早稲田塾
GOOD PROFESSOR

千葉科学大学
大学院 危機管理学研究科

高 黎静 教授

こう・れいせい
中国生まれ。82年上海市木材工業研究所研究員。99年東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻卒(工学博士)。99年東燃ゼネラル石油総合研究所研究員。03年独立行政法人消防研究所特別研究員。04年千葉科学大学危機管理学部准教授。10年同教授および同大学院危機管理研究科教授。

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実験機器が立ちならぶ高教授の研究室
たくさんの実験分析機器の数々

人々を助けるための危機管理学とは

――今週は千葉科学大学大学院危機管理学研究科(学部は危機管理学部工学技術危機管理学科を担当)の教授にして、火災安全研究のエキスパートとして広く知られる高黎静教授に登壇ねがうこととした。まずは日本初ともされる「危機管理学部」のことから教えていただこう。

こと危機管理(Crisis management)に関する学問研究において、本学はアジア一の内容と規模だと言えますね。そもそも創立のきっかけは、2001年にアメリカ国内で発生した9.11同時多発テロ(September 11 attacks)でした。それ以前にも欧米では危機管理に関する専門学部のある大学が多かったのですが、日本国内の場合には、危機管理と関連のある分野の研究はやられてはいたものの、危機管理に関して総合的に取り組む学部組織は当時ひとつもありませんでした。

いまや日本をはじめ先進国にとって危機管理対策はとても重要です。開発途上国だと最低限の生活政策がメーンになりますが、先進国の国民はただ食べて生きることだけではなく、その生活の質や安心安全な社会システムも求めます。すると危機管理に関する専門的な人材が必要になってきますが、そういうことを教え育てる学部が日本の大学機関にはなかったということで、10年ほど前に大学創立ともに設置されました。

創立当初は「危機管理学部」と「薬学部」の2学部(現在は「看護学部」ふくめ3学部体制)に分かれ、そのうち危機管理学部のなかで「防災自然科学」「環境」「危機管理」の3コースが用意されました。いまは危機管理学部工学技術管理学科となり、「パイロット・整備コース」と「防災技術コース」という2コースが整っています。わたし自身は、過去において消防士の国家試験合格率ナンバーワンになったこともある防災技術コースに所属しています。

――火災燃焼安全研究の第一人者である高教授の大学における講義内容については……

日本で起こる火災事件の原因は放火によるものが一番多いという調査結果があります。これは人為的なことなので、危機管理対策をきちんとしていれば防ぐことができます。大学の講義では、どういう条件において火災が発生するか、また火災が発生したらどう対処すればいいかということを教えています。

いったん火災が発生したら直後3分間が勝負になるんですが、そのあいだに逃げれば助かります。それを超すと人命危険に至ってきます。火や煙が天井まで広がってしまうと一般人にはどうすることも出来ないので、ともかくも逃げろということになります。火事が起こると財産や大事なものがすべてゼロになってしまいますが、そういうものは命があるからこそ意味がある。その命を守るためにも、火災が起こったらまず逃げることが前提となります。

ただ火災は拡大しなければそれほど危険ではないので、最初の段階で延焼を防ぐことは大事です。日本の消防は6〜10分のうちに現場到着できるよう様々なエリアに設置されています。そのあいだに周囲の人たちで初期消火をすることで火災災害の規模が変わってきます。昔と違って今は携帯端末が普及しているため一人でも消防通報や初期消火をすることが可能となっている面もあります。

ただ、それでもやはり消火のプロには限界もあります。また通報して応急対処しているあいだに火が大きくなっていくこともあり得ます。そういった各事例も交えて、いざという時にどうやって身を守るべきか、また建築材料による燃焼性状や安全性などの違いについても伝えるようにしています。

千葉科学大学マリーナキャンパス点描

産業廃棄物の火災危険性評価の第一人者

――そう語る高教授の研究分野については……

まずは産業廃棄物の危険性の評価と再生利用についての研究というのがあります。本学が立地する千葉県銚子市は醤油産業で有名です。醤油製造の際に大豆かすが副産物として残ります。このかすを処分するにあたり、昔は家畜のえさにされていましたが、今はその大半が焼却処分されています。そのかすは焼く前に倉庫に入れて保管されているのですが、その倉庫において自然発火による火事が起こってしまうのです。

前職の研究所において肉骨粉の自然発火についてわたしも調査をした経験がありますが、食肉を除いたあとのクズ肉などを加熱処理のうえ粉末化したものが火災危険性があるなどとは普通思わないのですね。とくに2000年代前半に狂牛病・牛海綿状脳症(Bovine Spongiform Encephalopathy 略BSE)の主要原因として肉骨粉を混ぜたえさがクローズアップされたこともあり、急遽すべて処分しなくてはならなくなった。でも一気に処分することは出来ないため倉庫に置いておきがちなわけですね。そしたらそこから火災が次々と発生したのです。

よく調べていくとほとんどが自然発火による火災でした。すべての物質には、たとえ化学性の発火性物質でなくても着火温度というものがあります。たとえばある物質の着火温度が250度だとしたら、フライパンに入れて熱していって250度になったら、着火しなくても炎が出るのです。そこに酸素が存在していれば必ず燃えます。

どうして肉骨粉や醤油かすなどから発火したかというと、これらはタンパク質でできていて、その中には菌がいます。熱を好む菌が生物的な原理で発熱反応を起こし発熱していき、一定の温度になったら物質に熱分解が始まります。その熱分解も発熱運動になるので温度がどんどん高くなるのです。

醤油かすの性質として熱伝導率がすごく低いことがあります。熱伝導率が高ければすぐに熱が放出されますが、低いので熱が伝わりにくく放熱できない。倉庫の中にはたくさんの醤油かすが積まれていて断熱状態に近いので、さらに熱が逃げられない。そのなかで温度がだんだん上がっていくのですが、わたしのコンピューターシミュレーション計算では3日程度あれば発火するので、真夏の連休中などは特に危ない。ただ、発熱したとしても撹拌すれば燃えません。

自然発火の原因となるものの代表的なものは石炭ですが、じつは醤油かすの発熱量は石炭と相当するのです。でも石炭を保管している場所の多くは室内ではなく屋外です。そして積まれた石炭のなかに通気管が通っていて、穴から熱が出ていく仕組みが確立されているのですね。もしそういう設備がなければ石炭は自然発火して燃えていきます。石炭に対してはそういう知識がこれまでに蓄積されているわけです。

一方で醤油かすは燃えないイメージがありますが、菌が発熱運動をし続けいくので石炭よりもむしろ発火しやすい。醤油かすは250度あたりから危険となります。そこに燃焼の3要素、可燃性物質と酸素・温度がそろうと燃えるのは必然。かつて醤油かすを処分するときは1メートル四方の袋に入れて積んでいましたが、そういうふうに積み重ねるのはたいへんに危険なのです。そして棚を作ってそこに一つずつ入れていけば安全に保管できることもわかってきています。

――最後に高教授の研究室ではどのような学生への指導がなされているのかお伺いした。

学生たちには、こちらから何か課題を与えるというよりも、火災・安全工学・危機管理学に関連することの範囲で自ら興味のあるテーマを研究してもらうことを基本としています。昨年は航空輸送安全学科の学生が2人在籍していましたので、自動車に関することをやりました。

そのうち一人は座席シートの材料やクッション材のうち、合成皮革・綿・ポリエステルのシートカバー3種類についてそれぞれの耐燃性などの比較研究をしました。もう一人は、車両内装に使われる熱可塑性高分子材料であるポリカーボネート(polycarbonate)・ポリプロピレン(polypropylene)・ポリエチレン(polyethylene)を選んでもらい、それらを燃やすとどうなるかという比較実験が中心になりました。

今年度の学生は2名でどちらも中国からの留学生です。うち一人は、かつて未来型の断熱エンジンと期待されたセラミックエンジンの熱性能を調べ直してみたいということで取り組んでおります。もう一人は、中国を中心に大騒ぎになっているPM2.5(微小粒子状物質)による大気汚染の原因とされる自動車燃料の問題について各種のエンジンオイルを使って比較実験をしています。

こんな学生に来てほしい

困った人を助けてあげたい――そういう心優しい人がいいですね。わたし自身は日本人ではありませんが、3.11東日本大震災に象徴されるように、いまや災害とその被害はますます国境を越えていきます。ですので人を助けたいという気概をもったグローバルな人材が来てくれると嬉しいですね。がんばって一緒に人々を助けていきましょう。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。