{literal} {/literal}
GOOD PROFESSOR

学習院大学
理学部 化学科

岩田 耕一 教授

いわた・こういち
東京大学理学部化学科卒業。同大学大学院理学系研究科博士課程修了 (化学専攻)。オハイオ州立大学化学科博士研究員、神奈川科学技術アカデミー研究員、東京大学理学部助教授(化学科、スペクトル化学研究センター)を経て、2009年より学習院大学理学部教授。

  • mixiチェック
実験に使用している最先端の分光機器の一部。
岩田耕一教授の研究室がある南7号館(写真右側)

世界に近いポジションからスタートできる分光物理化学

――岩田耕一教授の専門分野は「分光物理化学」。一般にはなじみの薄い分野だが、簡単にいうと「実験によって物質と光との相互作用の測定をする学問」とのこと。分光物理化学は20世紀の初頭からずっと化学の主要な一分野であり、その中でも岩田教授が得意とする時間分解分光学は1990年代から特に盛んになっているという。なぜ今、分光物理化学の研究が注目されているのかをうかがった

分光物理化学は光を扱う分野なので、光学機器の技術の進歩に支えられています。今は光学機器の進歩で実験のためのハードウェアの性能が上がり、以前はできなかった実験でも、できることが格段に増えているのです。そして日本では伝統的に分光物理化学の水準が高いので、いい仕事を残されている研究者が昔からとても多い。これからこの分野で研究を始める日本の学生は、いわば世界レベルに近い有利なポジションからスタートできるわけで、とても幸運といえるでしょう。

――学習院大学で岩田耕一教授が所属する学部は、理学部化学科。理学部は教員が65名(教授・准教授34名、助教31名)、一学年の学生定員が210名という小規模な学部だと聞いていますが……

学部の規模が小さいため、とても家族的な雰囲気。面倒見がよく、教員と学生の距離が非常に近いのが特徴ですね。私が卒業した大学は規模が大きかったこともあって、私が学部学生の頃など、教授は別世界の人のよう。気軽に話しかけるなんてとてもできない、遠い存在でした。ところが学習院大学では、学生が気軽にドアをノックして質問に来るのです。当初はそれにびっくりしましたが、嬉しくもありましたね。学生たちは、自分たちがどれだけ恵まれているかに気づいていないようですが(笑)、私は、そうしたところが本学のとてもいいところのひとつだと感じています。私も毎日、昼休みになると研究室で学生と世間話をしながらいっしょに昼食をとっています。

理学部の研究棟廊下には研究報告が貼り出されている

実験レポートで見るのは論理的思考と「説得力」

――具体的にどのような授業をされているのか……

今、私たちの研究室のメンバーは13人。助教の先生のほかに、大学院生が6人と卒業研究をしている学部学生が6人います。メンバーはほとんどの時間を実験とその結果の解析、それから基礎的な勉強にあてています。週に1回のセミナーでは、学生が2〜3人ずつ研究報告を行います。

授業としては、学部と大学院で講義をいくつか持っているほか、学部の必修科目である学生実験を見ています。化学において実験は非常に重要ですので、2年の後期から3年の後期までの1年半の間は午後すべての時間を無機化学、有機化学、物理化学の学生実験にあてています。1年生と2年生のときはそれに演習が加わります。演習とは、課題を解いてそれを黒板に書き、学生と教員が議論する授業です。学生実験では、学生は毎週必ずレポートを提出します。私がそのレポートをチェックし、不備や誤りがあれば添削して戻し、学生がそれを書き直して再提出するわけですが、学生によっては、2回も3回も再提出する場合があります。

――それほど実験レポートというのは難しいものなのだろうか

実験レポートは決してむずかしいものではありません。入学試験に合格して入ってきた学生であれば、学力的に書けないことはないはずのものです。ただ、他人が読んで理解できるようにきちんとまとめるにはかなりの時間を要します。その苦労をしないと実験で得たことは身に付かないのですが、時間を惜しんで形だけ整えて仕上げようとすると、再提出になるのです。つまり実験レポートでわれわれが見ているのは、学力のレベルというより、研究者に必要な論理的な思考と「説得力」なのです。

――近年、大学生全般の学力の低下、効率重視傾向などがマスコミでいわれているが、理系学生はどうなのだろうか

私が見ている限りの印象ですが、理系学生の気質は昔から、ほとんど変わっていないように思います。学力も、高校で教える内容は以前と違ってきているかもしれませんが、みんな大学に入ってから頑張っていますよ。ただレポートで他人の文章を丸写しする、いわゆるコピペをする学生は目立ちます。私たちが学生の頃も、他人のレポートを写すような人はいたわけですが……。教員の立場から見ると、そういう箇所は急に文体が変わったり、他の人と同じ間違いがあったりするので、すぐにわかることが多いのです。また、関連分野のwebページには目を通していますので、webページをコピペすると見た瞬間にわかりますね。

――そんな岩田耕一教授が卒業研究の学生を指導する際、心掛けていることは大きく2つあるという

ひとつは、『1人1テーマを持つ』ということ。誰かの手伝いをしながら学ぶというのでなく、最初から独立したテーマを持ち、自分でやることが大事だと考えています。その際、できるだけ学生の自主性に任せ、自分で考えて決めさせるようにしています。もうひとつは、『評価の定まったいい本を、じっくり読んでもらう』ということです。そうした本を読むことで、研究者としての基礎をつくることができるからです。研究者は理数系が得意ならいいと思っている人が多いのですが、じつは国語力はとても大事。それは本をたくさん読むことで鍛えられるのです。

山手線の目白駅を降りると、目の前が学習院大学

研究の喜びは世界で最初に触れること

――岩田耕一教授も本を読むのが好きで、高校時代は文系への進学も考えていたという。そこで、これから理学部をめざす学生に望むことを聞いてみた

実験にはつらいこともあれば、大きな喜びもたくさんあります。一番大きな喜びはなんといっても、「世界で最初に新しいことに触れることができる」という喜びでしょう。実験が予想どおりにいった時は嬉しいものですが、それよりも嬉しいのは、予想もしていなかった意外な結果が出た時です。その喜びを知っているから、退屈な実験の繰り返しや、いくつもの失敗に耐えられるのではないでしょうか。

私は山歩きが好きなのですが、一度すばらしい景色を見てしまうと、次に登った時に悪天候で何も見えなくても、不思議と『もうやめよう』とは思わなくなる。『次に登った時はきっと晴れてよく見える』と思え、苦労するのがわかっているのに懲りもせず、いそいそとまた登ってしまう(笑)。実験もそんなところがあるような気がしています。

こんな学生にきてほしい

私が学生に求めているのは、一言でいうと「好奇心」です。なぜならたいがいの研究は、だいたいうまくいかないのがあたりまえであり、実験は同じ操作の繰り返しのことが多いからです。それでも工夫をしながら実験を続けられるかどうかは、好奇心の量にかかっているような気がします。研究そのものはうまくいかなかったとしても、小さな日々の発見を喜びの糧にできる。自分で考え、工夫して、自分なりに面白がることができる。そういう資質が、研究者には必要なのだと思います。


公開日:

※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。