早稲田塾
GOOD PROFESSOR

明治大学
文学部 心理社会学科 臨床心理学専攻

高瀬由嗣 准教授

たかせ・ゆうじ 

名古屋市生まれ。早稲田大学卒。一般企業勤務をへて、中京大学文学研究科博士後期課程心理学専攻単位修得退学。博士(心理学)。臨床心理士(1996年取得)。1999年北海道医療大学看護福祉学部専任講師。2002年北海道医療大学心理科学部専任講師。2007年より現職。日本ロールシャッハ学会常任理事。 

おもな著書に『臨床心理学の実践-アセスメント・支援・研究』(共著・金子書房)『Rorschach Data System(RODS)(アプリケーション・ソフトおよび「操作ガイド」(共著・金子書房)がある。 

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高瀬研究室の入る駿河台キャンパス「研究棟」
高瀬研究室の入る駿河台キャンパス「研究棟」

科学的な心理アセスメントのための基盤研究

――今週は明治大学文学部心理社会学科臨床心理学専攻准教授の高瀬由嗣先生にご登壇ねがうことにした。高瀬先生の専門は、「心理査定における科学的基盤の検討」だ。

わたしは臨床心理学のなかでも、投映法性格検査を中心とした心理査定(心理テスト・心理アセスメント)について研究してきました。これら検査の科学的基盤の検討を専門としています。さらには各種心理査定手法をもっと活用して、単なるパーソナリティ査定ということだけではなくて、これを応用しての援助・支援・エンパワメントというものに活用できるのではないかということをずっと模索してきました。

臨床心理学の立場でいうところの査定アセスメントというのは、広く人々のパーソナリティ性格特徴とか行動特徴とか、あるいは知能について包括的にとらえていきます。どんな人間にもある、社会的に適応している面・不適応な面それら全部を含めてその人を包括的にとらえていく。それこそが心理アセスメントの立場なのです。

――今年9月に「公認心理師」という国家資格が法定化されるなど、心理の専門家やカウンセラーの役割が強調される一方で、精神メディカル領域との連携がうまくいかないなどと指摘されて久しい。そうした事態を打開する意味でも、心理アセスメントをより客観的な分析法・解釈法にしていくための高瀬先生らの研究が果たす役割は大きいといえよう。高瀬先生が臨床心理学の分野に興味をもったキッカケは早稲田大学で社会学を学び、いったん一般企業に就職してからの職場体験にあったという。

当時バブルの時期でしたが、そのぶん心を病んで離職していく人とか、職場ストレスで長期休職するような人々の姿を目の当たりにしまして、こういう人々に何か役に立つようなそういう仕事はできないのだろうかと思うようにもなりました。いわゆる労働者のメンタル不調というところに関心と問題意識が出てきたわけですね。そこでサラリーマンを退職しまして、臨床心理学に定評のある地元の中京大学の大学院へと進学しました。

つまり、社会人をへて大学院で初めて臨床心理学を本格的に学んだということになります。大学院生のころから、統計学に基づいたロールシャッハ・テストの分析法・解釈法を研究してきました。それが後の「RODS」(ロールシャッハ・データ・システム)というデータベースソフトの開発にもつながっています。

ゼミ用教室もある象徴的な「リバティタワー」
明治大駿河台キャンパスの建物群

ロールシャッハ・テストの定番ソフト「RODS」の開発者

――ロールシャッハ・テストとは、インクのシミの広げたものが何に見えるのかということを被験者に見て答えてもらうお馴染みの投映法心理テスト手法のひとつ。そのロールシャッハ・テストの見え方の類型によって被験者の個性とか病理が見えてくるということで、古くから現在まで世界中で臨床心理の場で広く使われてきた。

ロールシャッハ・テストの臨床現場においては、それぞれ被験者が何に見るのかを聞いてそれを全部記録し保存していくわけですが、その後の処理は意外に大変でした。答え方を一定の約束事のもとに記号に乗り置き換えていく作業、これはとくに専門的な仕事でもないのですが、手計算ではミスが発生しがちですし、とにかく面倒なのですね。わたしが文部科学省日本学術振興会の科学研究費補助金を活用して開発したRODSというデータベース解析ソフトは、そういう手計算の部分の手間を省くことが第1の目的となります。

一人ひとりのテストデータを積み重ねていくと、ある特定の病理的パーソナリティを持っておられる方はその人に特徴的な答え方というものが見えてくるようになります。いまは珍しくもないのですが、先鞭をつけた収集分析ソフトとして評価され、いまも臨床現場で多く使われてありがたく思っております。こうして答え方のデータベースをどんどん蓄積していくと、個別の調査時点では気づかず見逃していた事実が俯瞰できることもあるのです。

――高瀬先生自身の今後における研究テーマについては……

これまで心理検査アセスメント全般に関心を持ってきたわけですが、最近はロールシャッハ・テストだけでなく、児童用の知能検査にも関心を持つようになり、新たな児童用の検査手法開発に向けたオーストリア・ウィーン大学の先生との共同開発プロジェクトに携わっております。研究室の大学院生諸君の協力も得つつ、将来的には児童用の知能検査に向けて新たな発信ができるのではないかと大いに期待しております。なんとか数年のうちには形にしたいなぁと思っているところです。

――明治大学文学部は文学科・史学地理学科・心理社会学科から構成され、このうち心理社会学科は臨床心理学専攻と現代社会学専攻に分かれている。高瀬先生が担当される講義科目は……

かつては文学部全体あるいはどの学部でも選択できる科目を担当していたこともありましたが、いまはすべて臨床心理学専攻(定員50名)だけの対象科目を担当しています。具体的には「心理査定論」という専門科目と、実習関係では「臨床心理学実習」という科目、そして少人数のゼミ演習ですね。4年次の卒業論文もうけおっております。

このうち「臨床心理学実習」というのは、半期ごとの実習A・実習Bという形で、1年間をかけて心理テストやカウンセリングなどの実習をやります。カウンセリング実習では、たとえば「ロールプレイ」といって学生にさまざまな役割を与えて、あるカウンセリング場面を演じてもらう。そうやって実践的にカウンセリングというものを体験するわけです。このほか代表的な心理療法を体験的に学習していただくことにもなります。

――そういう意味では高瀬先生は臨床心理学分野の最先端の研究をなさりながらも、ゼネラリストというべきか幅広く心理学全般分野についても教育を実践しているといえる。

日本では高校時代までに心理学一般について本格的に学ぶようにはなっておりません。ですから1~2年次の間は、臨床心理学に関する包括的なことを学んでいただくことも大切になります。このことは大学としても学部としても学科としても求められているということです。もちろん大学院課程となりますと、もう少し範囲を絞って専門的なことになってきます。

――ところで一般的に就職が厳しいと言われがちな文学部だが、高瀬先生の周囲の学生たちを見ていて、心理社会学科臨床心理学専攻を卒業するときの進路という面ではどういう感想をお持ちなのだろうか。

よく「就職の明治」と言われますが、たしかに政治経済学部とか商学部・経営学部などに比べれば多少とも厳しいところもあります。ある意味で文学部の学生たちは非常にのんびりしているんですよね。それぞれ学問分野の性格もあるかもしれません。ただ他の文学科や史学地理学科などと比べれば少しは肌合いが違うというところもあります。

だいたいの臨床心理学専攻における卒業後就職先の比率としては6~7割が一般企業で、2割が公務員で、のこりの1割が大学院に進んで臨床心理士を目指すというようなところでしょうか。臨床心理学専攻50人のなかで、1学年で大学院進学する者は5~6人となっています。

――昨今の一般企業や役所等でもメンタル不調の労働者への対応に迫られており、メンタル不調対策部門などを充実させる動きも。今後は心理学の専門知識をもつ社員を求めるという流れが勢いを増すことも考えられ、臨床心理学専攻に進んで就職の心配はまずないとも言えそうだ。

駿河台キャンパス前を通る「明大通り」

人間に関心を持っていれば研究テーマは基本自由

――明治大学文学部のゼミ演習といえば、1年次からゼミをうけることが出来ることで知られる。各定員は10名。

1年次・2年次の基礎ゼミに関して現在わたしは1年次のゼミを担当しております。いま臨床心理学専攻における専任の教員が6名で、何年かごとに交替しつつ全員で分担しています。3人ずつに分かれて、うち3人は1年次のゼミ、のこり3人は2年次のゼミという形で担当しています。つまり、1年次のときとは別の先生のゼミを2年次・3年次で取れるということ、これは本学心理社会学科のやり方でもあります。

――ある意味、臨床心理学自体がひとつの統一理論に系統立ったものではなく、非常に幅広い分野にまたがっているので、それに対応した教育体制ともいえるらしい。

こうして2年生までのあいだに臨床心理学における学説や研究方法論や歴史がいろいろとあるということをガイダンス的に学生たちに見せて、臨床心理学の幅広い分野をいろいろ体験させて、3~4年次の専門課程に向けて自らの研究テーマを選ばせることに備えてもらいます。3年次・4年次となるとみんな卒業研究に絡んできますので、ずっと1人の教員について指導をうけることになります。

――ところで高瀬先生は少し前まで文学部教務主任を担当されていたこともあり、文学部全体の入試制度にも明るい。ここで注目の「文学部自己推薦特別入試」のことについてもお聞きしておこう。

文学部のなかには自己推薦以外にも特別入試がいくつかありまして、その中のひとつが自己推薦特別入試です。なかには社会人の特別入試もありますし、スポーツ推薦入試もありますし、編入試験というのもありますし、かつては帰国子女のための推薦入試というのもありました。

文学部自己推薦特別入試の目玉はなんといって1次の書類審査にあたる「自己推薦書」ということになります。この自己推薦書だけで全体の3分の1ぐらいに絞り込みます。自己推薦というのは文字どおり「自分で自分を推薦する」ということなので、特別な何か他人と違う活動をしてきたとか、人とはちょっと違う自分ならではのポイントがほしい。各学科専攻それぞれ例えば臨床心理専攻を希望するのであれば、そこに向けたセールスポイントがあるということは非常に重要になりますね。

――自己推薦入試2次選考における小論文の課題テーマも学科・専攻ごとに毎年違うということになる。臨床心理学を専攻したいということであれば、心理学についてガイダンス的なことは独学で本を読むなりして基礎知識をたくわえておく、1次の自己推薦書も2次の小論文・面接も各専攻の方向性を把握した上で準備しておきたいとのことだ。

この学部学科この専攻を希望するということで何を学びたいという思いなのかは必ずといって良いほど聞かれるはずです。臨床心理学専攻であれば、「なにか感銘を受けた心理学関係の本はありますか」ぐらいはほぼ必ず聞かれることでしょう。心理学の専門的な知識までは要求しませんが、それぞれどういう関心・問題意識を持っているのかどうか、あまりに気概がないのが透けて見えるようでは選抜のしようがないということにもなります。

――最後にゼミをふくめて先生なりの指導方針ついてお話をお願いすると……

あえて「ああだ、こうだ」とあまり細かい指導はしないようにしています。とくに大学院生は余計にそうですが、自主性を重んじるといいますか、自由にいろいろやらせたほうがより良い研究成果を得られるという経験もあります。どちらかというと学生がやりたいように研究をさせています。わたしの専門の世界に持ち込むようなことも、とくに学部生にはほとんどしません。そもそも本学科全体の教学方針とも言えるかもしれませんが、まず実地調査をしたうえでデータを集めていくという研究手法が大半になっていることも関係しているかもしれません。

こんな学生に来てほしい

文学部というのは、どの学科どの専攻もすべて「人間にかかわる学問」の集まりということがいえます。文学だって歴史学だって社会学だって全て人間の営みであり、人間そのものに関心を持っているということが大前提になります。なおさら人の奥深いところまで踏み込む臨床心理学を目指すのであれば、人に興味がないということでは困ります。
さらには最近どうも受け身の姿勢の学生が増えているようにも感じております。そういう姿勢では学問も社会に出ても大成できませんし、そもそも人生自体が楽しくなりません。せっかく大学に入学するのであれば、自らどんどん知らないことを吸収しようという貪欲さや積極的なチャレンジの姿勢のある方にぜひ来てもらいたいですね。


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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。