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GOOD PROFESSOR

東京理科大学
理学部 第一部 数学科

木田 雅成 教授

きだ・まさなり
早稲田大学理工学部数学科卒業後、同大学理工学部理工学研究科修士課程修了。The Johns Hopkins University (Baltimore, MD U.S.A) 大学院修了後、山形大学理学部(数学科、数理科学科)助手、電気通信大学電気通信学部 システム工学科教授、同大学大学院情報理工学研究科総合情報学専攻教授を経て、2013年4月より現職。主な著書に「線形代数学講義」(培風館)訳書に「楕円曲線論入門」(丸善出版)ほか

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東京理科大学は、神楽坂の落ち着いた
雰囲気の中にある
院生が1・2年の学生の質問に答える
数学科の「相談コーナー」

数学が社会を変える時代が来ている

――今回紹介するのは「整数論」、中でも「代数的整数論」を専門とする東京理科大学の木田雅成教授。整数論とはどのような分野なのかを聞いた。

整数論は数学の中で最も基本となる数の性質やそれに関連する構造を研究する分野です。数学では、感覚的にわかっているようなつもりでいることも、つきつめるとわかっていないことがたくさんあります。例えば素数が無限に多くあることは高校生にもわかりますが、その分布を調べるのはとても難しいのです。古くからの未解決問題をはじめ、研究テーマはたくさんあります。

数学の対象は、はじめて出会うときには、しばしばつかみどころがありませんが、しばらくそれとつきあっていくうちに輪郭がはっきりしてきて、その概念の本質が少しずつ見えてきます。そうやって対象が身近になってくると、より深く知りたい、わからないことをわかりたいというふうになり、数学の研究が始まります。自分で考え、これまで知られていないことを発見するのは、それがどんなに小さなことでも最大のよろこびです。学生時代はその魅力にとりつかれ、ほんとうによく勉強をしたと思います。もっとも今はもっとゆっくりとしたペースですが。

以前、数学は実世界と接点が少ない分野と思われていましたが、最近は応用分野との関連も深くなってきています。例えば、私の専門である整数論でいえば、インターネットで使われる暗号技術は多くのものが整数論に基礎をおいています。中には現代数学の最先端に近い数学を使った技術もあるのです。もちろん、そのような工学的な応用を直接に目指している数学者は多くはないでしょうが、これまでの歴史を振り返ると、よい数学はかならず他の分野にも広がりが出てくるものだと思います。このように現代では数学が様々なテクノロジーの基盤になっています。そう考えると、大学の数学科で数学を学んだ学生が社会で果たす役割はどんどん大きくなっています。数学が社会を変える時代になっているといえるかもしれません。

隣接の近代科学資料館には、「東京物理学校」の
貴重資料が常設展示されている

「わかる」ことの楽しさを体験

――木田教授が東京理科大学で教鞭をとるようになって3年目。同大学の校風に、どのような印象を持っているのか

まず思うのは、まじめな学生が多いことですね。授業にきちんと出て、課題をしっかりこなすというタイプが多いです。都心にあるせいか、わりとおしゃれな学生も多い気がします。先生方も教育熱心ですね。他の大学に比べても、長い時間を学生に向き合って過ごしている印象です。私が学生だった頃の数学科は、男子が圧倒的に多かったのですが、東京理科大学の数学科は女子学生も多いです。全体の15〜16%は女性が占めているのではないでしょうか。数学科には女性の専任教員も2人います。

――授業で大事にしていることは

ひとつは「わかる」ことの楽しさを体験してもらうこと。特に1・2年生の授業では、できるだけ具体的な例を通じて数学の対象に親しめるように心がけています。数学科では、高校の数学と比べてより一般的、抽象的な対象を学びます。1・2年生の間に身につけるべきことがたくさんあります。「高校で学んだ数学と違う」と、一種のカルチャーショックを受ける学生もいますが、そこで数学が嫌いになっては困ります。ちゃんと勉強を進めて、3年生、4年生になると視野が広がって、数学は俄然面白くなるのです。それには1・2年の授業できちんと知識や方法論を身につけていることが必須です。学ぶことが多くて大変ですが、そこを乗りこえれば、新しい世界が見えるようになります。数学が好きでこの学科を選んだ学生なのだから、数学が好きなまま卒業してほしいと思います。授業についていけない学生を一人でも減らすために、数学科では大学院生が1・2年の学生の質問に答える「相談コーナー」のシステムもとりいれています。

――東京理科大学は、8学部33学科を有する日本を代表する規模の理工系総合大学。東京物理学講習所(後の東京物理学校)を前身とし、自然科学教育を施す私学として長い歴史を持つ。「理学の普及を以て国運発展の基礎とする」が建学の精神で、教員養成に伝統のある大学だが…

確かに教員を目指す学生は多いですね。私としても質の高い教員を輩出するのは、日本の未来、数学の未来にとって非常に大切なことだと思います。履修科目も多くて大変でしょうが、なるべく教員免許はとってほしいですね。そして、教員志望の人も、できれば修士課程に進学してほしい。現在、高校の理科教員のほとんどは大学院卒。数学も教育のレベルを向上するためには、大学院卒の教員がもっと増えてほしいと思うからです。大学院での勉強はよりいっそう自発的なものになります。「どうすれば問題が解決できるか」を深く考えます。そこで自分で数学を考える楽しさをぜひ体験してほしいのです。まさに「考える楽しさ」を次世代に伝えるのが数学の教員の使命であると考えれば、なるべく多く、大学や大学院のときに実感してほしいと思うのです。

木田教授の著作など

数学は究極のスローリーディング

――木田教授が授業で大事にしているもうひとつのことは、「自発的に学ぶ姿勢を身につけさせること」だという

大学では学問の知識・技術を身につけるのが第一の目標ですが、それ以上に大事なのは「自分一人の力で本を読み、考える力を身につけること」「他人にわかるように丁寧に説明する能力を身につけること」、「わからないことを考え抜く姿勢を身につけること」。これは社会に出て知的な生業に携わる人の必須の能力ではないでしょうか。前に言ったこととも関連しますが、ただ鑑賞するだけの姿勢では、数学の楽しさは味わえません。自分で手を動かし,考えることで数学がわかってきて楽しめるようになるのです。大学で数学を真剣に勉強すると、自分で本を読んで自分で考える習慣がつきます。これは社会に出てからもきっと役に立ちますし、自分の人生も豊かにしてくれることと思います。

――学生がよりよく学ぶために、自身のHPでメッセージを送っているという

このHPを読んで、きびしいという人がいるのですが、私から見るとごく当然のことばかりです。例をあげましょう。

「セミナーは受け身で講義を聞く場ではない。ディスカッションをする場であるという認識がまず必要。『習う』から『学ぶ』へ意識を転換してほしい」
「発表時に教科書を見ながらやってはいけない(要点をまとめた自筆ノートは見てもよい)」
「セミナーの前日は夜更かし等を控え、セミナー中は集中できるように 心がけること」
「セミナー中は携帯電話等にさわるのを我慢せよ」

あたりまえじゃないですか?

インターネットの影響で、膨大な情報をスピーディに処理することはわりあい上手ですが、逆にじっくり考えることが苦手な学生は多いように思います。目がすべっているというか、文章を読んでも表面の意味だけをすくって、それで理解したつもりになっている学生が多いような気がするのです。私も自分で実感するのですが、インターネットで検索した情報ってなかなか頭に残りにくいんですよ。すぐ忘れてしまう。そういうやり方ではなにかが「身につく」ということがないのではないかと思います。数学の本は、1行1行をよく理解しないと次の行に進めない。速読の真逆、究極のスローリーディングといえるでしょう。社会に出ればスピードが要求される場面も多いのですが、せめて大学にいる時間ぐらいはじっくり読み、考える経験を積んでほしい。その経験は、社会に出たときにきっと役に立つはずです。

こんな学生に来てほしい

好奇心と挑戦する心を持った学生に来てほしいですね。未知のものに出あったときに、それが理解不能に見えても、そこであきらめてしまうのではなく、好奇心を持って探求する学生ですね。まさにそれが数学をする資質なのだと思います。


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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。