早稲田塾
GOOD PROFESSOR

千葉大学
文学部

柴 佳世乃 教授

しば・かよの
1998年3月、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士課程(比較文化学専攻)修了。日本学術振興会特別研究員を経て、2001年より千葉大学へ着任。助教授、准教授を経て、2008年より現職。著書に『読経道の研究』(風間書房)がある

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春の雨に包まれる千葉大学正門
柴教授の著書『読経道の研究』
(風間書房、2004)

新しい発見が尽きない中世文学の現場

――法要で読まれるお経といえば、ひどく淡々とした単調なもので、意味もわからずつい眠くなってしまう……そんなイメージを持つ人は多いのではないだろうか。そのお経が、節をつけてうたわれ、貴族の間で広く芸道として流行していた時代があったという。それが、今回紹介する千葉大学文学部の柴佳世乃教授が長年研究に取り組んでいる「読経道」だ。

日本における中世の説話文学を研究していく中で、あるとき、とくに法要の中で法華経を読むという行為が、かつて芸道としてあったということに気づきました。それは平安末期から鎌倉時代にかけてのことです。読経にある特定の節がつき、音曲となり、それが発展して師資相承の血脈ができ、秘伝なども生まれます。

また後白河法皇など時の権力者も関わることで、芸能として成長していったことが、当時の説話などの資料からわかります。文学・歴史・芸能・宗教と、当時の諸相を読み解くための様々な要素がギュッと濃縮されていることが大変面白く、研究の大きなテーマとしています。

資料は古くからの寺院に保存されていることが多いので、ひたすら「資料を見せていただけないか」とお手紙を書き、許可をいただければ、カメラと三脚を担ぎ参上します。由緒ある寺院との信頼関係を築けるかどうか、自分が試される場面でとても緊張しますが、そこで拝見できる資料は本当に面白く、ときには偶然、求めていたものに出合えることもあります。そのときの喜びを知ってしまうと研究は本当にやめられません。知れば知るほど新しい発見があります。

もちろん、その資料自体は私が見つけたものというわけではなく、今までにいろんな人の目に触れてきたものです。しかし一文一節を読むことで「あの文学作品の、あの一節はこういう意味なんだ」「こういう文脈で読み解けるんだ」という発見がある。頭にアンテナを張り巡らせていれば、自分なりの新鮮な気づきがいつでもあります。そういう意味で、研究しつくされることのない分野であると感じています。

キャンパスは緑にあふれており取材日は
八重桜が咲いていた。

講義で何かを感じ取り持ち帰ってほしい

――今後は、発見したことを自分の内だけにとどめることなく、その面白さを発信していきたいという柴教授。研究者とリアルタイムでその第一線を共有できるのが大学の醍醐味であるという考え方から、学生にも成果を伝えるよう努めているという。そんな柴教授が担当する授業の特色について伺った。

授業は大きく分けて講義と演習があります。講義は自分の専門に関わることを硬軟まじえて行っています。文学史や基礎講読といったオーソドックスなものとは別に、作品を提示して読み解くという講義もあります。作品は絵巻物や声明など毎年変わり、一度として同じ内容で講義したことはありません。学生にはコメントカードを提出してもらいます。講義は90分間、じっと座って話を聞くものではありますが、その中で何か一つでも感じ取り、持ち帰ってほしいのです。

「伝統文化をつくる」で創作した狂言の
パンフレット

主体性を重視した授業で考える力を育てる

演習は、自分で読み、調べ、レジュメを用意し、発表し、議論する。この流れを徹底しています。会社でのプレゼンテーションに直結するトレーニングですから、まともに取り組めば、どこに行っても通用する社会人になれると確信しています。他人の話の受け売りではなく、自分で深く考え、研究の王道を踏まえ、自分なりの結論を出し、他人にわかるように発表する。

参加者は学年や年齢に関係なく、真摯に議論する。人文学を学ぶ人にとって、こういったことができる演習は必ず将来の武器になりますから、大事にしたいところです。

演習では全員が必ず一度は口を開くよう指導しています。どんな感想でもいいので、他人の話を自分がどう受け止めたか、その理由は何かなどを言葉で表現できるようになってほしいのです。自分で考え表現したことは、自らのストックになりますから。私自身、学生が気軽に発言できるような楽しい雰囲気を作り出せるよう、努力しています。

――幾人かの先生が共同で担当する講義があるとも聞きましたが

全学部の学生がとれる普遍教育科目として「伝統文化をつくる」という授業を共同で担当しています。和泉流の狂言師に指導していただき、千葉県の伝承を題材とした創作狂言を制作するというものです。パフォーマンスという実習形式ですから、物事を自分なりに調べ、きちんと考え、捉え直して表現するという意味では究極の形です。真っ向から課題に取り組めるかどうかが試される授業です。

こんな学生に来てほしい

物事を主体的に楽しむことができる人。色々なものに目を向け、楽しんでそれに取り組み、自主的に考える人が今後ますます求められていくと思います。ぜひ自ら手を伸ばして貪欲にチャレンジする姿勢を持っている人に来てほしいです。そして、一緒に活発な議論を楽しみましょう。

文学は実学ではないという単純な観点から、よく「役に立たない」などといわれる傾向にありますが、私自身は人生においてこれほど役に立つ学問はないと考えています。過去の著作から様々な人生に触れるわけですから、先人からたくさん学べばよいのです。歴史の教科書に出てくるような偉人も、全く知られていないような人も、等しく人生に悩んでいました。色々な人生の光も影も、丸ごと捉えていくことで、迷える現代の指針になるのではと思います。また、一つのことを突き詰めれば、いろんな方法や思考の軸が鍛えられるので、それがちゃんと身につけば社会でもかなり通用する応用力が備わります。

高校生のみなさんは「○○になりたい」といった、職業を限定した夢を持っているかもしれませんが、その通りになるとは限らない。でも、「こういう生き方をしたい」という夢は、必ず叶えられると私は思っています。それには、なりたい自分をどのくらいイメージできるかにかかっているでしょう。



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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。