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GOOD PROFESSOR

実践女子大学
生活科学部 現代生活学科

野津 喬 准教授

のづ・たかし

岐阜県生まれ。京都大学農学部農芸化学科卒業後、1998年に農林水産省入省。鳥獣被害対策室企画官、6次産業化法案検討室企画官、環境バイオマス政策課課長補佐、再生可能エネルギーグループ課長補佐等を歴任。政策研究大学院大学にて博士号(公共政策分析)を取得。

農林水産省退職後2014年4月より実践女子大学に着任。農林水産省「今後の農山漁村における再生可能エネルギー導入のあり方に関する検討会」副座長や経済産業省・環境省・農林水産省「J—クレジット制度認証委員会」委員なども務める。

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農村でのフィールドワークには、現代生活学科の
学生が参加し、若い女性農業従事者の取り組みなどを
ヒアリングした

ニッポン農業の未来に挑む「現代生活学」の新地平

――実践女子大学の生活科学部現代生活学科では今年度から、後期授業の「プロジェクト演習」において、省庁との連携のもとで学生たちが地方自治体に対して政策提案をしていく「課題解決型授業」をスタートさせた。その指導を一手に担う野津喬准教授は、京都大学で農学を学んだあと1年半前まで農林水産省の官僚だったというキャリアをもつ。農学から官界そして教育界へと、転身を遂げた理由について冒頭からお聞きしてみた。

高校時代にバイオテクノロジーの将来性に高い関心を持ったので大学は農学部へと進んだのですが、大学時代、授業以上に多くの時間を費やしたのはボート部での活動でした。選手としては体格面で限界を感じたので途中からマネージャーになり、部の組織運営を担うようになりました。さらに関西学生ボート連盟の幹部に選ばれ、いろいろな大学と協力しながらいくつかの大きな試合を企画・運営する経験もしました。そうした活動を通じながら徐々に、「自分は研究よりもさまざまな立場の人の意見を吸い上げて大きな組織で‘仕組み’を構築するような仕事が向いているのでは」と思うようになりました。

そこで卒業後、農林水産省へと進みます。農林水産省では農学部出身の場合、そのバックグラウンドを生かして農業生産や研究開発に関連する仕事を担当することが多いのですが、わたしの場合は様々なめぐりあわせで、農業と農業以外の分野が交錯する「境界領域」に関する仕事を数多く担当することになりました。

――農水省時代には農業にかかわる画期的で重要な法案をいくつも担当し、大きなやりがいを感じていたという野津准教授。それがまったく畑違いともいえる教育界へと転身していった理由とは……

ひとつは、短期間で重要な案件を立て続けに担当させていただいたことで、ある種の達成感があったことです。あまりに密度の濃い仕事が続いたため、農水省官僚として退職までに経験できることを100とすれば、90くらいの仕事は経験させていただいたように自分では感じていました。もうひとつは、若手の部下を指導する機会が多くなる中で、「自分の知識や経験を若い世代に対してもっと幅広くフィードバックしたい」という思いを持ちはじめていたことです。そんなときに実践女子大学で教員を公募しているのを知り、応募したわけです。

参加した学生は大手ハンバーガーチェーンに
卸しているトマトの収穫作業なども体験
自然に恵まれた高台にあって晴れた日には
富士山が見えることもあるという日野キャンパス

学生が農山漁村に政策提案する「課題解決型授業」

――野津准教授が着任した実践女子大学現代生活学科は、1年半前に新設されたばかりの新しい学科だ。いったいどのようなことを学ぶのだろうか。

現代生活学とは、従来「家政学」と呼ばれていた分野の新しい形のひとつで、いわば「生活者目線の社会学」とも言える分野です。あるいは「社会学目線の生活学」と言ってもいいかもしれません。現代社会で取り組まなければならない諸問題を総合的・横断的な視野で解決できる人材の育成を目的とし、「環境」「メディア」「自立」を軸に教育を展開しています。

わたしが担当しているのはそれらの中の「自立社会」分野です。現代の生活に密着した問題について考える分野なので、座学では限界があります。そこで1年次からアクティブラーニングを目的とした「プロジェクト型」の演習科目を取り入れているのです。農山漁村の地域活性化をめざし、関東農政局と連携しつつ今年9月から実施している「課題解決型授業」もそのひとつです。

――授業内容としては具体的にどのように進めているのだろうか。

関東農政局の協力のもと、地方自治体から提示された課題に対して独自の調査・分析をして、来年1月の授業で学生による政策提案をする予定です。なお、関東農政局が女子大と連携してこのような取り組みをするのは初めての試みとのことです。とは言っても、何の素地もない学生にいきなり政策提案をさせるのは難しいのも確かです。

そのため第1段階として、学生に農業・農山漁村の現状を知ってもらうため、この8月に群馬県下(昭和村・川場村・沼田市)の先進的な農業現場を訪ねてフィールドワークと意見交換会を実施しました。それぞれ収穫したブドウでワインをつくり販売しているワイナリーやレストラン・観光果樹園など、新たな農業ビジネスを展開している企業や施設を見学し、また実際にトマトの収穫を体験したりもしました。また新規就農者や女性農業者との意見交換も行いました。

フィールドワーク実施前の学生アンケートでは、「地方(農村)に親近感を抱いている」と答えた学生はわずか3割以下でした。ところがフィールドワーク終了後にはその割合が8割以上に増え、学生からは「農業に関してこれまで『汚れる』『疲れる』というマイナスイメージがあり、自分でやってみようとは思っていなかったが、今回のフィールドワークを通じて将来の職業選択のひとつとして候補に入れてもいいかなと思うくらいにイメージが変わった」「自分たちとそれほど年齢の変わらないような方々がさまざまな工夫をして農業を営んでいることを知り、若くても女性であってもやる気さえあれば成功できることがわかった」などの感想が得られました。

このような下準備を踏まえて今年10月の講義において、群馬県昭和村の堤盛吉村長から学生へ「『元気な昭和村』構想を実現するための提案をしてほしい」という課題を提示していただきました。現在は少人数のグループで、学生が興味を持った点を深掘りしたり討論し合ったりする作業に入っています。学生には11月に関東農政局の担当者の前で中間発表をしてもらい、企画をブラッシュアップしたうえで、来年1月の授業で昭和村に対して最終的な政策提案をする予定です。

キャンパス内いたるところに休憩スペースが
設けられ、学生同士のコミュニケーションに
役立っている

若き日の挫折の積み重ねが一生モノの血肉となる

――何度もディスカッションとプレゼンを繰り返す理由については……

本学の女子学生たちは真面目すぎるくらい真面目ですが、人前で意見を言うことに苦手意識をもつ人が多いようにも感じられます。社会に出ればどんな分野でもコミュニケーション能力は必要となりますので、ここでの演習を通して出来るだけそういったことに慣れてほしい。農水省時代に若手職員を見て感じたことでもあるのですが、最近の若い世代は失敗を怖がる傾向が強いように思います。

でも学生時代は社会人と違って、何度でも失敗できるのが一番の特権です。ディスカッションやプレゼンを何度も繰り返すのは、そこで他者の目にさらされ、ときには厳しい指摘を受けることで、むしろ小さな挫折体験を数多く積んでほしいと考えているからです。学生にとっては、こうした経験の積み重ねが一生モノの血肉になると思っています。

――実践女子大学内には「学生による授業評価」システムというものがあり、今年度から新たに創設された「ベスト・ティーチング賞」の第1回受賞者には野津准教授がみごと選ばれた。どのような点が学生に評価されたのかご自身にうかがってみると……

わたしは大学教員としては、わずか1年半の経験しかありません。まだまだこれから勉強していかなければならない身です。ただ、そんなわたしの授業を学生がわかりやすいと受け取ってくれたとすれば、それは農水省時代に多岐にわたる分野の人々に政策を説明する経験を積み重ねてきたことが関係しているかもしれません。

例えばひとつの法案を立案して法律として作り上げていくためには、さまざまな立場の人々の理解と協力が必要であり、そのために多方面に説明にうかがう機会が多かったのです。たとえ同じ内容の説明でも、国会議員に説明する場合、他の省庁に説明する場合、農家の方に説明する場合とでは、相手にとってわかりやすいように説明の順序や用語の説明、話しぶりを切り替えなければいけません。つまりどのようにすれば相手に伝わるのか、ときには失敗もしながら経験を積んでいたことになります。それがいま役立っているのかもしれませんね。

わたしは幸いにも素晴らしい上司や同僚・部下に恵まれ、農水省で充実した仕事をさせていただきました。退職後も農政に関する委員会や研究会に呼んでいただく機会が多く、いまも行政とさまざまな面でつながりを持たせていただいています。そうした最前線の知見を大学の授業にフィードバックできていることも大きいと思います。

だれでも人生は常に学びの連続ですが、わたし自身の経験から、人生キャリアのかなりの部分は「時の運」に左右されるとも思っています。しかし完全に運任せではなく、自ら学ぶ姿勢を保ちつづけて自分の能力を高めていくことで、自身の意図に反して運命に「流される」リスクを減らすことはできると感じています。

わたしは農水省時代、多忙な業務の合間をぬって研究時間を捻出し、博士号を取得しました。わたしがいくら「自分の知識や経験を若い世代に対してもっと幅広くフィードバックしたい」という思いを持っていたとしても、博士号を取得していなければ大学教員という今の仕事に就くことはできなかったでしょう。学びつづけて努力を重ねるほど人生で自らの思いをかなえる選択肢が増えていく――そういうことも若い人たちに伝えていきたいですね。

こんな学生に来てほしい

多少の学力の高低よりもチャレンジ精神を秘めている人、好奇心を持ってとにかくいろいろやってみようという人に来てほしいですね。大学に入る段階の年齢で、すでに人生の目標がはっきりしている人は少ないでしょうし、それはそれでいいと思っています。いろいろな学びを経験するなかで自分の将来を考える。そのための素材を提供する場所こそが大学であり、学生それぞれの好奇心を満たし、視野を広げる手伝いをするのが大学教員の役割ではないでしょうか。本学現代生活学科では、わたし以外の先生方もさまざまな新しい取り組みをしています。好奇心の強い方には面白い学科だと思いますよ。


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