早稲田塾
GOOD PROFESSOR

武蔵大学
社会学部 社会学科

田中 俊之 助教

たなか・としゆき
1975年東京都生まれ。99年武蔵大学人文学部社会学科卒。04年武蔵大学大学院人文科学研究科社会学専攻博士後期課程単位取得満期退学。08年博士(社会学)取得。専門は男性学・キャリア教育論。

主な著書には単著として『男性学の新展開』(青弓社)、共著に『大学生と語る性』(晃洋書房)『ソシオロジカル・スタディーズ』(世界思想社)『揺らぐ性・変わる医療』(明石書店)などがある。

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武蔵大学江古田キャンパス正門
空中庭園や本格スタジオを備える8号館

男の生きづらさに迫る「男性学」とは

――今週は、日本における「社会的・文化的な性のありよう」(ジェンダー/英gender)をめぐる最先端「男性学」(Men's studies)の研究者であり、マスメディアでも登場する機会が多い田中俊之・武蔵大学社会学部助教に登壇ねがう。まずは所属する社会学部社会学科のことから教えていただこう。

社会学(sociology)は「常識を疑う学問」です。人々が日常生活で「常識」だと考えている様々な出来事について、社会学は「なぜそうなのか」を分析してみせます。ですから、社会学を学ぶことで、社会を批判的に見る目を養うことができます。また、学生にとっては社会学を勉強すると、社会のなかで自分がどのような位置に置かれているのかを客観的に理解できるようになるというメリットもあります。

わたしが研究する男性学の観点から具体例を挙げてみましょう。一般的な「常識」では、人には男性と女性の2種類しかいないことになっています。この「常識」を疑ってみると、どうして人が2種類しかいないと我々は考えるようになったのか、その成り立ちや歴史・社会構造などいろいろな角度から分析していくことになるわけです。

本学社会学部では、メディアなどで世に流布する言説を文字どおりに受け取らずに、批判的に見るような実際的な作法(literacy)を、社会学を通じて身につけてもらうことを主眼にしています。その時ただ自分勝手な思い込みだけで解釈して主張したり、はすに構えて批評家ぶったりするだけでは何の役にも立たないどころか、はた迷惑にすらなってしまいます。

そこで武蔵大学の教育目標である「自ら調べ自ら考える」という姿勢が大きく役に立ってきます。他人の話を鵜呑みにしないで、自分なりに調べて自分なりに考えられるようになる。そのための社会学的なものの見方や情報収集のやり方を身につけてもらう。それが本学社会学部の特色といえるでしょう。

――そう語る田中先生ご自身はどのような授業を武蔵大学社会学科において担当しているのだろう。

「社会調査方法論」という授業を担当しています。社会学部では「社会調査士」の資格が取得できるので、そのカリキュラムの一貫にもなります。方法論という科目名がついていますので、まず調査のやり方をきちんと理解してもらわないといけません。調査目的によって、どのように調査方法を使い分けていくかもしっかり勉強していきます。

社会調査というと質問紙を使った調査(量的調査)というイメージがあるかもしれませんが、調査対象によっては聞き取り調査(質的調査)のほうが向いているものもあります。社会のなかでまだ議論が十分になされていないテーマ、たとえばセクシュアルマイノリティーの方々がどのような問題を抱えているか等については、聞き取りによってまず状況を把握することが必要となります。

武蔵大学には経済・人文・社会の3つの学部があります。その学部の垣根を越えて合同でやる「三学部横断型ゼミナール・プロジェクト(以下、三学部横断ゼミ)」というゼミも担当しています。どこの大学でも同じだと思いますが、学部間の交流というものは普段ほとんどありません。「三学部横断ゼミ」は他学部の専門性に触れることができ「多様な視点」が身につきます。具体的には、企業から課題提供(CSR報告書の作成)を受けて、実在する企業と合同でやっていく調査活動が主となります。

一般的にテレビコマーシャルを流す企業だけがきちんとした企業だと思われがちで、学生の就職活動でも有名な企業にばかり目がいってしまいます。しかし中小企業にも良いところがたくさんあります。また文系の学生が目を向けにくいモノづくりをしている企業にも焦点を当てて三学部横断ゼミを進めています。実際ご縁があってそこに就職する学生も例年増えています。

三学部横断ゼミでは、教員はあまり介入せずに、学生たちで徹底的に議論し、結論を導き出して自分の力でやり遂げるというところを重視しています。必修ではなく、自主的に取り組みたい学生だけが履修するゼミです。かなりスケジュールがタイトで、授業時間外での活動のほうがメーンと言ってもいいぐらいです。企業の方を呼んでプレゼンテーションもするのでかなり厳しいゼミ活動となりますが、それだけに力をつける学生が大勢います。

「3学部横断ゼミ」の場でもある1号館
「3学部横断ゼミ」の場でもある1号館

安易に性差のせいに帰着しがちな社会の仕組み

――そんな田中先生の専門はズバリ「男性学」。ちょっと聞き慣れない分野だが……

簡単にいうと「男性が男性だからこそ抱えてしまう問題」について研究するのが男性学です。一方で「女性学」(women's studies)という分野もあり、そこでは「女性だからこそ抱えてしまう問題」についての研究がなされています。

たとえば日本で結婚をするとほとんどの女性が夫の姓になると思うのですが、これは典型的な「女性問題」です。ほとんどの男性側にはそういう悩みはないんですね。ほかにも昨今話題にもなったマタニティーハラスメント(Maternity Harassment)に象徴されるように、結婚や出産をした女性の多くは仕事を辞めなければいけないという悩みをもつことも多いのです。

こうした女性側が受けがちな社会的プレッシャーは、男性側の問題ともつながっていると言えます。子どもが生まれたからといって「俺しばらく育児に専念するよ」とは普通ならないですよね。いつまでも働かない状態でいることが男性には許されないというわけです。

それ以外にも、「弱音を吐きにくい」「他人に感情を見せて相談がしづらい」という男性特有の問題があります。ここでは生まれつきの性格は問題ではなく、その社会における育てられ方の問題に注目すると、男の子というのは小さいころから競争して勝ち抜くことを暗に期待されて育てられていきます。

――このほか男性学に関連する研究テーマとしては……

わたし個人としては、「仕事」「恋愛・結婚」「ニート」「オタク」「定年退職後の地域活動デビュー」等々いろいろなジェンダー関連のテーマにチャレンジしています。結婚に関していえば、学生たちに聞いても未だに「プロポーズや告白は男子からすべき」と言いますし、男子自身も「男のほうから告白すべき」と思っています。女性の社会進出が進む世の中で、共働き家庭が一般的になっていますが、男性がリードして女性はリードされるという構図は今も昔も大きくは変わっていない実態があります。

それは書店に行けば明白で、女性向け恋愛指南書のタイトルは「○○される」というフレーズばかり。「愛され(化粧)メイク」とか「愛され(髪形)カール」とか「(男性から)愛されるためにはどうするか」といった基本的にすべて受け身。だからプロポーズもされる側だし、告白もされる側。社会的に期待されている男らしさ・女らしさが恋愛にも反映されているわけですね。

伝統的な雰囲気が漂う武蔵学園「大講堂」
最寄り駅のひとつ西武池袋線・江古田駅

ジェンダー論等ではカバーできないテーマも

――男女間における社会的・文化的な性差別や性的偏見の問題については、既存の「ジェンダー論」や「女性学」において認知されてきた分析手法、それだけではカバーできない面も出てきて、そこにこそ、いま男性学による社会学的分析が求められている理由があるのだという。

男性学においては、単に男性と女性の比較だけではなくて、男性のなかでの序列も研究していきます。たとえばニート(Not in Education, Employment or Training 略NEET)という言葉には性別は特にないのに、若い男性をイメージされがち。ニートにどうして男性というイメージが付きまとうのかというと、「働いていない男って最悪だよね」という社会的なイメージが共有されているからです。そこから正社員>非正規社員>ニートという男性間の序列の存在が浮かび上がってきます。

――あらためて今後やってみたい研究テーマについては……

いま主に取り組んでいるのは、固定的なものになってしまっている男性のイメージに対する学術的なアプローチです。フルタイムで働いて結婚して妻子を養うことが「普通の男の生き方」というイメージが、どうしてこれほどまでに定着してしまったのかを研究テーマにしています。

高度経済成長期以降の日本社会では、多くの男性が会社に雇われて働いてきました。「男は仕事。女は家庭」という性別役割分業が一般化したのは高度経済成長期のことです。しかし73年のオイルショック以降、日本は低成長の時代を迎えます。男性の稼ぎだけで家計を維持するのが難しくなり、この時代以降は専業主婦がどんどん少なくなっていきました。そして90年代には、専業主婦世帯よりも共働き世帯のほうが多くなっています。中高生のみなさんの周りでも母親が働いているケースのほうが多いはずです。

このような現状があるにも関わらず、今もなお大半の日本人が「フルタイムで働いて結婚して妻子を養う男性」が「普通」だと思っているのはとても不思議です。これは学術的にも非常に興味深いテーマだと考えているので、社会学的手法により今後解明していきたいと思います。

こんな学生に来てほしい

「自ら調べ自ら考える」は、武蔵大学の建学の理念です。わたしは「自分の頭で考える力」を身につけることが大学へ進む意味だと思います。自分のなかに判断基準をもって、自分の頭で考えたいと思う人に来てほしいですね。そうした力を自ら身につけたいと思う人には社会学が向いていると思います。カリキュラムや環境は整っていますので、きちんと大学で勉強に取り組んでいけばそうした力は身につきますよ。
世の中の人が当たり前だと思っていることを当たり前だと思えないとか、素直すぎない人、あまのじゃくな人なども社会学は向いていると思いますね。あと数学が多少とも出来ることも社会学を勉強していく上でとても大事です。社会調査では統計の知識が必須ですから、数学がまるで理解できないと大学入学後に苦労することになります。


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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。