早稲田塾
GOOD PROFESSOR

日本女子大学
人間社会学部 教育学科

田中 雅文 教授

1954年兵庫県生まれ。東京工業大学工学部社会工学科卒業。同大学大学院修士課程理工学研究科社会工学専攻修了。博士(学術)。1980年より三井情報開発(株)総合研究所。1989年から国立教育研究所(現国立教育政策研究所)の研究員。1997年、日本女子大学人間社会学部助教授。2002年より現職

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ゼミの風景。活発な議論が展開される

ボランティアやNPO活動を支える「学び」

——今回ご紹介するのは、生涯学習(生涯教育)の研究者でありながら、自然保護などのボランティアやコミュニティづくりの実践に関わっている田中雅文教授である。ボランティアや市民活動を通した「学び」が、人生をどのように豊かにしていくのかについても伺った。

大学の授業は2つ受け持っています。まず、200人規模のもので「生涯学習概論」。これは大人数なので講演みたいな感じですね。生涯学習の基礎を学ぶものです。ボランティアの様子などの映像を、毎回流すようにしています。年15回のうち2回はゲストティーチャーにも来てもらっています。また、200人規模とはいっても双方向性は保ちたいと思っているので、学生には毎回振り返りシートを書いてもらい、その疑問に授業で答えるようにしています。あとはマイク持って教室を回り、学生に話してもらったりなどもしています。

この基礎的な授業からステップアップしたのが「生涯教育計画」。30〜50人規模で、学外にも見学に行きます。実際の公民館での活動を見学したり、グループに分かれてワークショップをしたりと、かなり多様な授業を展開しています。また、実際に生涯学習に関わっている方から話を聞いて問題点を投げかけてもらい、それを学生同士で話し合ったりも。話し合いの多い授業ですね。

そしてゼミを持っています。昨年、国内研修のためゼミを持てなかったので、現在は3年生だけ9人。学生主導でテーマを考えてもらい、発表して議論する形式です。じつは教育学科は少人数制を維持するために、今年度はゼミの人数を1学年当り9人に制限しています。そのため卒論の内容については、担当教員以外にも質問ができるシステムになっているのです。教員同士の横のつながりがしっかりしているからこそできる制度でしょう。教員が協力して学生を育てているのです。

小学生を対象として森の活動で説明をする田中教授
西生田キャンパス正門

ボランティアが自分の人生を豊かにする

——先生はボランティア活動や市民運動でも活躍していらっしゃいますが、そうした活動を学生にはどのように伝えているのでしょうか。

学びと人のつながりについて、私が体験したコミュニティ活動やボランティア活動と絡めて話すようにしています。私は、武蔵野にある雑木林「独歩の森」を保全するためボランティア組織「武蔵野の森を育てる会」の代表を務めたり、それ以前には埼玉県所沢市の「おおたかの森トラスト」に加わって森の保護運動をしてきました。そうした経験を伝えるだけではなく、こうした活動が報じられた映像資料を見せて、生涯学習の理論の事例として使っています。具体例から理論を学ぶ形式ですね。



——学生の反応はいかがですか。

最近の学生はボランティアやNPOに対して、非常に高い関心を示します。レポート提出でも、自身の考え方をしっかりと書いてきます。ただ、自然保護に対する反応は、それほどでもないのですが(笑)

社会貢献に関心のある学生は増えていますし、給料や待遇よりも社会貢献できるかを基準に就職先を探す学生も出てきています。ただ、社会貢献できる組織をつくるには、「学習」が必要になってきます。学校教育以外の社会に広がっている学びが、そうした活動の支えになっているからです。実際、地域づくりは生涯学習論でも扱う内容です。学びを追求することが、地域の発展やコミュニティの活性化につながるのです。

私の住んでいる武蔵野市は、町内会をつくらずにコミュニティセンターを中心に、開かれたコミュニティをつくる政策を掲げています。実際に理想にかなり近いコミュニティもできあがっています。そうしたコミュニティのバックグランドを紐解いていくと、地域住民の学習会に突き当たるのです。行政職員が支援しながら、市民が主体的に学び合える仕組みをつくった時期があったのです。そこで住民が地域課題を考えてきた。例えば子どもにとって、どんな公園がいいのかを調査して報告書を出す。そうした活動を通して、人とのつながりの促進や地域問題の解決に役立つ能力や感覚を、住民が磨いていったのです。

人は社会に組み込まれて生きていくのではなく、自ら持っているものを生涯にわたって個性的に発達させて、自分の人生を豊かにする。1965年にユネスコが提唱した、このような考え方が生涯学習の根本にあります。

また、生涯学習を考える上で重要なことの一つは、個人が豊かになることと社会が豊かになることがリンクしていることです。じつは私のゼミの卒論で最も多いのが、ボランティア活動を通した意識変容です。社会のためのボランティア活動が、自分の意識の成長につながっていくという研究です。

しかも、このような卒論を書くことで、学生は成長します。卒論でインタビュー調査をすることで、相手から人生観を学ぶのです。その意味で卒業論文の半分は人生勉強なんです。

高校生にも読みやすい
『ボランティア活動をデザインする』(学文社)。
もっと詳しい内容を知りたいなら
『ボランティア活動とおとなの学び』(学文社)を

手応えのあるものを研究に

——先生が代表を務めている「武蔵野の森を育てる会」の活動についても教えてください。

都立武蔵野青年の家という施設のあった土地が売りに出される可能性があったとき、地域の主な団体の方々が結集して1万7000人の署名を集めて市に買い取ってもらいました。現在、私たちの団体「武蔵野の森を育てる会」がその土地に生態系の豊かな森(雑木林)を育てようとしています。また、それに隣接する古い雑木林「独歩の森」も、私達の保全の対象になっています。雑木林の維持方法の理想は、萌芽更新といって、7〜20年ごとに木を伐採し、その切り株から生えてきた芽を育てていく方式です。もともと里山の木は薪や腐葉土として使うためのもので、伐採するのが当たり前でした。その結果、草原のような下草の生えた林から、大木茂る暗い森まで、さまざまな生態系を持つようになったのです。

現在、木を伐採することが雑木林に必要だという意識が一般的ではないので、シンポジウムなどを開催して市民の方々に学んでいただく場を提供しています。じつは清瀬市や福生市、国分寺市などでは、すでに萌芽更新で雑木林を維持しています。


——ボランティア活動を始めた理由を教えてください。

私は東京工業大学で社会工学を学びました。高校時代から社会をよくしたいと思っていたので、社会問題を工学的に考えて解決する学問に強く惹かれたのです。その後、修士課程まで終えてからシンクタンクに就職。激務をこなしてきたのですが、国立教育研究所に転職して時間ができたときに、娘が小学校に上がりました。やや時間に余裕ができた私は地元の自然保護団体にお願いして、子ども会のために月1回の自然観察会を開催するようになりました。それが自然保護運動に関わるきっかけでした。



——そうしたボランティア活動を通じて、何か変化はありましたか。

大きく変わりましたね。まず、いろんなものが許容できるようになりました。意識の上で包容力がついたというのでしょうか。それに物事を進めるための力がつきました。人が人とともに生きること、人が自然とともに生きることを学んだと思います。コミュニティでみんなで生きていく感覚が、自分で育ってきています。そうした世界観を持つことで、人生が豊かになりました。

ボランティア活動を始めるまでは、社会を変えたい気持ちはあっても、濃密な人間関係や具体的な生活に触れないで生きてきたという感覚があったのです。だからこそ実態があり、具体的なものに取り組みたいという想いがあったのだと思います。グローバルな方向に研究を発展させていく人もいますが、私は研究がどんどん地元に向かっています。しっかりと手応えのあるものから研究を積み上げてきた、そんな感じがします。


——学科についても教えてください。

学科に所属するほとんどの学生が教員免許を取ります。教員採用試験を受けるのは半分ぐらいでしょう。幼稚園と小学校です。1年目には落ちる学生も少しはいますが、2年目にはだいたい合格します。そういう意味では教員志望者の達成率は、ほぼ100%なんです。これはすごいことだと思います。また、教員以外の志望を持つ学生についても、少人数教育で教育学をしっかりと学べる環境が揃っていると思います。

こんな学生にきてほしい

社会の問題に関心がある人。ボランティア、コミュニティ活動に関心のある人にゼミに入ってもらえればと思います。ただ、入学したときには潜在的な興味しかなくて、授業を聞いて関心を持った学生も多いのです。

ゼミ生の中には、学生のときから国際ワークキャンプの学生リーダーをしていて、民間企業に就職した人がいます。その会社が生涯学習施設の管理を受託することになり、担当者に抜擢されてその責任者になっています。何らかの形で生涯学習に携わっているのは、私としても嬉しいですね。


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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。