早稲田塾
GOOD PROFESSOR

中央大学
法学部 法律学科

秦 公正 教授

はた・きみまさ 

神奈川県生まれ。1997年青山学院大学法学部卒。2002年早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。山形大学大学院ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー中核的研究機関研究員をへて、03年東亜大学法学部専任講師。04年平成国際大学法学部専任講師。06年平成国際大学法学部助教授。07年中央大学法学部准教授。14年より現職。 

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秦研究室が入る2号館「総合研究棟」
中央大多摩キャンパスの正門付近

民事法学における「手続法」研究の専門家

――今週は、中央大学法学部法律学科の秦公正教授にご登壇ねがう。専門は「民事法学」および「民事訴訟法」。まずは民事訴訟法を専門分野になされたきっかけからお聞きしていこう。

わたしは青山学院大学法学部に93年に入学したのですが、当時はバブル経済が崩壊した直後でした。倒産・破産の件数が増えているというニュースが世の中に流れるなか、3年生でゼミを選ぶときに倒産法・破産法の専門ゼミを選ぶことにしました。破産の基本的な手続きは民事訴訟法が定めており、破産法や倒産処理法を本格的にやる前に、これを勉強しなければならなくなったという感じです。そうしたら、むしろ民事訴訟法のほうが面白くなって次第に興味を抱いていきます。早稲田大学大学院では民事訴訟法が専門の先生のもとで更に勉強を進めました。

――じつは民事訴訟法の法学研究者はあまり多くないという。

わたしが専門とする民事訴訟法は六法のひとつですがその中ではニッチな分野で、いわゆる手続法の一分野になります。ある意味「法律のプロ」が使う法律で、一般の方々が日常生活を送るうえで意識することはほとんどありません。民法や刑法などと違って興味を持つ学生が少なく、研究者自体も少ないですね。ただし、実際に法廷に立つ人や法曹関係者にとっては刑事訴訟法同様に非常に重要で身近な法律ともいえるのです。

――法曹界のプロを国内のどの大学よりも輩出しつづける中央大法学部としては民事訴訟法などの手続法分野をしっかりと学ぶ必要があるのは言うまでもない。法定手続きの微細なところで裁判のゆくえや関係者の運命が変わることも多いとも語る。

たとえば権利を持っていたとしても、訴訟上の手続きを間違えてしまうと、その権利が「無い」と判断されてしまいます。そういう意味では怖いというか、弁護士などが正しい知識をもって対処しないと依頼者の期待に応えられなくなってしまいます。有名な国内外の裁判でもそういう事例は意外に多くあるのです。

――ただし、どうしても一般の人々と同様に法学部学生たちも民事訴訟法を学ぶイメージがつかみにくい傾向はあるらしい。

司法試験などの配点上でも、主要六法のひとつでありながら、民法や刑法・憲法にくらべるとウェイトが少ないこともあり、2番目の勉強領域といった扱いになりがちです。法律自体が細かく、専門家だけに通じるような専門用語を使う領域でとっつきにくいこともあります。どうしたら民事訴訟法を学ぶことの面白さをイメージしてもらえるのか、そのために国内外のナマの実例を挙げるなどの工夫をいろいろ凝らして講義を進めるようにしているつもりです。

――このほかの民事法学分野でも秦先生は研究を広げている。

以前には「商標法」や「特許法」など知的財産関連の分野の研究もやっていました。じつは民事訴訟法といっても領域が広く、たとえば強制執行や差し押さえなどを扱う「民事執行法」なども民事訴訟法研究の一領域に含まれます。最近ですと、検索サイトで名前を入れると犯罪の履歴がいつまでも上位に出ていて消してくれというようなトラブルが頻発していますが、そこでは訴訟として判決を求めるというよりは、迅速に解決してくれる別の手続きとして「仮処分」を求めていくことになります。

また10年ほど前にあったライブドアによるニッポン放送(フジテレビ)株式取得の問題や、オリックスと近鉄バッファローズの合併の問題などがあったときにも、仮処分の手続きが大きく注目されました。ここで「民事保全法」という皆さんがあまり聞かない法律の出番となるわけですが、こうした研究にも取り組んでいます。

――さらには東日本大震災後に注目を浴びる裁判外紛争解決手続き(ADR)についても。

すべて訴訟に持ち込まれてしまうと裁判所の負担がどうしても重くなりますから、なるべく裁判所の外で迅速に解決をするというもので、もともと日本はADRが進んでいた国だったのを、70年代くらいから外国が追いかけてきた感じですね。とくに原発事故にともない東京電力へ補償を求める動きに裁判所がどういう判断をするのかは今までの放射能事故の蓄積もないものですから、時間もお金もかかってしまい、結果として被災者の救済もなかなか進まない可能性が強まっていきます。ここで話し合いにより迅速に解決をめざすということでADRが注目されることになるのです。

――ADR制度自体が今後変わることもあるようだ。

最近はいろいろな特別法がつくられて「原発ADR」や「金融ADR」といったことばがニュースなどで報道されるようにもなりました。基本的に裁判や紛争解決の手続きは、スポーツで言うとルールなので、突然大きく変わったりということはありません。それでも野球の試合においてビデオ判定制度を導入するといったくらいの、細かい手続きの進め方に関する変化は出てきます。そういう意味では、訴訟やADRのやり方自体もちょこちょこと変わってきています。原発関連に限らず裁判では感情が先行しがちですが、法律家はそういった部分を整え、法律の専門用語を駆使して闘い合ったり調停したりすることが求められることになります。

――直近の研究テーマとしては「非訟」という分野に興味が向いているとも語る。

先ほどの和解・調停なども広い意味では非訟のなかに入るのですが、実はこうした非訟による法的処理で解決されることが世の中には多いのです。身近なところでは「認知症になった方の財産をだれが管理するのか」と考えたとき、後見人を誰にすべきかといった実際的な問題が頻発します。公開の法廷でおこなわれるわけでもなく、大事件の判決などに比べあまり注目されないところではありますが、こうしたことが家庭裁判所などで手続きがおこなわれることは実際には多く、民事法学上の「手続き」に関心のあるわたしとしては興味を持たざるを得ません。

――「裁判にあらず」というところで世のもめ事を合理的に解決するのが今後ますます重要というのは誰でも直感的に納得するところだろう。秦先生は基本的に法律的な「手続き」に関連した研究分野に興味がおありということが再確認できた気がする。

ふつう法的な手続きについては「訴訟」と「非訟」と対立軸で説明するのですが、その手続きの進め方が全然違います。そうした違いはもちろんのこと、その共通点をふくめて互いをどのように位置付けていくかについても研究しております。そもそも非訟自体がとても広い概念で、後見人の決定もそうですが、遺産分割や相続といった身近な問題も関係してきます。さらには訴訟と非訟との中間領域みたいな分野もあるのですが、とくに手続きが別途定められていないところもあり、そのあたり今後の手続きのあり方についても興味があります。

中央図書館と多摩セントラルプラザ
中央大多摩キャンパス点描

模擬裁判が実質の卒業試験となるゼミ演習とは

――ところで中央大学法学部のゼミ演習は1年次からとることができる。

法学部ゼミの良いところは、学科をまたいで全てのゼミを受講できるところです。転科をするわけではないのですが、興味が向いた他学科のゼミも選択できます。わたしが受けもつ講義は法律学科のほか国際企業関係法学科の学生も多いですね。もともと政治学科は学生数が少ないのですが、3・4年のゼミ演習には政治学科の学生もおります。1年次のゼミは「導入演習」と「法学基礎演習A」というもの。わたしが担当する「法学基礎演習B」は2年生で、それから「専門演習」は3~4年生が対象となります。

――3・4年次の専門演習のことについては……

中央大学法学部では卒業論文が必須ではないので、わたし自身は卒論を課していません。その代わりに実体験をもって訴訟法を勉強するという目的のもと模擬裁判に力を入れております。みんなで半年くらいかけて準備し、最後の授業のときに本物そっくりの専用教室で本格的に模擬裁判をやってもらいます。模擬裁判ではそれぞれ役割があり、その立場によって臨機応変に対応することも求めています。具体的にどういう事件を題材とするかや、それぞれの台詞まで学生自身に考えてもらいます。

――卒業試験というよりは卒業イベントのような形になるらしい。それにしても模擬裁判が実質の卒業試験とはかなりユニークな取り組みといえよう。

傍聴体験をやる法学系ゼミは多いとしても、本格的な模擬裁判を実際にやるところはそう多くないでしょうね。裁判傍聴についてもこのキャンパスからは東京地裁立川支部が近いので年に一度は必ず行くようにしています。そこで見たり感じたりしたことを、自らパフォーマンスとしてやってみましょうということで模擬裁判をやってもらっているわけです。模擬裁判では原告・被告・裁判官・証人といったグループに役割が分かれますが、ひとつのことをやる中でチームワークも醸成されていきます。

――学生・院生を指導する際における指導方針などは。

厳しく指導するような柄でもありませんし、それぞれ自主性を尊重したいと考えています。じつは法律は絶対的な正解があるものではありませんし、どんな事件が出てくるかもわからない時代ですから、あまり凝り固まって最初から決まったことを進めるというよりも、自らの頭でいろいろなことを想像しながら疑問に思ったことをどんどん試すことが大事になっています。そういう力を養うためにも、自ら考え動いて体験してもらうようにしています。もちろんアドバイスは逐次するようにしていますが。

直結する多摩モノレール「中央大学・明星大学駅」

法学部都心移転を機に新たなリーガルブランドをめざす

――ちなみに秦先生は2年前から法学部の入試委員長をやられているとのこと。経済学部とともに実施している自己推薦(AO)入試方式に特に注目が集まるが……

学部内を活性化させるという意味では、人前でしゃべることに馴れていて、ゼミのように少人数で活動するときにもリーダーシップを発揮する人も目立ちます。

――AO試験で問われる理解力や要約力などは実際の法曹業務や法学研究を進めていく上でも必要なことなのだろうか。

他人の話を理解し、その上で自分の意見をうまく伝えられる――今やそういうグローバルなリーガルマインド能力が問われる時代になってきています。導入して6~7年の入試制度なので数自体はそれほど多くありませんが、卒業後の進路希望を見ると比較的に法曹志望の学生が多いようなデータが今のところ得られています。

――中央大学といえば東京大学・早稲田大学などをも凌ぐ法学部としてのブランド力を誇るが、創立130周年を機に都心・後楽園キャンパスへの移転計画も進む。

多摩キャンパスに慣れているだけに計画どおりの移転となれば一抹の淋しさもありますが、これから都心でどう変わるか非常に楽しみですね。どういう学生が入ってくるのか変わるかもしれませんし、入ってから変わる学生も多くなるでしょうね。

こんな学生に来てほしい

法学部の学生だからといって、ひとつのところに凝り固まらずに世の中のさまざまなことを経験してほしいと思っております。そういう意味ではいろいろなことを経験したいという気概のある学生に来てもらいたいですね。司法試験志望の人にとっても、いまや世事に疎いようなタイプではやっていけない時代になってきました。ますます激動の社会変化が進むなかで多種多様な依頼人から様々なことを相談されるわけで、そういう意味でも多様な学生と接点を持つゼミのほうが良い結果になるとも思っています。


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※掲載されている教授の所属・役職などは取材当時のものであり、現時点の情報とは異なっている場合があります。