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GOOD PROFESSOR

東京海洋大学
特任教授

小松 俊明 特任教授

こまつ・としあき
1967年東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、住友商事に入社。鋼管貿易業務を担当。退社後、海外起業、外資勤務を経て2012年より東京海洋大学特任教授に就任。高等教育機関のグローバル化推進が専門で、特に海外インターンシップ開発や大学間の国際連携に注力している。ビジネススキルやキャリアに関する著書が多い。

「東京海洋大学グローバル人材育成プログラム」のURLアドレスはコチラ↓
http://www.kaiyodaiglobal.com/

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海外派遣キャリア演習で
シンガポールに派遣され帰国した学生たち
同じく8月に1ヵ月のタイ演習から
帰国した学生たち

産業界出身の教員が取り組むグローバル教育

――今週の一生モノプロフェッサーには、東京海洋大学でユニークな「グローバル教育」を実践する小松俊明特任教授に登場いただく。総合商社を経た後に国内外で起業を経験し、外資系ヘッドハンターとしても大活躍した異色の経歴をもつ小松先生に、まずはどのような経緯で教育界へと進むことになったのか、そうしたことから聞いていくこととしよう。

文部科学省が後押しする「スーパーグローバルハイスクール」や「スーパーグローバル大学」創成の構想に代表されるように、つぎつぎと日本の高等教育機関はグローバル人材の早期育成に教育改革の舵を切りました。海外に留学する学生も一気に増加し、新卒の就職や社会人の転職も国境を越えた海外就職・海外転職が珍しくない時代が来ています。日本国内で外国人の方を見かける機会も増えましたし、海外と日本を行き来するビジネスマンや学術関係者もますます増えています。総じて言えることは、人のモビリティー(移動)がボーダーレスで高まっているということです。

実際として日本を直撃したグローバル化の波は、働く環境や人々の意識を変えつつあります。ただ、こうしたグローバル化が突然として世の中に生まれたのかと言えば、それは違います。むしろ日本はずっとグローバル社会の競争にさらされてきたにもかかわらず、そのことを多くの人があまり意識していなかっただけかもしれません。もっと言えば、私たち一人ひとりがグローバル社会と十分な接点を持たなかっただけなのかもしれません。というのもグローバル社会との接点をもつ日本人は、いまほど多くはなくても以前からもいろいろな分野にたくさんいました。

たとえばわたしの場合、グローバル社会との初めての接点は、日本企業で働いていた親が海外駐在になったことがキッカケで、小学生のころ約5年間アジアで生活をしたことにまでさかのぼります。1970年代初頭のことでした。さらに1980年代にも親が2度目の海外駐在(アメリカ)となりましたが、その際自分は日本に残って、日本国内の中学・高校に通う道を選びました。

その次の海外との接点は、大学に進学したあと1年間のアメリカ留学を決意したときのことです。当時は単位互換がうまくいかず、日本で通っていた大学を休学せざるを得ませんでした。その結果、アリゾナ州立大学経済学部に編入して1年間勉強したあと帰国して、日本の大学を1年遅れで卒業する計画を立てたのです。日本の当時の仲間たちから1年遅れて大学を卒業することは色々な意味で負担にも感じましたが、どうしても海外から日本を見てみたいと思う気持ちが強く、幸いにも両親からの応援もあったため渡米しました。この1年間の経験が自分のその後の人生を大きく変えたように、いま、振り返ってみてそう感じています。

大学卒業後は、国際的な仕事に携わりたいと総合商社で働くことを希望し、運よく貿易を扱う部署で米国市場向けのビジネスを担当しました。しかし日本的な企業風土のある環境で仕事をすることは、自らが目指したい方向性とギャップが大きいと感じたため、安定した大手企業勤めを辞めて、20歳代後半にマレーシアで求人情報誌を発行する出版事業を自ら起業する道を選びました。

若さゆえの冒険だったわけですが、5年間というひとつの節目を終えたころ、現地で事業をそれ以上継続することをいったん止める決断をして帰国し、日本では管理職の中途採用をおこなう外資系コンサルティング会社に入って再スタートを切りました。幸い仕事は順調だったのですが、約8年後の金融ショックの結果、働いていた外資系企業が日本市場からの撤退を決め、それを機会に人生2度目となる起業を決意し、人材ビジネス事業を立ち上げました。わたしの場合、自らの環境の変化に応じてこれまでいろいろな仕事に挑戦してきましたが、12年間の海外生活を含めすべて海外との接点がある仕事をしてきたことになります。

わたしは仕事の種類として新しいビジネスを作ることが好きです。その結果として国内外でスモールビジネスをこれまで2度も立ち上げたわけですが、自分以外のことでもこれまで多くの方々のキャリアの転機に立ち合って、さまざまな助言をしてきました。また、ときには新規事業の立ち上げの支援もしてきました。そんなわけで、いつも新しい人との出会いが多い仕事をしていたわけですが、あるとき一人のお客さんから「いまや大学教育の現場はキャリア教育やグローバル教育がもっと必要な時代を迎えている。国内外でビジネス経験がある小松さんは、高等教育の現場で自らが体験してきたキャリアを生かして、若者たちのグローバル化を支援することに関心はないか」といった提案をいただきました。

それまで新しいビジネスの立ち上げやキャリアの転身を考える仕事ばかりしてきた自分のなかで、そうした提案により、いろいろな点と点とが線で結びついたような気もしました。それを契機に高等教育の現状を調べるようになり、いろいろな教育関係者からも意見を聞いてみるようになりました。その結果たしかに教育現場には大きな改革が求められている、グローバル化を推進する教育改革の大きな波が未来の日本を変えていく、そう実感し一種のロマンを感じました。

要は、キャリア開発やグローバル推進というテーマにおいて、自分は日本の教育改革に貢献できるのではないか、未来を担う若者たちを応援できるのではないか、そう考えはじめたことで「教育という分野は面白いに違いない」と確信したのです。自分が産業界出身であること、海外経験が豊富であることが、これからの未来を担う若い世代の日本人の育成に役立てるという確信にも変わっていったのです。これまでやってきたビジネスのように、単体で「会社のもうけ」をまずは優先するのとは異なり、もっと大きな枠組みで「社会のもうけ」を考えるのが教育システムではないか、そう腹に落ちたその想いを教育現場で訴えた結果、公募で国立大学法人東京海洋大学との縁が生まれました。

――実際にはどのような教育改革に取り組まれているだろうか?

いま全国の大学や高等学校では、グローバル化を意識した教育改革が進んでいます。東京海洋大学においても、グローバル人材の育成に踏み切るために3つの教育改革を打ち出しました。TOEIC600点を進級要件化したこと、一定の数の学生たちを継続的に海外に送り出して現地でのキャリア演習を実施するプログラムを作ること、そして大学院の授業を完全英語化することなどです。こうした教育改革を実践するために、わたしはグローバル化推進の特任教授として海外の大学との国際連携や広報に取り組んでいます。

いま授業としては「グローバルキャリア入門」や「海外派遣キャリア演習」を担当しています。たとえば「グローバルキャリア入門」では、国際的に活躍するさまざまな職種のゲストを呼び、彼らが海外に目を向けたキッカケなどを聞かせてもらった後で、学生を交えていっしょに議論する授業をやっています。日本で働く外国人の方も多数ゲストに来ていただいています。

授業の構成は、90分のうち最初の30分をゲストに語っていただき、次の30分はゲストとわたしで対談します。その目的はゲストの話を深く掘り下げることにあり、実際にゲストに「質問をするプロセス」を担当教員として実践してみせます。人の話をどういう視点でとらえるか、どのように話を掘り下げれば理解が深まるのかということを体験させることで、学生たちの質問力や論理的思考力を育てることも目的としています。

そして次に、毎回20分の時間を学生からの質疑応答の時間にあてます。わたしの質問をたくさん聞いた直後に、今度は何人かの学生が全員を代表して質問をして、さらにその日のゲストの話に対する理解を深めます。授業も2〜3回目を終えるころには、学生たちが矢継ぎ早に質問を繰り返すようになってきます。こうした経験を通して、学生たちには授業への積極的な参加の姿勢が身につきますので、この授業をキッカケにして他の多くの授業でも同じ姿勢で学んでくれることを期待しています。そして最後の10分では、今回すべてのやりとりの中から自ら気づいたこと・得たものについて文章化してもらいます。アウトプットをすることはとても大切であると考えているからです。

ゲストにはグローバルな視点をもった社会人を招いています。ビジネスマンや大使館員・研究者・アーティストなどそのジャンルはさまざまです。自分が知らない、もしくは関心を持っていなかった多くの異分野で活躍する内外の社会人の方々と触れることで、自らの好奇心を育て、さらには「多様性を受容する力」を身につけてもらうのが授業の主なねらいとなります。

もう一つわたしが担当している海外実習の授業があります。授業の正式名称は「海外派遣キャリア演習」といいますが、通称「海外探検隊プログラム」と呼ばれています。この授業では、一定の基準で選抜した学生たちを1ヵ月間海外に滞在させ、現地の日本企業やパートナー大学において様々な体験を積ませる内容になっています。パートナー大学は、シンガポール国立大学や香港大学・台湾大学などアジアにおけるトップ大学ばかりです。

一方、お世話になる日本企業は、どれもグローバルにビジネスを展開する優良企業ばかりであり、たとえば味の素やヤクルト、ダイキン、リコー、大正製薬そのほか多くの会社にサポートをいただいてプログラムが成り立っています。学生たちは約1週間から2週間にわたり企業から具体的な課題をいただいて、実際に働く現場でさまざまな経験を積むことができるのです。

ちなみにパートナー大学では、学生たちは大学院の研究室に滞在させています。多様な国籍の研究者のもとでリサーチアシスタントとして、研究活動のサポートを体験させるのです。これは近い将来、学生たちが研究室で専門教育を受けるための先取り体験として位置付けております。
                         
わたしは担当教員として、パートナーとなる企業や大学研究室の選別や相談ほか各種の交渉を担当しています。また、渡航前には学生たちにいろいろな研修の機会を用意しています。語学研修に加え、英語でのプレゼンテーション研修やビジネスマナー研修・安全研修などになります。現地では1ヵ月の最後に英語でプレゼンテーションをします。発表の場所は現地の大使館や商工会議所あるいは現地の政府機関などということになります。国内外の政府機関やビジネス関連のいろいろな組織から多くのご支援をいただいていることは非常に幸せなことだと思っています。

晩秋の東京海洋大品川キャンパス点描

「面倒くささ」こそが一生モノの海外経験

――「海外派遣キャリア演習」とはかなりユニークな試みだが、難しい点も多いのでは……

本学は理系大学ですので、2年生以上の学生になると、大学が休暇期間でも個別の実習がありまして「探検隊プログラム」とタイミングが重なってしまう場合があります。そうなると、参加の機会を得られない学生も一部出てきてしまうことになります。また、企業の方々向けに英語でプレゼンをするため、最低でもTOEIC600点以上をクリアすることを演習参加の基本要件としていることも壁ともなります。

しかし、より重要なのは本人の志望動機であり、参加に対する意欲とその目的意識の内容です。それまでにまったく海外経験がない学生でも、グローバル人材として活躍できるだけの素養があると判断されれば選抜されます。実際、過去に参加した学生の半分は海外渡航が初めての学生ですが、経験の有無にかかわらず、グローバルで活躍できるための良い素養を持っている学生でばかりであったため、現地では期待以上の大きな成果を出してくれています。

一方、プログラムを企画・運営する側からすると、演習に協力してもらうパートナー大学と国際協定を結ぶ難しさが最初はありました。というのも、パートナー大学の条件として「規模が同じくらいでお互いに類似性があること」「世界大学ランキング等で同程度の評価を受けている大学であること」が多く、そうした意味では残念ながら東京海洋大学は世界大学ランキングでは上位に入れておらず、実際にランキング圏外なのです。それにもかかわらず海外有名大学との共同プログラム化に漕ぎつけられた秘訣は、海外に拠点をもつ日本のグローバル企業の協力を事前に得られていたことが大きいと思います。

海外(とくにアジア)の大学からすれば、こうした日本の有名企業との産学連携はぜひもっと進めたいと考えています。一方、日系大手企業にしてみても、海外の有名大学との結びつきをさらに深め、海外の現地で優秀な学生を発掘したいと考えています。そうした両者のニーズが結びついて実現したわけです。そうしたこともあり、東京海洋大学が進める海外派遣キャリア演習には現在、シンガポール国立大学 (世界ランキング26位)・香港大学 (同43位)、国立台湾大学 (同142位)などのトップ大学、そしてタイでは現地トップ校として名高いチュラロンコン大学やカセサート大学 (2大学とも世界大学ランキング圏外だがタイ国内トップクラス)などとパートナーとしての国際交流協定を結んでいます。

――これらのパートナー大学がアジアに集中している理由については……

この理由には大きくわけて3つほどあります。まず、日本とアジアの関係はよりいっそう重要さを増していることがあります。アジア体験をもつこと、アジア人脈をもつこと、アジアへの文化理解を深めること
――こうしたことは学生たちの将来の職業人生においても大きな財産となります。

2つ目としては、アジアは日本との時差が少なく、大きな日本人社会もあって、安全対策・緊急対応の面でもプログラムの運営上たいへん安心であることが挙げられます。また物価が比較的安く、限りある予算内で充実したプログラム設計ができることもあります。

そして3つ目には、アジア各国が日本への関心が高いことがあります。成長著しいアジアの一流大学も「日本ビジネス」には注目が集まっており、その点で日本を代表する多くの日本企業の協力を得ているプログラムであることはさまざまな協力が多方面から得やすくなります。また、アジアには豊富な自然(とくに海洋資源)があり、本学の学生にとって多くの研究テーマを見つけることが可能であることも大きな要素です。

――最後に海外派遣キャリア演習の指導において大事にしている点については……

できるだけ「面倒くさくなる」ように、わざと盛り沢山なスケジュールを組み立てています(笑い)。昨今の学生たちは、自分が興味のあることにしか目を向けない傾向が強く、スマートフォンなど携帯端末の普及によって半径数メートルの範囲内で安直に何でも済ませてしまう傾向があります。

よって、本プログラムでは出来るだけ現地に訪問してモビリティー(移動)の高いアクティビティーをするように設計されています。実際に自分で見て感じて働きかけたものだけが結果に結びつき、それが時にイノベーションを起こす原動力になるということ――そのことをこうした非日常体験のなかから学んでほしいと考えています。

こんな学生に来てほしい

東京海洋大学はニッチな専門性を学べるユニークな大学です。グローバル化が進む時代を迎えるなか、専門性に特色のある大学は今後ますます注目されるようになっていくことでしょう。「自分のオリジナリティーを追求したい」と感じた人たちにはぜひ進学を検討してほしいですね。また「グローバルな視点をもちたい」「多様性を受容できるようになりたい」などと考える学生には、ユニークな「海外探検隊プログラム」への参加もお勧めします。東京海洋大学は、将来の専門家としてグローバル社会で活躍できる人物を育てるために、今後も多くの新しい挑戦を続ける大学です。まずはオープンキャンパスや学園祭などに参加して、大学の明るい雰囲気を感じとってみてください。

公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。