早稲田塾
GOOD PROFESSOR

法政大学
現代福祉学部 大学院人間社会研究科

眞保 智子 教授

しんぼ・さとこ 

法政大学大学院社会科学研究科経営学専攻修士課程修了後、群馬女子短期大学・高崎健康福祉大学短期大学部で教鞭をとり、2007年より高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科准教授。2014年より現職。博士(経済学)精神保健福祉士。2015年10月より 群馬県教育委員会委員長を務める。 

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秋晴れの多摩キャンパス校門付近。
経済・社会・現代福祉・スポーツ健康学部
および各大学院生が学ぶ

障害者を戦力化するキャリア形成研究

――わが国の常用雇用労働者数50人以上の事業主は、障害者雇用促進法が定める障害者雇用率制度により法定雇用率以上の割合で障がい者を雇用する義務がある。2012年度に改正され引き上げとなった法定雇用率は、民間企業で2.0%。50人に1人の割合。その雇用率を満たさなければ納付金の支払い義務が生じる。しかし実際に法定雇用を達成している企業は半数に満たないという(厚労省調べ=http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11704000-Shokugyouanteikyokukoureishougaikoyoutaisakubu-shougaishakoyoutaisakuka/0000066519.pdf)。こうした実態には企業側にもさまざまな事情があろう。しかし適切な労務管理や業務についての合理的配慮がなされれば、障がい者も健常者と同じように戦力になるはず。その実例についてNHK「クローズアップ現代」で示すなどし、障がい者のキャリア形成研究の第一人者と目されているのが、今回ご登場ねがう法政大学現代福祉学部の眞保智子教授だ。

わたしの元々の専門は労務管理や人材開発で、修士論文のテーマは、IT技術者の技能形成についてでした。とくに障がい者の労務管理や能力開発について研究を始めたのは06年のことです。しかし当時、障がい者のスキルアップについて研究する向きはほとんどありませんでした。そんななか障がい者雇用について真剣に考える企業が増えたきっかけは、障害者雇用促進法の改正(02年度)にありました。特例子会社による企業グループ全体で実雇用率を算定できるようになったり、障害者就業・生活支援センター事業やジョブコーチ事業が創設されたりなど企業が障がい者を雇用するための支援施策が整っていきました。

障がい者の雇用マネジメントというと特殊な印象を受けるでしょうか。しかし実際に導入しはじめた経営者を訪ねてお聞きしてみると、「フタを開けてみれば、障がい者をマネジメントすることは、健常者のそれと何ら変わらなかった」などとおっしゃる方が多いのです。働く人がやりがいを持ち、ずっとその企業で働こうと思ってもらえるようにモチベーションアップの方策を考えていくこと――このことは障がい者も健常者も差がないわけなのです。

現代福祉学部が入る17号棟を学生食堂から見る

「見える化」しスキルアップの瞬間をとらえる

――障がい者のみなさんの労働といえばずっと単純作業をやっているというイメージも強いが……

健常者よりもずっと集中力が続く方が障がい者の人々におられるのも確かなので、じっさい単純作業にマッチする方々は多いのでしょう。しかし、そういった単純作業が苦手な方も中には当然おられます。そういう方が単純作業に従事すると途中で眠ってしまうようなことも出てきます。そんなときに「業務中は眠らないように」という指導や、「きのう夜更かししましたか?」などと原因をさぐり、日中眠ってしまわないように日常生活を正常化させるような支援はもちろん大事です。」

ただ業務改善の視点で適材適所を見直せば、「この仕事は合わないのではないか」と考え、配置換えをしてモチベーションを上げるなどの方法もあります。たとえばルーティーン業務ではなく、突発的な仕事があったときに力を発揮できるという特性をもつ障がい者の方も中にはおられるのです。そういう方々を集めて「特命チーム」と命名したところ、張り切って仕事をしてくれるようになったという例もあります。

個々の従業員の能力について見極め、よりマッチした業務に就いてもらう。これは日々さまざまな種類の仕事が発生する大規模な企業組織であればあるほど人事担当者が通常やっていることで、これは健常者に対するのと変わりはありません。おのおののモチベーションを保つためにスキルアップしてもらうように仕向けたり、成果があがれば昇給したりすることが大事なのは言うまでもないことです。どうしたら戦力になってくれるのかを考え、働く人に合った仕事の流れの設計について丁寧に検討していくことが我々の役目だとも思っております。

わたしが特に力を入れているのは、「教える」「見習う」をおこなうOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)によるキャリア形成についての調査研究です。
ひとつのスキルに熟達して次のステップに進むとき、その際には必ず先輩や上司からの直接指導があるのが普通です。各人がどこまでできるか、そのスキルは項目を設けるなどして「見える化」されていても、スキルを実務として学ぶ過程であるOJTの実態は、日々の仕事の中でなされているため見えづらいものです。企業現場をフィールドワークして現場を見せてもらうことで、OJTのメカニズムを見出す取り組みをしています。

OJTにより個々のスキルが上がるということは、障がい者の方々にも必ずスキルアップの瞬間があるということです。それが評価されて報酬につながればどんどんモチベーションが上がって、さらに難しい仕事に挑戦しようとする意欲が出てきます。そうしているうちに職場になくてはならない戦力になっていくのです。どの段階でどのような形で評価するか。それが今後、企業の課題になってくると考えています。

晩秋の法政大多摩キャンパス点描

フィールドワークで現場を知りつつ発表方法を磨く

――眞保ゼミの学生や大学院生たちもいっしょに企業現場へフィールドワークへ出向くのでしょうか。

もちろん、学生たちもフィールドワークに参加します。とくに年一回のゼミ合宿では、必ずプロジェクトをひとつ立ち上げ、細かいスケジュールや段取りなどはすべて学生にやってもらうようにしています。たとえば現在、長野県・飯山市で障がい者雇用を活性化させるために企業を誘致するプロジェクトが進行しており、今年の夏は飯山市付近の福祉施設を見学・調査し、行政側とディスカッションすることも実施しました。

飯山市付近にどのような福祉施設があるかを調べ、電話をかけて交渉しアポイントを取る。これらはすべてゼミ生たちの仕事で、上級生が下級生にその段取りを教えます。これもOJTの一種ですね。わたしのゼミでは上級生が下級生に教えるということを非常に重視していて、プレゼンや論文の書き方についてまで、新2年次生が入ってきたときに3年生が教えることになっています。他人に教えるということは、教える当人にとってもかなり効果があるらしく、それぞれ学生たちは目覚ましく成長していきます。

さらに現場をじっくり体験してもらうため、おもに特例子会社(障害者雇用率の算定において親会社の一事業所と見なされる子会社)などにご協力をいただいて、大学院生にはジョブシャドウ(社員に一日ついてまわって仕事を学ぶ手法)に行ってもらっています。今年は4人の院生がジョブシャドウを経験する予定です。またインターンシップでは、やはり同じように希望者が一週間程度ほど特例子会社の雇用現場を見ることになっております。これらは現場を知るという面でも、またマネジメント方法を学ぶ面でも良い機会となっています。

こんな学生に来てほしい

なんにでも関心をもって行動できる人に来てほしいと思います。そういう姿勢でいれば、さまざまな現場を自らの足で見に行って社会と交わり、自ら考えたことを情報発信できる学生に育ちますから。また福祉を勉強するというと、ビジネスとは無縁の学問と思われるかもしれませんが、そういうことはありません。対人援助というのは、助けを求めている人のニーズを正しくとらえることから始まります。どんな企業でも、顧客・消費者のニーズありきですよね。福祉はビジネスと遠いようでいて近いのです。福祉問題に真剣に取り組むことにより、どんなフィールドにも対応できる一生モノの能力が身につくことに気づいてもらいたいですね。

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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。