早稲田塾
GOOD PROFESSOR

東京大学
大学院 理学系研究科 天文学専攻

戸谷 友則 教授

とたに・とものり
1971年愛知県生まれ。94年東京大学理学部物理学科卒。96年日本学術振興会特別研究員。98年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。99年文部省(現・文部科学省)国立天文台理論天文学研究系助手。2001年米プリンストン大学天文学教室客員研究員 (日本学術振興会海外特別研究員)。03年京都大学大学院理学研究科宇宙物理学専攻助教授(准教授)。13年より現職。 

著作には『新・天文学辞典』(共著、講談社ブルーバックス新書)などがある。

戸谷教授が主宰するURLのアドレスはコチラ↓
http://tac.astron.s.u-tokyo.ac.jp/~totani/

  • mixiチェック
戸谷研究室がある理学系研究科・理学部1号館
初秋の東京大学本郷キャンパス正門

すばる望遠鏡で探る宇宙物理の秘密

――今週は、気鋭の天文学者・宇宙物理学者にして、日本が世界に誇る「すばる望遠鏡」を活用して遠い銀河を観測する「ファストサウンド計画」(The Fast Sound Project)の責任者を務めることでも知られる東京大学大学院理学系研究科(学部担当は理学部天文学科)の戸谷友則教授の登場だ。まずは、天文学に興味のある中・高生向けにレクチャーをお願いした。

基本的に天文学(astronomy)とは、宇宙で起こっている現象を明らかにして理解することを指します。そして、我々が住む地球の進化などを探る地球物理学(geophysics)という学問分野もありますが、地球以外の太陽系外をふくめての物理現象や自然現象を明らかにしようとするのが天文学の目的となります。

――ここで「宇宙で起こっている現象を明らかにする」とはどのようなことを意味するのだろうか。

そもそも宇宙が誕生したときは全体にのっぺりとしていて、それが次第に密度が高まって重力で集まっていって、さらに引き寄せ合っていく。そこに星々が生まれ集まって銀河(galaxy)や、銀河団(galaxy cluster)になっていくんですね。
そのようにして我々の宇宙は現在の形へと進化してきました。そういった観測事実と物理法則とを駆使して、宇宙の進化やすべての現象について理解するということです。

――ご自身の研究テーマは「宇宙物理学」「天体物理学」ということだが……

いまや宇宙物理学あるいは天体物理学(英astrophysics)というのは、天文学とほとんど同じ意味で使われています。物理系の科学分野のなかで、その対象が宇宙の現象であるということですね。恒星や銀河など天体の物理的性質や天体間の相互作用などを研究対象とし、それらについて物理学的手法を用いて明らかにしていく学問ということになります。

――戸谷教授が教壇に立つ東京大学天文学科の特色として言えることは……

とにかく天文学・宇宙物理学をやっているその規模が大きいですね。多くの大学では天文学の先生が一人いるかいないかだと思いますけれど、ここは天文学の教授だけで4人もいます。そもそも天文学は物理学との境界が近年なくなってきているので、物理学科の所属で宇宙や天文についてやっている研究者は多くいます。
ここ東大では、理学部が誕生した当初から、物理とは別に天文学をやる講座がずっとあるわけです。

東大といえば赤門
初秋の東京大学本郷キャンパス点描

暗黒物質の発見、そして相対性理論の拡張も

――つづいて戸谷教授ご自身が学部のなかで教える講義内容については……

「天文地学概論」という、天文学を初めて学ぶ教養学部向けの授業を受け持っています。わたしを含め3人の教授がいて、それぞれ専門分野について解説しています。わたしが教えているのは「星の進化」「星がどうやって輝いているのか」「超新星爆発」「ガンマ線バースト(gamma‐ray burst)」などといった爆発現象に絡んだ分野について、それぞれどういう現象で何が面白いのかということを説明しております。

星の爆発現象については、基本的に太陽よりも8倍以上重たい恒星は超新星爆発を起こすといわれます。星全体がつぶれた時にものすごいエネルギーが解放されます。その中心にはブラックホール(black hole)や中性子星(neutron star)が残るのですが、それによって放出されたエネルギーが恒星の外側の部分を吹き飛ばしてしまいます。だいたい銀河系のなかで超新星爆発が起こるのは数十年に1回ぐらいとなります。

こうした星の爆発現象には、あらゆる元素(element)をつくり出すいわば「工場」という役割もあります。宇宙が誕生した直後は、水素とヘリウムしかありませんでした。われわれ生物の身体を形づくっている炭素や酸素・鉄といった重たい元素は、実はすべて星の中でこうして作られたものなのです。そういった宇宙における元素がどういう経緯をたどって生まれて進化してきたのかという解説もしています。

――宇宙物理学の分野のうち戸谷教授がおもに研究されていることは……

星の爆発現象に関連して、銀河の進化と形成や宇宙全体そのものの進化など「宇宙論」(cosmology)について研究を進めております。宇宙が140億年前にビッグバンで生まれて現在も膨張していることは、アメリカの天文学者・ハッブル(Edwin Powell Hubble)らが発見した「ハッブルの法則」として学校でも習ったと思います。こうして膨張しつづける中でどのように宇宙が進化してきたかをたどっていきます。

この「宇宙論」においては宇宙そのものについて考えていきます。なぜ宇宙は膨張しているのか――これについて理論的には偉大な理論物理学者・アインシュタイン(Albert Einstein)の一般相対性理論(general theory of relativity)によって記述説明できるので、それと観測的に宇宙が膨張していることとがきちんと合うかどうか。宇宙全体の運動について観測と理論をしっかり比較していきます。

さらには宇宙に存在している全ての物質構成がどうなっているのか――。じつは私たちが知っている水素やヘリウム・鉄など通常の元素は、すべて足し合わせても宇宙に存在している全物質のエネルギー密度のうちの5%ぐらいにしかなりません。残りの95%は未知の物質によって満たされている。この95%のうち約25%が暗黒物質(dark matter)だと予想されています。

このダークマターは、私たち人類がこれまで知り得た物質・元素などではありません。その正体すらわかっていないんですが、存在することは重力によって知られている。たぶん未知の素粒子(elementary particle)であろうと言われます。が、これを明らかにするのが今の宇宙論の最重要テーマです。

さらに残りの70%は、暗黒エネルギー(dark energy)といわれて宇宙の大半を満たすものとなります。宇宙の膨張の仕方は、アインシュタインの相対性理論によると膨張速度がだんだん緩やかになるはずとされていたのですが、最近になって精密に観測したところ膨張の早さは一定ではなく、むしろ加速膨張している状態にあるということが判明してきました。その理由の可能性として、暗黒エネルギーが宇宙に満ちているとすれば説明ができるんですね。

ただ論理的には、ひょっとしたら暗黒エネルギーの存在というよりも、そもそもアインシュタインの一般相対性理論が宇宙の実体と合わなくなってきていることを表している可能性もあり得ます。そもそも一般相対性理論は時間や空間・重力に関する理論なので、それを新たな理論へと拡張する必要がいま出てきている段階なのかも知れない。そういった新たな研究にもやっと手がつくようになってきました。

最高学府の英知を支え続けてきた東大本郷図書館
最寄り駅のひとつ地下鉄南北線「東大前駅」

世界の科学者が競い合う宇宙論研究の面白さ

――戸谷教授による最近の具体的な研究テーマについては……

ハワイ・マウナケア山の頂上付近にある「すばる望遠鏡」(Subaru Telescope)を使って、宇宙の加速膨張の起源に迫る研究をしています。宇宙が加速膨張していることの一つの仮説的な説明は暗黒エネルギーによるものですが、もう一つ、アインシュタインの一般相対性理論が、宇宙論的な大きさでは適応できないためなのかという可能性も残されます。その可能性を探るために、すばる望遠鏡を使って100億光年以上離れた銀河がなす3次元構造について探っています。
こうした調査をすることで宇宙の大規模構造(large‐scale structure of the universe)の姿と運動を測ることが出来てきます。そして、奥行き方向に銀河がどれくらいの速度で運動しているかがわかると、大規模構造が次第に形成されていくスピードまでもが見えてくるようになれば、大構造ができ上がるまでの重力理論を検証できることにもなり得ます。それらの観測結果と一般相対性理論による理論的予言と合えば問題はないのですが、もしかしたら相対性理論の予言と違ってくる可能性もある。そうしたねらいで世界中の天文学者・宇宙物理学者が研究を競い合っているわけです。

――そもそも宇宙論研究の面白さについては……

暗黒物質の発見は予想外の観測結果でしたが、近い将来にその正体が解明する可能性も大いにあります。地下実験で暗黒物質粒子をとらえるための実験が世界中でなされていますが、実験装置の性能がさらに上がれば、装置のなかでダークマターをとらえることも出来るかもしれません。

もうひとつ暗黒物質をとらえる方法として、ダークマター同士がぶつかって光へと変わるときにガンマ線という非常にエネルギーの高い光になることを狙うやり方もあります。とくに銀河系の中心付近は重力も集中して暗黒物質も多いので、そこでダークマターが消滅して光を出しているとすると、ガンマ線が多く見える可能性も大いにあり得ます。ですので天文的なガンマ線観測で暗黒物質が衝突・消滅している兆候をとらえようという研究も世界中でなされています。

こうして暗黒物質については理論的に有力な候補もあるので少し未来が見通せるのですが、一方の暗黒エネルギーや宇宙の加速膨張に関しては自然な説明や理論も乏しく、なんとか手探りでやっている状況なのです。これらの解決はまだ時間がかかるかもしれないですね。これまでの基礎理論だと宇宙の加速膨張など説明ができないので、どういう形で解決するかは見当もつきません。ただ個人的には、おそらく基礎的な物理法則がそっくり書き変わる可能性が大きいとも見込んでおります。

こんな学生に来てほしい

天文の世界にロマンや魅力を感じている人。それプラス、研究者としてタフな人ですかね。これまで誰もやっていない新しいことをやるのが科学研究なので、ときに失敗することも多いし、必ず成功するわけではありません。そういうギリギリのところで日々やっていますから、精神的に頑丈でないととてもやっていけない。なので、ガッツがあってエネルギッシュな人というのも条件になります。あとはオリジナリティー。独創的なことをやってみようという勇気がある人もいいですね。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。