
東京薬科大学
生命科学部
多賀谷 光男 教授
細胞内の「物流システム」を研究
「食後に血糖値が上がると、インスリンというホルモンが膵臓の細胞から血液へと放出されて、血糖値を下げる働きをします。このときに、なぜ、どのようにインスリンが細胞から出てくるのか疑問に思いませんか? このようなホルモンの輸送に使われているシステムが小胞輸送です。神経伝達物質であるアセチルコリンを放出するときにも、この輸送方法は使われています」
多賀谷教授は、細胞内タンパク質輸送が専門だ。タンパク質輸送は細胞内の「物流システム」であり、輸送先を記した荷札を持ったタンパク質は、集荷場に集められてからまとめて運ばれ、次の集荷場で種分けされて最終目的地へと運ばれる。
「細胞には、いろいろな仕事があるので分業をしています。細胞内には膜によって囲まれたオルガネラという小器官があり、それらは小胞という脂質の袋が行き来して連絡をとりあっています。例えば小胞体でタンパク質が作られると、作られたタンパク質は小胞の中に閉じ込められ、ゴルジ体へと運ばれ、さらに細胞膜などに輸送されます。それが小胞輸送なのです」
「小胞輸送は、酵母のような単細胞生物においても行われており、その仕組みは高等動物のものとよく似ています。酵母や動物の細胞を使って、この10年の間に小胞輸送の仕組みが分子のレベルで解明されてきました。そして、小胞輸送がヒトのさまざまな病気と関わっていることが明らかになりつつあります
「高脂血症といって、血液中の中性脂肪やコレステロール値が高くなってしまう病気があります。家族性高コレステロール血症は、コレステロールを取り込む役割を担っているタンパク質の欠陥によって起こります。この場合、本来細胞中に取り入れられるべきコレステロールがうまく輸送されず、血液中に残ってしまい、それによって動脈硬化が引き起こされるのです」
「白人にしばしば見られる嚢胞性繊維症という病気は、細胞膜にある塩素イオンを出し入れするタンパク質が働くなることによって生じる病気です。このタンパク質は1480個のアミノ酸からできていますが、このうちのたった一つのアミノ酸が変わってしまうだけで、タンパク質は小胞輸送の経路によって運ばれず、合成された場所である小胞体で分解されてしまうのです」
分子細胞生物学の進歩とヒトのゲノムの構造が解明されたことで、細胞生物学の研究は新たな段階に入っている。
「私たちの世代では細胞生物学者と医学者の間には大きな違いがありました。しかし、これからは研究内容においては両者にそれほどの差がない場合が少なからずあるでしょう。平成16年度から導入された医師臨床研修制度によって医師が大学の研究の場からいなくなりつつあり、基礎医学研究における細胞生物学者の役割は今後さらに大きくなるでしょう」
このような科学的、社会的背景を受け、東京薬科大学生命科学部では来年度から「生命医科学コース」を設置し、臨床医学と生命科学をつなぐ人材の育成を目指すという。
高い研究レベルと充実した設備
東京薬科大学は、こじんまりとした大学だ。だからこそ、教員と学生の距離が近い。しかも教員は、1対1のコミュニケーションを重視している。
「1対1で話し、『どう思う?』『それは違うよ』と対話することで、考える力、課題探求能力もつくと考えているからです」
生命科学部には、「伸びたい学生は伸ばす」という姿勢がある。1年生後半から研究室に来て実験を行い、学会で発表したり、飛び級で大学院へ入学したりする学生もいる。大学院へ進む生徒は70%にもおよぶ。その約半分が東京薬科大学の大学院に入学し、残りが東大、東京医科歯科大をはじめとする国立大学の生命科学・医学系大学院へと進学する。進学先の国立大大学院では、『卒論でそんなに高度な研究をやっていたの?』と驚かれる学生がしばしばいるという。
「オープンキャンパスに来てもらえると、わかると思いますが、東京薬科大学生命科学部は設備が充実しています。活発に研究していると国からもたくさんの研究補助金をもらえるからです。そのような点もしっかり見極めて大学を選んでほしいですね」
活気あふれる東京薬科大学の大学説明会に、ぜひ行ってみてはどうだろうか。
こんな生徒に来てほしい
「医師や薬剤師になるためには高い学力が必要ですが、患者に接したり、チーム医療を行ったりするために個性が強すぎることは良いことではありません。しかし、生命科学の研究者はどんなに個性的であっても問題はありません。人とは違う考えを持つからこそ、新しい概念を作り出すことができるのです。学力もオールラウンドである必要はありません。生物、化学、物理、数学、どれか一つでも優れていれば立派な生命科学の研究者になることは可能です。個性と才能を延ばしたいと強く思う学生が入学してくれることを願っています」
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