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GOOD PROFESSOR

学習院大学
文学部 心理学科

吉川 眞理 助教授

吉川 眞理(よしかわ まり)
1960年生まれ。
82年、京都大学・教育学部卒。89年に京都大学・大学院博士課程単位取得退学し、2001年に教育学博士。

主な共著書に『臨床ハンドテストの実際』(誠信書房)、『診断と見立て―心理アセスメント―』(培風館)、『キーワードで学ぶカウンセリング』(世界思想社)、『臨床心理士のスクールカウンセリング―全国の活動の実際』(誠信書房)、『青年期カウンセリング入門』(川島書店)などがある。

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カウンセリングの目的は、自分の人生に直面する勇気を与えること

豊かな自然にめぐまれた学習院大学キャンパス

初対面の吉川先生と名刺交換を終え、先生がソファに腰を降ろし、視線を上げた途端、時間の流れがちょっと変わったような気がした。強く冷たい風が吹きすさぶ冬の日、震えながら暖かな日差しが降り注ぐカフェに飛び込んだ様子を想像してもらうと、少し感じがわかるかもしれない。

そんな吉川眞理先生のたたずまいに、プロの凄みを感じた。「心理アセスメント」と呼ばれる心理検査と心理療法の研究者であるとともに、個人心理療法と「スクールカウンセリング」において実践のフィールドをもつ臨床家としての凄みなのかもしれない。

「ただ、いかに先生が優秀なカウンセラーでも、他人の心を「治す」わけではないという。「一人で抱えきれない問題を、当事者と一緒に担う意味合いはもちろんあります。しかし、当事者の荷物をカウンセラーが完全に引き取ることはできないのですね。ただ、カウンセリングで勇気を与えることはできると思いますよ。当事者として自分の人生に直面する勇気です」  

カウンセリングというと誤解している人も多いが、他人の心に手を入れて治療するといった行為ではない。先生も自著のなかで次のように書いている。  

――「心理療法家の本業は『助言』をすることではありません。ましてや『予言』を述べることでもありません」――  

「自分の人生は自分で生きていくのだ、とゆっくり伝えていく。カウンセリングは、そういうものかもしれません。例えば、不登校の子どもをカウンセリングする場合、その子が自分の道を見つけ、自分の足で歩き出すまで待つしかありません。とはいえ、親も本人も待つのがつらい。先が見えませんから。だからカウンセラーは、子どもや親と一緒に待ち続けるのです。いわば“待合室の友”でしょうかね(笑)」

カウンセラーは自分の心の闇を覗き込まなくてはならない

心理学科の研究室が入る北2号館の校舎

これはつらい仕事だ。考えてみてほしい。友人が悩みを告白したとき、助言もせず、ひたすら聞き役に徹することなどできるだろうか? 

解決法をすぐに助言したくもなるだろうし、繰り返される泣き言に苛立つこともあるだろう。そうした自分の感情を抑え、相手の感情を受け止めていくのがカウンセラーの仕事の基本なのである。  

そのうえカウンセリングには、カウンセラー自身の心のなかの問題をも掘り起こす場面があるという。

人間の心はままならない、というのでしょうかね。自分の思い通りに動かせません。自分の心なのに、自分でつかみきれない動きがあります。フロイトが指摘した無意識ですよね。その無意識というミステリーゾーンに、自分の心では抱えきれないものが詰まっています。心のすべてが明るみに出てしまうと、自分が耐えられませんから。ところがカウンセリングは、相手の悩みを通して、自分が本当は見たくないもの、あるいは知らないでおきたいものとも直面しなければなりません」  

フタをしておいた心の闇を、わざわざ覗き込む。それこそ血を吐くような思いに違いない。それでも先生ぐらい経験を積めば、気にならないものだろうか?  

「いやいや、毎回苦しんでいますよ。これで一安心と思った途端、新たな問題を突きつけられますから。すごいマゾヒズムかもしれませんね(笑)」  

近年、カウンセラーになりたい人が増えているという。そのためか、心理学科は、おしなべて受験生に人気が高い。人助けをしたいから――そんな理由でカウンセラーを目指す学生も少なくない。だが、現実はそう甘くない。  

「私は好きでやっていますが、自分の子どもたちには、カウンセラーにはなってほしいとは思いませんね。そう考えてしまうほど、かなりつらく厳しい仕事です。ですが、もしも自分が望むなら止めません。苦しくともやりがいのあることは確かですから」と、先生は教えてくれた。

好奇心だけでカウンセラーは務まらない

全国各地でスクールカウンセリング制度が導入されはじめたのは、1995年だった。センセーショナルな少年凶悪事件が相次ぎ、昨今マスメディアで取り上げられる機会の多い10代の心の問題。そうした少年・少女たちに実際に専門家が接し、その成果を実社会にフィードバックする体制が最近になってどうにか整ってきつつあるともいえるだろう。スクールカウンセラーとしての顔をもつ先生は、そうした研究の最先端を担っている。  

子どもが負担に感じないように心理アセスメントを行い、適切なサポートを実施する。ここで先生の研究は大いに生きてくる。だが、大人への悩みの相談を毛嫌いする年代と向き合うのは、やはり容易ではないらしい。

「偽物と見破られたら、すぐに蹴っ飛ばされますから」と、先生は笑いながら言った。  

こうしたスクールカウンセラーの真摯な態度は、思春期の子どもたちの心を解きほぐし、未来への糧となって、思春期に悩む子どもたちへの社会の対応も変えていくに違いない。またカウンセラーという存在が世間に浸透してきたことで、カウンセリングを求める人も増えていくだろう。だからこそ「好奇心だけでカウンセラーにならないで」と、先生は呼びかける。  

「カウンセリングに来ていただいた方に害を及ぼしてしまいます。そんなカウンセラーでは、来ていただいた方の人権も守れませんから」
珍しく、強い口調で先生はそうおっしゃった。

こんな生徒に来てほしい

学習院の大学院は、臨床心理士資格の受験資格を得られる第2種指定大学院です。受験には実務経験を必要としますが、非常に多くの先輩たちが臨床現場で働いていますので、実習現場の確保には苦労しません。

また幅広い分野のスタッフが揃っているのも、本学の特徴でしょう。こうした環境が揃っているからこそ、真剣に勉強したい学生に来てほしいですね。心理学の研究を進めるためには、かなり根気が必要です。

また、見たくないと思っている自分の心の暗部から目を背けない決意も必要となります。とはいえ、心理学を勉強するのはすごく面白いと思いますよ。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。