心の専修大学のなかでは独特な学部といえるでしょう。もともとは15年ほど前まで経営学部の中にあった情報管理学科が前身です。そのころまでは情報処理を経営分析に役立てたりする情報管理産業への人材養成が中心でした。

ところが21世紀になったころにはインターネットや携帯端末の普及なども含めて、情報通信技術(Information & Communication Technology、略ICT)が急速に進化し、コンピュータはそれまでの計算機から大きく展開していくことになります。

ご存じのようにコミュニケーションの道具になり、街の中での移動をサポートする道具になり、そしてさらに人々の創造性を刺激するモノづくりのツールにもなっていったわけです。そういった急激な変化が社会のなかに起こった結果、それまで存在しなかった問題があちこちに生じることになります。そのような時代の要請から、現在のネットワーク情報学部への改組がなされました。

情報通信技術は、物事を便利にするだけでなく、人やコンピュータの距離を飛躍的に縮めます。人間もコンピュータも単独で動作するのではなく、周辺とのつながりを生かしてパフォーマンスを向上させ、さまざまな問題解決に取り組めるようになります。このつながりがネットワークなのです。

つまりネットワーク情報学とは、さまざまなコンピュータや周辺機器を接続させること、データや知識を接続させること、人と人を接続させること等々、個別の状態ではできないけれども「つながり」によって生まれる新しいパワーを活用して、未来の社会を少しでも良いものにしていくことを模索する諸学問と言えましょう。

情報通信に関する技術や知識は確かにわれわれの学部の基盤ではありますが、いまの社会には技術だけでは解決できない複雑なことばかりが存在します。たとえば「メーカーが勝手にいろいろな機能が満載された機械をつくっても、実際に使う人は誰も求めていなかったりする」こと。家電量販店に行けば、そういう風景をよく見ることができますね。

本当に優れた製品やサービスを実現するためには、「使う人の気持ちを理解すること」も「収益を上げられるビジネスの視点を理解すること」も不可欠です。それぞれの専門の境界線を越えて議論し、複数の視点から本当に必要なものの基本的な考え方について学べる学部ととらえてもらえればと思います。

――専修大学ネットワーク情報学部の特色としては……

まず一般的な専攻・コースと違って多様なプログラムごとの関わり合いがあることです。ネットワーク情報学部には「メディアプロデュース」「コンテンツデザイン」「社会情報」「フィジカルコンピューティング」「情報数理」「ネットワークシステム」「ITビジネス」「経営情報分析」——という8つのブログラムが用意されています。

それらの各プログラムにおける学びが「授業での演習を通じてそれぞれのプログラムの専門性を高める」縦軸だとしたら、横軸は、ほかの分野と交わりながら、不足している視点を学ぶということになります。縦軸と横軸をカリキュラムのなかで「融合させる」工夫もしています。

たとえば学生の発案からスタートして複数プログラムから人材を集めたチームを結成して、1年間をかけて進める3年生必修の演習の「プロジェクト」もその一つです。わたしがサポートしているチームが現在つくっているのは、災害時の利用を想定した「近距離コミュニケーションツール」です。

実際に東北の被災地を訪問し、自分の足を使って震災時に起こった問題を丁寧に収集したり、日常生活のなかでの他人とのかかわりを分析したりしながら、避難所のような場所において、近くに存在している他人とどういった形で情報を共有し協力し合えるか、それはどんなツールになるのか、そういったことを議論しています。これからプログラムを書いて、アプリとして使えるようにする予定です。こういった成果物を生み出すためには、調査やデザイン・実装など様々な視点が必要になりますが、学生たちのコラボレーションによって効果的に実現できています。

――そうした異なる専門的技術を融合させる授業をする理由はどんなところにあるのだろうか。

スマートフォンのアプリやウェブサービスはどんどん高度になり、いまや一人の技術者やデザイナーだけで作成できるようなものではなくなってきています。多くの人間は決してスーパーマンではないのですから、個人個人のもつスキルやアイデアなどのかかわり合いによる相乗効果を生かしながら、いかに組織的に協力して進められるかが重要になって来るのではないでしょうか。もちろん中途半端なかかわり方では責任感も持てませんので、きちんと自分の役割を持つのは前提となります。

そして、先のプロジェクトで取り組んでいるような事例でいえば、教員でも、IT企業の専門家の方々でも、実際につくってみないことには、何が「正しい答え」と言えるのか本当のところは誰もわからないわけです。だからこそ教育の場では、何度も議論してあるべき理想に近づけるために作り直すか、そして専門家や想定した人々の評価を取り入れて検証するかが重要になります。

ほかの工学部や美術大学などの伝統校は、専門分野には強いと思いますが、組織が縦割りになればなるほど新しい潮流に適応していくのが難しい場合もあります。我々の学部は、異分野のかかわり合いによって相乗効果を生むために組織を柔軟にすることを意識しています。

「何に対して存在するデザインなのか」を探る
レッスンで例として使用する上平教授所有のカップ
「カードソーティングゲーム」に取り組む学生

情報デザインに必要なのは新たな価値発見

――このほかネットワーク情報学部ではどのような講義がなされているのだろうか。

ネットワーク情報学部の学びの概念図としては、大きく「ビジネス」「技術」「人」の3つがトライアングルのように結びつき重なり合っています。かなり広いジャンルの講義や演習を開講していますので、学生たちは一日の時間割をつくる中でも、自分のつながりを生み出しながら選択することになります。

そして最近は若手の教員を中心に、学生を受け身にしないで、手や頭を動かしながら学んでいくような授業をすることが増えてきていますね。これだけ知識があふれている社会では、話を聞いたところで何かが身につくわけでもない。ですので、調べたり何かつくったり議論したりといった経験を伴いながら、主体的に学んでいくことをどの先生も意識していると思います。

とくにデザインに関しては、日常生活をよく見渡すことで学べることは多々あります。その教材は日常にあふれています。たとえば耳かきは、「耳を掻く」というひとつの簡単な機能しかありませんが、要るときには必ず要る道具ですよね。耳の穴の掃除をしたいタイミングで探し出して、コチョコチョと気持ちよく使うわけですが、ある状況のなかで人の行動とモノとがピタリと噛み合ってはじめて道具として成り立っているわけです。

これはスマートフォンのアプリにも同じようなところがあって、誰がどんなシーンのなかで取り出して使うのかを適切に設計する必要があります。それが成り立たない場合にはわざわざアプリを立ち上げて使うことはありません。そんな感じで、最新の情報技術も昔からある道具も共通のルールが潜んでいるのが面白いところです。

――そのためにデザイナーはどんなことをしているのだろう。

デザインするためには、目的を正しく見通す視点と、それに基づいて既存の要素を新しく組み替えるアイデアが重要です。そしてアイデアは、自由に考えるよりも制約があったほうが得られやすい。制約はヒントでもあるのです。

たとえば、ここに数種類のコップがあります。「いいデザインだと思うのはどれか?」などと聞かれれば難しいけれど、「父親へのプレゼントにするなら」「恋人に贈るなら」「キャンプで使うなら」など、目的を決めると次第にはっきりしてきます。つまり「何が良いデザインか?」に絶対的な答えがあるわけではなく、シーンによって決まるわけです。目的や使う場面をふくめて、頭のなかで常にいろいろな角度から想像することは欠かせませんね。

一般的に「デザイン」というとスタイリッシュな外観をつくることをイメージしがちですが、わたしたちが受け取る「情報」にはそもそもカタチはありません。情報をデザインするという場合には、適切な言葉を選ぶというようなことも大変クリエイティブな仕事になります。元の素材はまったく同じものだったとしても、並べ方だけで意味が生まれますし、目的に応じてラベルはさまざまに変化します。そうしたことを探っていくことで、人は何を求めて情報を探索するのかを考える勉強になりますね。

ただ言葉を考えるだけだと、なかなか学生たちも燃えにくいところもあるので、そのエクササイズを楽しく実施するために、情報設計の基本を学ぶための教材「カードソーティングゲーム」というものをデザインしてみました。50種類の犬のカードを並べ替えながら、魅力的な「犬カフェ」のコンセプトとそこでの選び方を考えるというものです。

犬といえば、私たちは「大きい」とか「白い」といった目に見える情報にとらわれがちですが、犬といっしょに楽しい時間を過ごすという視点で考えると、「いっしょに走る」とか「命令を聞いてくれる」など見えない犬の情報のほうが重要だったりする。そうしたことに注目することで、体験に着目した犬カフェの具体的なメニューが浮かび上がってきます。そのように考えていくことで、簡単な言葉選びにみえても、それは単なるラベルではなく、犬の何をどう選ぶかが、犬カフェが提供する体験価値そのものになる——ということに気づくことを願っています。

「インタラクションデザイン基礎演習」で
学生が編集した書籍(オンデマンドでの少部数出版)

一生モノの「デザイン・シンキング」力を

――そう語ってくれた上平教授は、大学での教育活動と並行して、フリーのデザイナーとしても活躍している。

元々わたしはグラフィックデザイナーで、いまでもデザインワークは教えることよりも好きなくらいです。学校を出た後しばらくデザイナーとして働いた後、機会をいただいて美術系の大学で情報デザインを教えていました。その後10数年ほど前から、「つくる人」と「使う人」を切り分けてしまう、従来ありがちだったデザインのあり方への疑問が大きくなり、もうすぐ多くの人たちが自ら創造的に問題解決することに取り組む時代になるだろう——という気配を感じていました。

そこで思い切って未開拓なフィールドを選ぼう、そこでデザインを必要とする人の力になろうと決めました。実社会のなかには、情報環境をはじめ、地域コミュニティー再生、一次産業の価値創出、障害のある人々との共生、異文化理解など、デザインが強く求められている問題が無数にあります。大学の研究室があることで、これらのフィールドに参加しやすいのは大きな利点だといえます。

――さらに上平教授の場合、机に張り付いて学ぶというよりも体験型の演習が多いようだ。

実際いろいろなところに出かけていくことが多いですね。プロジェクトでは必ずフィールドワークをしています。それ以外でも、たとえば近年は他大学と合同で北海道・神威岳で毎年合宿しています。これは他大学の同じ分野の研究室と卒業研究の内容を共有して議論することが主な目的であり、いわば他流試合になるわけです。

他流試合では他校の学生達との交流を通して、自分たちの態度や取り組みを客観的に捉えることができますね。どうしても学内だけだと刺激が足りませんので、自分たちの立ち位置を確認したりするためのイベントも大事だと考えています。とくに3〜4年生は積極的に外部に連れ出しますが、自分の限界を知らない彼らがどんどん機会を与えるごとに伸びていくのが面白いところです。

いまでこそ多くの教育機関でデザインの教育が行われるようになってきましたが、わたしの研究室では、比較的早くからデザインという「考え方」に着目して、それをさまざまな分野に応用していこうとすることに取り組んできたという自負があります。そんな変わった環境でデザインなど教えられるはずがない——などとよく言われましたが、研究室の卒業生たちはみんなデザインを自らの武器に変えていろいろな分野に広がっていってくれました。おかげさまで最近では良い人材を育てていると高く評価してくださる企業のみなさんも増えています。学生だけでなく、わたし自身にとってもデザインは一生続く挑戦ですので、今後も根気強く問い続けていきたいと思っています。

こんな学生に来てほしい

大学は、自らの可能性を深く検討する場でもあります。自分が何をしたいかは実際にやってみて初めてわかるもの。高校生の段階で「自分はこれに向いているはず」などと思い込んで選ぶ基準なんて、残念ながらほとんど当てになりません。当初はデザインなど全く関心がなくても、学んだ接点を生かして今の専門的な仕事に繋げている例は過去にたくさん見てきました。なので自分に才能があるかどうか躊躇する以前に、好奇心さえあれば十分です。

将来どんな仕事に就くにしても、デザインすることは必ずどこかで関わってきます。ネットワーク情報学は未だ開発途上のフィールドですが、あえてそこに挑みたいという学生を待っています。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。